第11話 筆跡が告げる真実
「どうぞ」ハーデットが言った。
扉を押し開けたのは、背の高い痩躯の男――ブラント葬儀社の主、トマス・ブラントであった。
その眼差しは真摯でありながらも、どこか疑惑の色を帯びていた。
「この書きつけの差出人は貴方でしたか」ブラントは小さな紙片を手に言ったのに対し、ハーデットは柔和に微笑んだ。
「ええ。ここでなら、誰にも聞かれる心配をせず話ができます」
しかしブラントは、ハーデットの柔らかな声音にも警戒を解かず、どう応じるべきか測りかねているようであった。
「大丈夫、ブラントさん。私はすでに、事件の全貌を把握しています」
殊更に優しく言ったハーデットの言葉に、ブラントの瞳が怪訝に揺れた。
「そうです。あなたがクラリッサさんを悪魔の手から救い出したことも、あの支離滅裂な手紙の裏に、彼女自身の錯乱ではなく、兄レジナルドの企みが潜んでいたことも」
「なんだって?」
私は思わず声をあげてしまった。
それを横目で見たハーデットの白い頬には、悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。その端正な容貌と、仕立ての良い衣服、優美な立ち居振る舞いのゆえに、つい彼の心根までが清らかなものだと信じ込みそうになる。しかし現実のハーデットは、むしろ人の驚愕を愉しむところにこそ本性が表れていた。
「なるほど。そこまでご存じとは」ブラントは低く息を吐いた。「ならば、あなたはレジナルドの差し金ではない。むしろ、同じ敵に挑む方と理解しました」
「そのとおりです」ハーデットは薄い笑みを浮かべた。「むしろ力を合わせて、クラリッサさんの真の救済を果たすために、あなたをここへ呼んだのです」
「わかりました。でもなぜ、私だとお分かりになられました?」
「決定的だったのは筆跡です」ハーデットは机に置いてあった短い走り書き――ブラントが葬儀屋の住所を書いて渡してくれたものを持ち上げた。「これと同じ筆跡の恋文が、クラリッサさんの机から見つかりました」
「恐らく荷造りをする際に掴み損ねたのでしょう。私たちの文通は長いこと続いておりましたから、その量も膨大だったのです」ようやく本心を許したと見えて、ハーデットが勧めた椅子に腰かけた。「彼女のことを良く知る私があの支離滅裂な手紙を見たら、彼女に問題があるのではなく、彼女が問題に巻き込まれたと考えるのが自然でした」彼は重々しく語り始めた。




