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記憶喪失になったヒロインは強制ハードモードです  作者: 春目ヨウスケ


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16/122

16. やだ! こんなの信じたくない!





  夢の自分の家……。

 それはもう楽しみにしていた。

 過去の自分の手がかりになるし、イタズラもされない……これは最高だって!

 だけど、これは聞いてない!


「でも、ミアリー。言ったじゃん。ゴミ屋敷だって」


 うん、そうだ。確かにお義兄様はゴミ屋敷って言ってた。

 でもさ、年頃の女の子の家よね?

 お義兄様が大袈裟なだけで、片付け下手なのかなぁ?ぐらいだと思うじゃん。足の踏み場がちょっと見えないくらいなのかなと思うじゃん。

 だけど……。


「ゴミ屋敷ってか、最早、家が巨大なゴミ箱みたいな状態ですけれど!!?」


 扉を開いたその先は、天井近くまで積りに積もったゴミの山だった。




 (ミアリー)の家は、(一見)可愛らしい小さな一軒家だった。

 周りを小さな庭と背の高い柵に囲まれた二階建ての赤い屋根の家、遠くから見たその外観は可愛い女の子が憧れるメルヘンな家に見える……ただ近づくと分かる。その壁は黒く汚れ、窓は茶色に濁り、玄関灯は曲がり、赤い屋敷も長年の放置で瓦の隙間から草木が生えている。

 ……はっきり言って廃墟だわ。

 そして、中身はぎゅうぎゅうかつパンパンに詰められたゴミの山だ……。


「えっと、本当に私、住んでたんですか?」


「住んでたよ。一昨日まで」


「う、嘘ですよね……? こんな天井近くまで溜まったゴミの山が私の家なんて……。

 奥に入るにもゴミの山を登って屈んで入るしかないし……」


 信じられなくて隣にいるお義兄様を見上げる。絶望して青い顔になって打ちひしがれている私にお義兄様は吹き出した。


「ぶふっ! 萎えた? そこそこ良い顔立ちがシワシワになってブスになってるよ」


「笑わないで下さい……うぅ、私の家……」


「まぁ、気持ちは分かる。

 けど、一応言っておくとね。最初は侍女がいたんだよ? 僕、偉いからね。私情をグッと堪えて君に侍女を付けていたんだ。けど、いつの間にかあの子は勝手に解雇しちゃったみたいでね。

 僕も気がついたらこの有様だったんだ……しかも、住み始めて2年と数ヶ月しか経ってないのに…………」


「は?」


 私は家の中を2度見する。

 家の奥の奥までゴミの山は続いている。2年で、人間がこんなゴミ山作れるのかしら? それこそ一回もゴミを捨てたことがなくて、尚且つ、毎日大量のゴミを出さないと無理な気がする……。

 それに、こんなにゴミがあるってことは……。


「……っ」


 息を飲む。もう帰りたい。

 だって、こんなにゴミがあるってことは、6本足か8本足のアイツらが……特に黒くてデカくてテカテカ光る最悪なアイツが絶対にいる!


「む、無理ぃ! こんな家入れない!」


「おっ、何か動いた」


「いやあああああ!」


 思わずお義兄様の体に抱きつく。

 けれど、突然私に飛びつかれたお義兄様は、キョトンとした顔を浮かべ……必死にしがみつく私を笑った。


「ふっ、どうしたの? そんなに、引っ付いてさ? お義兄様としてはすっごい面白いからいいけど」


「だって! 何か動いたって……!」


「あぁ、うん。さっき拾ったこれ」


 お義兄様はそう言って、手のひらの中にあるそれを私に見せた。

 小さくて赤い外箱、金色の巻ネジに、くるくると回る小さなバレリーナ……お義兄様の手にあるそれは、オルゴールだった。

 ただ明らかに上蓋が取れているし、液体か何かで茶色く変色しているし、バレリーナのスカート部分がばっきり折れて中が丸見えになってて、お義兄様が巻きネジを巻けば、そのバレリーナはガタガタ揺れながら不恰好に踊り始めた……因みに音は鳴らない。

 ゴミだ……。

 そう思った私はふとお義兄様を盾にしながらそっとゴミの山をよく見てみる。

 その山はただのゴミの山じゃなかった……よく見れば、女性物の帽子や手袋、髪留めやイヤリング、指輪、ネックレス……男性が女性に贈るようなプレゼントが積み重なって山になっていた。幾つかは包装紙から出した跡もない……。

 当然、粗雑に扱われたそれらは破損し汚損し、オルゴールと同じようにゴミと化していた。


「……前の私って人からもらったプレゼントを粗末にする人だったんですね……」


「みたいだね。どう思う?」


「サイテーです」


 この山を見るに前の私は毎日のように人からプレゼントをもらっていたのかもしれない。次第にしまう所もなくなって、家がゴミ屋敷になったのかも。でも、山になってしまったこのプレゼントは人が自分を思ってくれたものだ。それをゴミの山にしてしまうなんて本当に最低。

 使わないぐらいなら貰わなければいいのに。


「はぁ……。

 前の私の良いところ、今のところ皆無なんですけど……」


「なぁに? 少しはマシところがあるってまだ期待していたの?」


「だって、今の私が記憶喪失になる前の私なんですよ? 正直、私がこんな人間だったなんて思いたくないですよ……ちょっとは良いところがあって欲しいのに……はぁ。

 それに……変だと思いません?」


「……変?」


「前の私は、とにかく最低でした。倫理観も貞操観念もおかしいし、学校でも嫌われてるし……。

 でも、こんなに他人からプレゼントもらってるのもそうですけど、5股もできるくらい堂々と浮気するには、よっぽど魅力がないと出来ないと思いません?」


 そう、私が聞くと、お義兄様は目を丸くした。今になってその違和感に気づいたようだった。


「…………確かに」


 お義兄様の目が、目の前にそびえ立つゴミの山に向けられる。


「一般人受けする顔とはいえ、肥溜めみたいな最悪な中身をしていた君が、モテた理由……。

 なんでだろう。嫌な予感がするなぁ……」


「嫌な予感?」


「僕、勉強しているのが経営と経済で手一杯なのもあって、あっち方面の勉強は全然していないんだよね……だから、はっきりと説明出来ないんだけど……。

 多分、その手がかりはこの家にまだ残っていると思う……当たって欲しくないけどね」


 そう言って、お義兄様は私の手を取った。家の中に向かっていく。


「は、入るんですか!?」


「そりゃあそうでしょ……確認しないと。それとも先に入る?」


「……え?」


 先に入ると聞かれた瞬間、思考が固まる。

 天井近くまで積み上がった山の奥に行くには、それこそ四つん這いで這って行くしかない。

 そんな状況で先に入るということは……スカートの中身が、見える……!!

 かあっ、と顔に熱が集まるのが分かる。絶対に嫌だ!!


「お義兄様、お先にどうぞ!!」


「うん、分かった……てか、なんで真っ赤になってんの?

 あ、もしかしてスカートの中身が見えたら恥ずかしいとか?」


「なんで分かったんですか!?」


 真っ赤になってそう聞けば、お義兄様は茜空の瞳をこれ以上ないほど輝かせ、興味津々に鼻息を荒くし始めた。


「大丈夫、大丈夫。もし見えちゃっても事故だし! お義兄様、気にしないし、誰にも言わないよ? うん、まぁ、一生覚えておくけどね!

 それか今のうちに自己申告しとく? 個人的に君の趣味にちょっと興味あっ……!」


 その顔に私は無言で平手打ちした。








 上下に狭い通路を這いながら中を進み奥を目指す……気分はモグラだわ。

 早く立ちたい……座りたい……そして、黒いアレが居なさそうな清潔な部屋に行きたい……。

 けど、先に進むお義兄様の様子から望み薄のようだった。


「1階は4部屋あるはずなんだけどね。壁とゴミしかないや……。

 右は台所、左は浴室だったんだけど、その面影もない。窓すらどこにあるか分からないし……こうなると1階にあったリビングルームと居室もダメかもね」


「うっ……」


 頭を抱えたくなる。なんてゴミ屋敷を作ってくれたんだ。前の私! そして、どうやって生活していたのよ、前の私! ホント信じられない!


「お義兄様……ここまで酷いと片付けしてから、もしくは片付けしながら、捜索する方がいいんじゃないですか?」


「うーん、それはやめといた方がいいかも……」


「え?」


「こういうのはね、早い方がいいんだよ。時間を置くと消えるかもしれないからね」


「消える……?」


「杞憂であって欲しいなぁ、ホント……。

 でも、今日のセロン君は別の目的があったようだけど、君の元? 恋人の錚々たる顔ぶれを考えると、不安なんだよね~」


「あ、あの……要領を得ないのですけれど……。

 あと、錚々たる顔ぶれって? 私、1人ぐらいしかよく知らないんですけど……」


「え……まぁ、そっか。昨日の今日だしね。

 君の恋人達ね、肩書きだけは凄く立派だよ」


「立派……?」


「国内有数の豪商の一人息子、王国一の魔法使い、騎士科最強の騎士、宰相閣下の神童、そして、この国の第二王子だからね」


 ……口が開いて閉じなくなった。

 そのとんでもない肩書きに。

 思考が停止する。

 でも、だからこそ……。


「なんでそんな方々が5股を許容(恋人をシェア)しているんですか!?」




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