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記憶喪失になったヒロインは強制ハードモードです  作者: 春目ヨウスケ


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20.卑怯だよ




 男爵家の邸宅に帰る馬車の中、お義兄様はふと独り言でも呟くように、断言した。


「あの家、ダメだね」


「え?」


あの家……直ぐに私はそれが前の私が住んでいたあの家だと気づいた。お義兄様は窓辺に寄りかかりながら私に告げた。


「解体しよ。解体。君を助けるためとはいえ、屋根壊しちゃったし、ちょうどいいんじゃないかな?

 それに、あの精霊がまた君を狙う可能性がある以上、1人で住むのは危ないと思うし……。

 ……君だって、あんなこと起こった家、もう嫌でしょ?」


 お義兄様に言われてハッとする。

 そうだ。色んなこと起こりすぎて忘れてたけど、あの家を掃除して私の家にするつもりで来たんだった!

 確かにお義兄様の言う通りだ。ゴミ屋敷だし、結局、あの黒い化け物と、悪霊みたいな精霊が出て来て怖かったし、必要に迫られたとはいえ2階の屋根も無くなったし、あんな家住みたくない。

 でも……。


「うぅ……マイスイートホームの夢が……!」


 あんな家じゃなければ! 私は今日、自分の家が手に入ったのに!!

 理想の天国だと思ったら本当は地獄だったみたいな絶望……!

 神様、私、何かした!? いや、前の私はそれだけのことをしてるけども! 記憶のない私まで巻き込まなくていいじゃない!?


「私だけのお城が欲しかったのに!

 デリカシーがないお義兄様に邪魔されないってだけでも最高の話だったのに、何でこんなことに……!!」


 つい半泣きになってしまう私。その時、ふと、お義兄様の目がだんだんときらきらと輝き出していることに気づく。

 あ、やってしまった。私は直感した。また押したらいけないやる気スイッチ押しちゃった……。

 お義兄様は、これ以上ないくらいその目が輝くと、にぃ、と笑みを浮かべて、ずいっと近づいて私の腰に右腕を回して抱きしめた。


「そっかそっかぁ~ 一人暮らししたかったかぁ。でも残念だね。ミアリー、可哀想に~」


 ……このお義兄様の笑顔、すっごく面倒なことが起こりそうな予感がする。

 一瞬で涙は引っ込み、私は危機感からお義兄様の手から逃げようとする。ところが、抱きしめるお義兄様の腕の力がいつにも増して強い。強すぎる! 馬鹿力にも程がある!


「お義兄様、離してくださいませんか?」


「いーやーだ!

 諦めて僕と暮らそう? ね? 一つ屋根の下でさ~ 同じテーブル囲んで~ 同じご飯食べよ?

 今ならハッピーラッキーエブリデイを約束するよ?」


「それお義兄様だけでしょう! 私は絶対アンハッピーアンラッキーエブリデイじゃないですか!」


「えぇ、酷いなぁ~ 義妹ちゃん、こんなに優しくて? 紳士で? かっこいい? お義兄様が約束してるのに~」


「どこが!?」


 絶対性格の悪いことを企んでるお義兄様に、私は頭を抱えるしかなかった。

 お義兄様にとって私は玩具。多分、おきあがりこぼし的な、突っつくと直ぐにムキになって向かってくる楽しいおもちゃだと思ってる。

 ため息が止まらない。お義兄様のおもちゃなんて疲れるだけだもん! 早く一人暮らししたい!

 はぁ……。でもなぁ……。


「………………っ」


 チラッと直ぐ隣にいるお義兄様の顔を見る。

 その瞬間、お義兄様の茜空の瞳とばっちり目が合ってしまった。


 茜空……。

 そう、この人に、私はあの時助けられたんだ……。


 目を合わせたまま何も言わない私に、お義兄様は首を傾げ私の顔を覗き込んできた。

 だから、お義兄様を視界に入れないよう、そっぽを向いた。


「お義兄様と住むのは嫌ですけど……!

 ……その、これだけは言わせて下さい。

 あの時、助けに来てくれてありがとうございました……」


「……!」


 視界の隅でお義兄様がびっくりしているのが見える。そうなるのも分かる。でも。


「……お義兄様が来てくれなかったら、私、きっと酷い目に遭っていたので……。

 あの時、お義兄様が助けに来てくれて、ホッとして……凄く、嬉しかったんです」


 頬が熱い。

 多分、今、私、人に見せられない顔してる。

 ただ御礼をするだけなのに、相手がお義兄様なだけなのに。

 でも、しょうがない。

 あの時、あの瞬間、茜空を背に私のところへやって来たあの人は……。


 見惚れるくらい、かっこよかったから……。


「私のヒーローになってくれて、ありがとうございました」


私はそう感謝するしかなかった。


「………………」


 ……一向にお義兄様の反応がない。そう気づいて私はお義兄様の方に顔を戻す。

 そこには……何故か空いた左手で両目を覆って俯いているお義兄様がいた。


「お義兄様……?」


 どうしたんだろう。私が呼んでも反応なくて、こんなお義兄様初めてで困ってしまう。

 すると、しばらくしてお義兄様はそっと手を口元にずらし、顔を上げた。


「……君のさ」


 改めて、向かい合ったその顔は、何だか赤い気がして……。


「照れた顔、卑怯だね……」


 絞り出すように、囁かれたその言葉は、らしくなくて、だけど、妙に熱っぽくて……私まで、赤面してしまった。


 馬車に何とも言えない空気が流れる。


 でも、お義兄様は私の腰に回した腕を離さないし、私も何故だか逃げる気を失くして……。


 結局、そのまま帰宅してしまった。







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