3. 火に油を注ぐってこういうコト!?
あまりの衝撃に、つい、硬直して思考停止してしまう。
だけど、だんだんと理解して……。
「え、ええええぇ!?」
私は思わず叫んでしまった。その声に言い争っていた彼らの視線が一気に私に集中する。
でも、私はもうそれどころじゃなかった。
嘘だ! そんなの! そんなのだって……!
「じょ、冗談ですよね! それも、底無しに悪い冗談じゃないですか!
私、自分が浮気性の5股の悪女とか信じたくないんですけど!?」
「びっ、ち……?」
知らない言葉だったのか、目の前の王子様は困った顔をした。
この人、意外と純粋な御方なのかも……?
何でこんな御方が私の5人の恋人の1人なのか知らないけど、最早どうでもいい。
私は信じたくなかった。
記憶を失う前の私が最低な女だったなんて!
全身鳥肌が立っている。半泣きになって、彼に私は詰め寄った。
「嘘だと言ってください~! 私、自分が略奪女だったとかそんなの嫌ですぅ! 真っ当な普通の女の子じゃないなんて信じたくないです!」
「略奪……いや、その通りだが、以前、君はこの愛は真実の愛だと……」
「真実? 真実!? ふ、ふざけてるのですか!? 過去の私!
婚約している男を横から掻っ攫って、5股……!? 信じられません! 何でそんな爛れたことしていて真実の愛とか言えるんですか! ただの言い訳! ただの股ゆる女です!」
「……またゆる……とは?」
「ふしだらな女ってことです!前の私は最低なクズ女に違いないんです!」
「くず……おんな……」
王子様がドン引きしてる……。うっ、低俗な言葉ばかり口に出し過ぎたかもしれない。でも、今更引き返せない。
無理ぃ~! 本当に無理ぃ~! 5股した事実にも、しかも、どいつもこいつも婚約者がいたということにも気持ち悪くなる。
相手がいながら関係持ってたとかただのクズじゃん……! しかも、その原因が記憶失う前の私とか何の悪夢なの!
思わずベッドの上で蹲って泣いた。
「もう無理……! もうお嫁に行けない……! うぅ……ぐすっ……このまま独り寂しく償いに生きるしか……」
「償いはさておき、ここにいる誰かが君と結婚するだろうから、独り寂しくというのはないのでは?
その、びっち?な君でも、受け入れているのだから……」
「知らない言葉を無理に使わなくて大丈夫ですぅ!
こんなことして結婚出来るわけないでしょ? 現実的に!
最低な人間すぎて檻に入れた方がよっぽど世のため人のためですよ!
あと、ここにいる誰かって、婚約者いながら私と関係持った人達でしょう!?
私と付き合ったってそのうち絶対また浮気しますよ! 浮気不倫は不治の病だって私、知ってるんですから! 私含めクズはクズのままなんです!」
絶望しかない。
スーパーダーリンがクズになることはあっても、クズからスーパーダーリンはなることはない。それが私の持論だ。
婚約者がいながら浮気し浮気相手の5股を許容した彼らが、真っ当な旦那になるとは思えない。絶対何か問題が起こる……!
これは勘じゃない、確信だ。
そして、それは、記憶を失った今の私にも言えることだ……! 悲しいことに!
「うぅ……あんまりだ……」
顔を両手で覆い泣き崩れる私、だけど、泣き崩れて直ぐに、部屋が異様に静かなことに気がつく。
さっきまでの喧騒はどこに……?
気になって顔を上げて周りを見る……そこには見ちゃいけなかった光景が広がっていた。
「あんまりなのはそちらではありませんか? 」
「あ……」
そこには、とても悪い意味で顔を真っ赤にして私を睨みつける4人の美少年がいた。
そうだった……私の恋人、全員、同じ部屋に居るんだった……。
「私達、文字通り、君の為に尽くしてきたんですよ。彼女達から虐められる君を守り、悲しむ君を励ましてきた。
それをクズですって……!」
「真実の愛じゃないってなんだよ! 僕、君が望むから婚約破棄したのに! 何で他でもない君に貶されなきゃいけないの!?」
「俺達、お前の為に金も愛も時間も貢いだんだ!
それを気持ち悪い? 不治の病? あんまり? よく言えたなぁ!」
「以前の君はどこに行ったんだ!? 自分の経歴が傷ついてもいいと思えるくらい君を思っていたのにこんな……! よりによって君が貶すのか、俺達の愛を!」
怒りの表情でにじり寄ってくる彼らに、私は悲鳴も上げられず息を飲む。
偏見と思い込みで嘆いてしまったけど、それはそうだ。彼らは前の私に尽くした信奉者とも言える人達で……それが今、私のせいで手酷く裏切られたわけで……。
当然、憎さ100倍だよね……。
「…………っ!」
ここに私の味方はいない。王子様の彼も彼ら側だし、彼女達だって婚約者を奪った私の死を望んでいるだろうし、もう詰んだ!
死ぬ……殺される!
ぎゅっと目を閉じてその衝撃に備える。
もう腹を括って死ぬしか……。
だけど、そう思った瞬間だった。
ガラッと音がして、部屋の扉が開いた。
「こんにちは~! いや、時間帯的にこんばんはでもいいのかな?
……まぁ、どっちでもいいんだけど」
飄々とした男の人の声がした。
もちろん、知らない声だ。
気になって恐る恐る目を開ける。
そこには……。
「あのさぁ、ウチの子に何をしてるのかな? 下級生諸君」
綺麗な茜空がそこにあった。
でも、私が見たのは空そのものじゃない。
私が見上げたそこには、黄昏時の空を、そのままはめ込んだような瞳を持つ黒髪の男の人がいた。




