第7話 交錯する影
ハーデットが横目でこちらを射抜いた。その眼差しには、首なし馭者よりも首なし騎士のほうが世俗受けすると踏んで、会社がわざと書き換えたのでは、という疑念が透けて見えた。
だが私としては、それはスレイドがパブで客と盛り上がるうちに話が変わっただけで、会社の差し金ではないと信じたい。
「有意義な情報を、どうもありがとうございました。よろしければスレイドさんにもお付き合いいただいて、その現場を見に行きたいと思うのですが」
「私は遠慮しておきますよ。あんなに明るい夜に出たんだから、夕暮れ時に出ない保証なんてないんですからね」
今にして思えば、このスレイドの判断が正解だったのかもしれない。というのも、雨は我々の求める証拠をことごとく洗い流してしまっていたからである。石垣を半時計まわりに巡回したという証言をもとに、大体どのように彼が怪奇を目撃したかは分かったが、その程度の収穫にとどまった。
目撃された馬車が霊柩馬車の特徴を備えていたということから、葬儀屋を調べる必要があるとハーデットの意見をもとに、我々はレジナルドの馭者に依頼し、この地区に三つある葬儀屋のうちの一つに向かっていた。
馬車で揺られているうちにすっかり日は暮れたが、雨のほうは弱まってきた。
ハーデットは雨がしたたる窓を通して流れゆく世界を眺めていたが、それは車窓からの景色を楽しんでいるのではなく、黙想に耽っているのだということが何となくわかったから、声をかけずにおいた。
馭者に礼を言って馬車を降りた我々の足元では、雨に濡れた敷石が冷たく光っていた。そしてそれは赤いレンガ造りの、ジョージアン様式の建物に伸びていた。二階建てのこの荘厳な建物は、正面から見ると左右対称で重厚感があり、周りを自然に囲まれていることも相まって、私の目には常闇への入り口のように映った。
鉄柵に囲まれた前庭を通ると『葬儀屋ウーリッジ・アンド・サンズ』という金文字の真鍮プレートが見えた。そのとき、ハーデットがおもむろに口を開いた。
「クラリッサの失踪と首なし騎士の事件は間違いなく関連している」
「えっ、本当に? そんな様子を私は感じなかったが……」
「うん、ほとんど間違いないと思う。……それは間違いないはずなんだ。しかし証明できるか否かは、これから訪れる三つの葬儀屋にかかっている。重要な手がかりを得られずに帰ることになったら、僕は部屋に閉じこもって捜査方法を再考せねばなるまい」
足早に歩くハーデットは受付に目もくれず、隣接する厩舎小屋を目指した。灰褐色の石材はしっとりと落ち着いた色を保ち、扉の真鍮金具はつややかに磨かれていた。彼は無言でその外観を一巡し、扉を開いて中へと入った。内部には藁がきちんと敷き詰められ、馬具の類が整然と壁に掛けられていたが、彼が目を留めたのはそこではなかった。
彼は床にわずかに残る土の跳ね、車輪や蹄の痕跡を丹念に見回し、それから首を横に振った。
「使われた様子はないね」残念そうではあるが、予想の範囲内であるという考えをその表情から読むことができた。
厩舎小屋を離れた我々は、馬車を降りた地点まで戻り、葬儀屋まで伸びる敷石の心地よさを足裏に感じながら正面玄関にたどり着いた。
雨に濡れた土を思わせる深い茶色の木製扉は、時の重みを湛えながらも艶やかに磨かれており、訪れる者を静かに迎え入れている。
ハーデットが手をかけると、重厚な蝶番が控えめな音を立てて開いた。