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アレクシス・ハーデットの事件簿  作者: 牧嶋 駿
首なし騎士と消えた花嫁
12/22

第3話 雨音と沈黙のあいだに

 私にとっては明瞭めいりょうな説明であったが、ハーデットはすぐに質問を投げた。


「妹さんがヒステリックになられたのはいつ頃からでしょうか?」

「そうですね……大体……」レジナルドはシャツについた円形のカフスリンクを親指と中指で弾いて音を鳴らしながら考え、「一、二ヶ月ほど前かと思います」


 レジナルドの返答を聞いたハーデットは、今の説明に何か引っかかるところでもあったのだろうか、細いあごに手をやりじっと何かを考えこんだ。


 私はハーデットの中性的な白い横顔、彼の顔を正面から見る疲弊ひへいしたレジナルド、そして雨のしたたる窓を順番に見て深く息を吸い込んだ。


 しばらくは窓を打つ雨音と、暖炉でまきぜる音が部屋を包み込んでいたが、コツコツと一定のリズムで音が鳴るので視線をやると、レジナルドが肘掛けを指で叩いていたのだった。そして懐中時計を取り出して時間を確認したときだった。


「おや! ずいぶんと良い懐中時計のようです」唐突に放たれたハーデットの言葉に、私もレジナルドも面食らってしまったが、ハーデットは構わず続け、「私は懐中時計に目がないものでして、よろしければ見せていただけませんか?」


 もう何回も会っているのに、こう無理矢理にでもじ込まなければ気の済まないほどに、懐中時計が好きであったとは知らなかった。


「は、はぁ。どうぞ」時計を手渡すレジナルドの表情には、酔狂すいきょうな男を下手に刺激しないように注意しているような様子が見えた。


「ありがとうございます」嬉々として受け取ったハーデットが熱心に見ている。「これは、家紋入りですね。ケースの色合いからすると、プラチナですか? いや、少し青みがかっている……もしかするとパラジウムを混ぜた特殊合金かもしれませんね」


 ふと、時計の裏側に小さな傷があるのに気がついたが、綺麗に印がついているので何か伝統的な刻印なのかもしれない。そう思うと、年季の入った風貌といい、確かに格式高い逸品であるように見えてきた。


「どうもありがとう」懐中時計を返しながら、「それでは今からアッシュボーンにある御宅に伺おうと思いますから、先に馬車へ戻って頂けますでしょうか。支度なら五分ほどで済むと思います」


 もっとハーデットからの質問があると思っていたのは私だけではなかったようで、レジナルドも拍子抜けしたような顔をしたのち、呆れたような笑みを浮かべて部屋を出ていった。


「今回の事件も、君の昇進に繋がると良いね」


 今の一連の動きが何であったのかを問う前に先手を取られてしまった。

 しかし私は内心で安堵していた。もとより事件の捜査には同行するつもりだったが、まだ明確にハーデットから許可を得たわけではなかったからだ。


「そうだね。令嬢の失踪事件をやれるだけでもありがたい話ではあるけれど、できれば首なし騎士の事件のほうと絡むことを願わずにはいられないよ」

「僕もさ」すでにグレンチェックの茶色い外套を身に着けていた彼は、薄茶色のホンブルグ帽をかぶりながら言った。


 我々が部屋を出ようとしたちょうどそのとき、雷鳴と共に稲光が走り、降っていた雨がいっそう強くなった。


「ついてないねぇ」窓を一瞥して言ったハーデットに続いて、私も部屋を出た。


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