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記憶喪失になったヒロインは強制ハードモードです  作者: 春目ヨウスケ


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奮闘




 一方。


 教会の上空では、徐々に異変が起こり始めていた。

 この生存競争の勝利が目前に控えているというのに、ここに来て脅威が現れた……そう感じたのだろう。

 黒い空に、それらは無数の羽音を立てて集まり始めていた。

 1匹、2匹というレベルではない。数十、数百、数千、数万と、それは集り群れを作り虫の渦を作り巨大なハリケーンのようなっていく。

 無限に増え、ハリケーンは巨大化する一方だった。


 そんな最中、白銀のローブを閃かせ、ルキウスは、ロベール達の前に降り立った。


「動けるのはお前らだけか?」


 ぶっきらぼうに彼は尋ね、ロベールとアーノルドは顔を合わせる。だが、精霊が即答した。


「僕達だけです」


「そうか」


「星の子、貴方は、何を為さるおつもりで?」


 心做しか、そう聞く精霊の目は輝いて見える。

 だが、ルキウスは精霊を一瞥することなく、未だに光り続ける天球儀を見上げた。


「お前らはコイツを動かせ。俺はお前らの露払いをする。不服だがな」


「……え?」


 動かせと言われても何の為に? そして、どうやって?

 彼らの戸惑いは顔に出ていたのだろう。ルキウスは舌打ちし、ため息を吐いた。


「もしかして何も知らないのか……?」


「俺達は僅かな可能性に賭けただけで、これが何かは知らない」


「ハッ、それでよく起動まで漕ぎ着けたものだ」


 ルキウスは改めて彼らを朝空の瞳に映した。


「これには複数の用途があるが、メインは3つ。1つ目は、聖女の力を増幅させる補助具としての役目、そして、2つ目は、聖女をこの場に召喚する為の装置だ」


「召喚……?」


「今、この世界にミアリーはいない」


「……!」


 ルキウスからはっきりと告げられ、ロベールは目を見開く。更にルキウスは続けざまに付け加えた。


「アイツを取り戻さないといけない。

 この厄災を終わらせる為にも、この世界を救う為にも、アイツの力が必要だからな。

 それがこの装置の3つ目の用途とも関わってくる」


 黒い手袋を嵌め、彼は天球儀に手で触れた。その瞬間、天球儀の前に、光で作られた透明な操作パネルが出現した。

 そこに彼が何か打ち込むと、天球儀の赤道と黄道の間に小さな光を発する星が現れた。


「座標は分かっている。

 とにかく、この装置を回し続けろ。そして、彼女を取り戻せ。いいな?」


 それだけを言うと、ルキウスは彼らに背を向け空を覆い尽くす羽音の方へ歩き出した。

 置いて行かれアーノルドは呆然とする。


「な、なんなんだ! 指示だけ出して!人遣い荒すぎだろう!?」


 彼の厄介な性格は分かっていたが、まさか無茶ぶりされるとは思わず、アーノルドは声を上げる。しかし、そんなアーノルドのそばに居る精霊は依然として、否、更に目を輝かせていた。


「本物の星……初めて見た。やっぱり存在(根本)から違う……はわわわ……」


 そんな2人を置いて、ロベールは1人操作パネルに向かった。その顔は覚悟を決めていた。


「アーノルド、やるぞ!」


 その声にハッとなりアーノルドは顔を上げる。


「殿下!」


「俺達は任されたんだ。彼が露払いしている間に彼女を取り戻す!」


 先程までロベールは彼女に何も出来なかった。彼女を逃がすことも彼女を助けることも何も出来なかった。

 しかし、今、挽回のチャンスが来た。

 彼女もこの世界も自分の手にかかっている。

 出来るのか、不安に思う自分も確かに心の中にいた。だが、ロベールはそれ以上に、大切な彼女の為に、この理不尽な結末に向かう世界の為に、覚悟を決めていた。


「座標は彼が入れてくれた!

 露払いも彼がしてくれる!

 このパネルはとにかく魔力を流しさえすれば動作する!

 ……出来る! 絶対に証明してやる! 口だけの男じゃない事をここで!」


 彼はパネルに手を置いた。




 一方。


 ルキウスは上空に集まり、空を覆う巨大なハリケーンと化したそれを見上げた。


「……兄弟」


 ルキウスは目を細める。彼は上空に目を向けながらもそこにはいない誰かを思い浮かべていた。


「ミアリーもほっといて……本当に馬鹿め……」


 はぁ、と彼はため息を吐く。

 その時、ずっと機を窺っていたのだろう。空から真っ白なドラゴンが翼を広げてルキウスの傍らに降りてくる。

 ルキウスが手を差し出せば、心の底から再会を喜び嬉しそうに目を細め頬を擦り付けた。


「飛べるか、シルヴァ」


 そうルキウスが聞けば、シルヴァは顔を上げ、恭しく頭を垂れる。まるでさっさと乗れと告げているようだった。

 それにルキウスは笑みを浮かべると、彼の背に乗った。

 ルキウスは再度、空を見上げた。


「兄弟、お前が生み出したものを、この空を、俺は全否定する。

 ……こんな空はお前には似合わない。シルヴァリオ男爵家に……俺達の家に帰って来い」


 シルヴァが空に飛び立つ。その瞬間、世界に白銀の光を放つ流星が現れた。

 魔物達は流星を消そうと光に一斉に纏わり付こうとしたが、光に触れた瞬間、砕け散っていく。

 他人の養分を吸って大きくなっただけの彼らでは到底触れられない生きている人間の光。

 それは光の速度で、魔物に覆われた空を切り裂いていった。





「ミアリー、お前もちゃんと帰って来いよ。今のお前の家は死者の世界(あの世)ではなく、こっちなのだから」




 その瞬間、シルヴァの咆哮が、空に轟いた。










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