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記憶喪失になったヒロインは強制ハードモードです  作者: 春目ヨウスケ


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14. シルヴァリオ男爵家





「やけに遅いなと思えば……何をしているんだ。お前達は。特に兄弟」


 騒ぎが起こっても中庭は未だ人でごった返していた。昼食をする人、黙々と勉強する人、友達と談笑する人、そんな様々な人々が席に着いて各々自由に昼休みを過ごしている。さっきのことなんか嘘みたい。

 そんな喧騒の中、中庭の隅にある4人掛けのテーブルに、ルキウスお義兄様とお義兄様、そして、私で座っていた。

 ……因みに私はここに来たくて来た訳じゃない。「せっかくなら一緒に食べよう」とお義兄様に捕らえられて、無理やり引き摺られてきた。そう、私は被害者。なのに、ルキウスお義兄様はまるで、私も元凶だと言わんばかりの目でお義兄様ともども呆れた目で見ていた。濡れ衣だ!

 一方、そんなルキウスお義兄様に、お義兄様は不満そうに唇を尖らせた。


「この僕を舐めたんだよ、兄弟?

 そりゃ徹底的にやるよね?

 最後は真っ白に燃え尽きた屍みたいになっていたし、大成功したんじゃないかな?

 これも大切なことだよ、兄弟」


 お義兄様はそう語るけれど、ルキウスお義兄様の目の色は全く変わらない。ルキウスお義兄様からしたら、さっきの出来事は、下らない事だったみたいだ。


「身の程知らずな雑魚を分からせた話なぞクソどうでもいい。

 そんなことより、兄弟、経営科は次の時限、テストだと聞いたが?」


そうルキウスお義兄様が話した瞬間、お義兄様はハッとなり、さあっと顔色を悪くした。


「うわっ、そうじゃん! 無駄な時間過ごした!」


 お義兄様は慌ててテーブルの上の昼食を口の中に詰めこみ始める。

 一方、ルキウスお義兄様はため息を吐き呆れ顔を浮かべた。


「全く……お前の個人的感情よりお前の成績だろうが。

 あんな小物にかまける暇あったら、勉強しろよ。成績落ちても研究科の俺はお前を助けられないからな。

 そもそも世迷言を吐いたソイツの商会をさっさ潰せば済む話じゃねえか」


「そうもいかないんだって~ 組織を構成する一個人を潰すならともかく、組織を丸ごと潰すとなったら周囲の影響とか根回しとか色々しないと後が大変なんだよ?

 もうっ兄弟ったら商売とか駆け引きとか知らないんだから好き勝手言わないでよね~」


「話してないで食ったらどうだ? テスト前」


「あーはいはい食ーべーまーす!」


 むくれながら食事を再開するお義兄様を横目に、私は黙々と買ってきたサンドイッチを食べる。

 ふーん、お義兄様は経営科で、ルキウスお義兄様は研究科なんだ……じゃなくて!

 さっきからずっと気になっているんだけど…………シルヴァリオ男爵家って何をしているお家なんだろう?

 記憶喪失だから、何も知らないのよね。男爵家と縁繋ぎになることにこだわっていたあのセロン様を思い出す。彼はただ私と恋人になっただけで成果まで得ていたみたい。だから、シルヴァリオ男爵家に物凄い価値があるのは察せるけど……そこまでだ。

 だからこそ、気になる。


「ルキウスお義兄様、シルヴァリオ男爵家ってどんなことしているんですか?

 ただの貴族じゃないような気がするんですけど……」


 食べるのに必死なお義兄様ではなく、同じくらい詳しそうなルキウスお義兄様に思いきって聞いてみる。

 すると、ルキウスお義兄様は朝空の瞳を動かして私を面倒くさそうに見た。


「……突然、口を開いて何を聞いてきたかと思えば……まぁ、いい。

 男爵家は、一般的な貴族とは違う。説明は確かに必要だろう。

 我がシルヴァリオ男爵家は王宮への出仕義務や国から与えられた直轄領がない代わりに、国の許可のもと、様々な事業を経営し展開し商売をしている家だ」


「商売?」


「俺達は、本質的には貴族というより商人なんだ。 国が一枚噛んでいるだけに一般的な商人よりも自由度は無いし、売上の一部を上納しないといけないがな。

 それでもよくやってる方だろうよ。今、ウチがやってる事業はあげてもキリがないからな。主だったものだけでも

鉱山業や林業、運送、加工、製造、販売、金融なんかがある。中でも世間一般的に最も有名な我が家の事業は金融だろうな」


「きんゆう……?」


「あぁ、シルヴァリオ金融という名前で金融事業をやっている。俺達のひいお爺様の代からやっている歴史ある金融機関だ。

 まぁ、当然、ただの金融機関ではなく……」


 そうルキウスお義兄様が言いかけた瞬間、参考書を片手にお義兄様が私にずいっと身体を寄せてきた。そして、楽しそうに。


「……賃金業者。ふふっ、それも貴族と商会が主な相手のね。シルヴァリオ男爵家は色んな貴族や商会にいっぱいお金を貸すお仕事をしてるんだよ」


 賃金業者。賃金業者!?

 シルヴァリオ男爵家……ただの貴族じゃないと思っていたけど、本当にただの貴族じゃなかった。あれだけ裕福なのも頷けるわ。

 でも、それにしたって何だか恐れられすぎているような……。

 私が考え込んでいると、参考書をテーブルに置いて、お義兄様が私の肩を抱き、顔を覗き込むように屈んで私に笑いかけた。


「びっくりした?」


「ま、まぁ……」


「だよねぇ~? ふふっ、そんなミアリーにイイコト教えてあげる。

 もし人生の中で借金しなくちゃならないことがあっても、ウチの金融で借金はしない方がいいよ~」


「え? ご自分の金融機関ですよね? 何でそんなこと言うんですか?」


「確かにそうだね。でも……嫌じゃん?」


「……嫌? 何がですか?」


 首を傾げる私に、お義兄様はふと、私の耳元に唇を寄せた。そして、そっと……。


「だって、もし君がいつまで経っても借金を返さない困ったお客様になったら……君を、しばって、さらって、そして……ふふっ。

 今まで色んな人達にそうしてきたみたいに、君を()()しないといけないからね?」


「……っ!」


「僕にそんなことさせないでね? ミアリー」


 そう言い含められ、お義兄様の腕の中で息を飲む。取り立て屋もやってるの。シルヴァリオ男爵家……怖っ。

 すると、見かねてか、はたまた目に付いてか、ずっと黙っていたルキウスお義兄様が眉間に皺を寄せ、うんざりしたように息を吐いた……。



「……兄弟。テストは?」



 その一言にお義兄様はハッとなり、私から顔を上げた。

 もうその顔にはさっきの笑みはなく、焦りしかなかった。


「あぁ! ミアリーからかってる場合じゃなかったんだった!」


「馬鹿だな、兄弟は。3歩歩いたら忘れる鶏かよ」


「だって~!」


 すっかりいつものお義兄様に戻ったお義兄様は、慌てて鞄を取り出し、ノートを引っ張り出す。

 汗をかきながら真剣な顔で参考書を捲りノートを取る姿は、さっきまで見せていた顔と全く違っていて……何だか笑えてしまった。


「ふふっ……」


 たった半日だけで、怒ったりやり返したりうんざりしたり肝が冷えたり、色んなことが起こったし、クラスに帰ったらまたあのろくでもないイジメが待っているけど、最早どうでもいい。


「なんか、スッキリしちゃったな……ふふっ」


「なぁに、ミアリー? 急に笑っちゃってさぁ~」


「兄弟のアホ面が面白かったんだろ」


「えぇ、絶対違うよぉ~! 兄弟の仏頂面の方でしょ!」


 教科書から顔を上げてお義兄様は怒る。だけど、ルキウスお義兄様は涼しい顔だ。無表情と言っていい。

 そんな時、ルキウスお義兄様の朝空の瞳が不意に私に向けられた。


「お前、今日は流石に家に帰るだろう?」




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