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記憶喪失になったヒロインは強制ハードモードです  作者: 春目ヨウスケ


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15/122

15.前のミアリーが遺したもの





「家……?」


 話のニュアンス的に本邸の話では無いのを察する。

 家……家?

 私が不思議そうな顔していたせいか、ルキウスお義兄様は険しい表情になる。


「兄弟、説明していないのか?」


 それにお義兄様はムッと頬を膨らませた。


「何でもかんでも僕がしていると思わないでよね! 全く! 面倒事は全部僕が解決してると思って!

 説明してないよ。ていうか、あのゴミ屋敷に今のミアリーを帰らせるのは酷だと思うんだけど……」


「ゴミ屋敷……?」


 今、聞き捨てならない言葉を聞いたような……。

 戸惑う私を置いて、ルキウスお義兄様は淡々と話し出した。


「ミアリー、実はお前には自宅がある。

 前男爵が引き取った当初から前のミアリーはとにかくウザい上にわがままで腐っていた。故に、関わり合いたくなかった俺達は、後見人になって直ぐ彼女を本邸の近所にある適当な家に追い出したんだ。

 そこがお前の家。

 お前の制服も教科書もそこから侍女が持ってきたものだ。

 お前に必要な物はそこにある。家に帰ってみるといい。

 ただ部屋がかなり汚れているという報告がある。よって片付けは必至だ。それだけは念頭に置け、いいな?」


 ルキウスお義兄様はそう言うと、視線をゆっくりと私から……お義兄様へと変えた。


「……あと、これは俺の意見だが。ミアリー、お前は早急に自分のプライバシーが守れる空間を得るべきだと思う。

 毎日どっかのクソガキに部屋に侵入されては気が滅入るだろう?」


 確かに……。そう考えると自分だけの空間は欲しい。誰にも脅かされないプライベートな空間! もちろんお義兄様に邪魔されない ! これ大事! 自分の記憶も取り戻せそうだし、一石二鳥、最高じゃない!

 自分の目がこれ以上ない輝いているのが分かる。心躍る~!

 一方、お義兄様は面白くないのか唇を尖らせた。


「むぅ。そんなに喜ばれると複雑なんだけど~」


「お義兄様の自業自得です。

 もう義妹離れの時期が来たんですよ。私の旅立ち、祝って下さいね。お義兄様」


「え? まだ24時間も経ってないのに!?」


「ルキウスお義兄様、とにかく片付ければ、私は自分の家が手に入るということであってますか?」


「え~! ミアリー、無視しないでよ~! お義兄様、こんな直ぐに玩具(義妹ちゃん)がいなくなるのは嫌だ! もっといて欲しい! 却下だ、却下!」


 とうとう参考書を放り出してお義兄様は私にすがりついてくる。

 そんなこと言われても困る。というか、ウザい。私を何だと思っているんだ、この人は。

 私は無視を決め込んで、ルキウスお義兄様に向き合う。

 目が合って早々、ルキウスお義兄様はため息を吐き、やれやれと肩を竦めた。


「……すまないな。ウチの兄弟が。

 根っからのガキなんだ。放置してくれると助かる」


「……そこは許してくれると助かるじゃないんだ……」


「話を戻すが、前のミアリーが使っていた家は本邸から馬車で3分程の場所にある。

 今の状態でも住めるか、一旦帰ってみてその点も確かめてみてくれ。

 無理だったら昨夜と同じように本邸の客室を貸す。まぁ、その場合、兄弟の不法侵入に警戒しなければならないだろうが……」


「そのくらい自宅獲得までの試練と思えば大丈夫ですっ!

 じゃあ、早速今日帰ってみますね!」


 そう笑顔でルキウスお義兄様に言えば、未だにすがりついて離れないお義兄様が「ぶぅ~」と不満そうな声を発した。


「はぁ~激萎えなんだけど。面白くなー!

 こうなったら君の帰宅に着いて行くから!」


「え……?」


 こんな面倒臭いお荷物いらないんだけど……。

 完全無視を決め込んでいたのに、そう思ったのが顔に出てしまったのか、気づけば、イタズラ好きのお義兄様の顔がこれ以上ないくらい嬉しそうに破顔していた。

 あ、しくじった……。


「放課後、君を迎えに来るから教室で待ってて。

 逃げないで、ね? ミアリー」


「アッ、ハイ……」


 もうこれは逃げられないと悟り、私は諦めた。








 午後の授業も午前中と同じで大変だった……。

 相変わらずつまんないことしてくる人は多いし、集団で何かしようとしてくる人もいて、その全部にやり返していたら午後は凄く忙しかった……。

 その上、私が全部やり返すものだから、教室全体の空気が悪く、常にクラスメイト達の苛立ちを向けられ、それはもう居心地が悪かった。遠目から舌打ちされ陰口を叩かれる始末……。

 はぁ……疲れた。

 でも、慣れた……嫌な話だけどね。

 そもそも私は彼らと仲良くなる為に学校に来ているわけでもないし、いじめられたからって傷つく心もない。

 やられたらやり返す。それだけだ。


「あ、いたいた。我が義妹(いもうと)ちゃ~ん。お義兄様が迎えに来たよ」


 ハッとなって顔を上げると、教室の入口にお義兄様が立っていた。

 いつの間にかもう放課後になっている。いけない。疲れすぎてぼうっとしてた。

 授業終わって直ぐ走ってきたらしいお義兄様は教室の入口で笑顔で私に手を振っていた。なんでだろう。その顔に絶対一緒に行くからね、と書いてある気がする。

 ……はぁ、逃げられない。イタズラ好きのお義兄様と2人きりはちょっと不安だし疲れるけど、約束したしお腹を括らないと。

 まだ教室に残っている大勢のクラスメイトの間を掻き分けて、お義兄様の元へ行く。


「お待たせしました」


「じゃあ、行こうか。

 あ、そうだ! ついでに、甘い物食べに行こうよ~! ケーキとかプリンとかさ」


「お断りします。一刻も早く自分の家が欲しいので」


「冷たっ! 良いじゃん、それくらい付き合ってよ。ケチィ~」


 ぶぅぶぅ文句を言うお義兄様に呆れながら、その隣に並んで歩いていく。

 その時には面倒で最低なクラスメイトのことなんか頭からもう消えていて、どうでも良くなっていた。

 だから。

 私は気づかなかった。

 お義兄様と並んで歩く私を、クラスメイト全員が、驚愕の表情で見ていたことに。


「う、嘘……さっき、いもうとって呼んでなかった?」


「シルヴァリオ男爵家に入ったってこと……?」


「そ、そんな……待ってよ。じゃあ、私達どうなるの?」


「あの方はあの……2年前の……サンチュールの狂夜事件の……」


「まずい……! まずいって! 私達、下手したらあの時みたいに……!」


 顔面蒼白になるクラスメイト達。

 そんな彼らなんか露知らず、私はまだ見ぬ自分の家に思いを馳せていた。




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