13.お義兄様……? お義兄様?
お義兄様は私の元へやってくると、私の肩に手を回し密着してきた。相変わらずの距離感だわ。
そして、予想通り、見上げたその先にある茜空の瞳を見れば、そこには私しか映っていなかった。
「こんな学校のど真ん中で揉め事起こすなんて、初日からぶっ飛ばしすぎじゃない?
もしかして四面楚歌だからって全方位攻撃決め込んだの? それとも単純に人間関係の構築が下手くそなの? 何で派手に真正面からやり合ってるの?馬鹿? 真正の馬鹿なのかい?」
「馬鹿って言った方が馬鹿だって話、知ってます?
あと、絡んできたのは向こうです。私は何もしていません」
「えぇ、そうは見えなかったけど?
どこに雑魚とはいえ仮にも恋人に真っ向から無能って煽る人間がいるんだよ」
「あら、ならいませんね。この人はもう恋人でもありませんし、私、煽ってなんかいませんもの。事実を言ったまでですから」
「…………。昨日までの素直な君の方がマシだったかも。どこ行ったの、昨日の君」
「さぁ? 毒ばっかり吐くお義兄様達と一緒に居たらこうなりました。
記憶が無い分、無意識にお義兄様達を参考にしたのかも知れませんね」
「は? 原因、僕達? えぇ……大失敗したかも……」
そんな時、ふと視線に気が付いた。
その視線の先を見ると、そこにはすっかり血の気が引いて真っ青になったセロン様がいた。
「な、何でお前、男爵とそんなに親しげなんだよ……。
てか、我が妹って……いや、待てよ……」
私を指差して愕然となっている彼。でも、しばらくすると、何故か段々と口角を上げ始めた。なんでだろう。嫌な予感がする。
そしてとうとう喜色満面の笑みを浮かべた彼は、私に迫ってきた。
「お前、もしかして男爵の妹になったのか!?」
「……は?」
「な、何だよ! 怒って損した! 妹になったなら早く言えよ! 鈍臭い女だな!
さ、婚約しよう。結婚でも良い!今のお前は何か地味だけど、それは化粧すればいいだけだろう。顔がめちゃくちゃいいお前なら客引きだって出来る。
だから……っ」
でも、そんな気色悪い妄言はそれ以上続くことは無かった。
ふと気づけば、喜色満面だった彼の顔は再びすっかり青ざめていて、その目は私のすぐ隣に向けられていた。
「オーブリー商会だっけ? あんなに歴史ある商会の跡取りがこれとはね。商会長さん、かわいそー。
まぁ、どうでもいいけど。こんな馬鹿を跡取りにした商会長が悪いのだし」
私の肩からお義兄様の腕が離れていく。そんなお義兄様を私はそっと見上げる。
そこには昨日見た、あのゾッとするぐらい冷たい目をしたお義兄様がいた。
「……っ……」
私に向けられているわけでもないのに、冷や汗が止まらない。
その瞳には、容赦もなく、情も一切なく、ただそこには絶対零度の怒りだけがあった。
「君の言葉を聞いてると、耳が腐っていくようで本当に不快だよ。
てか、何? 婚約する? 結婚?
よく言えたよ、このシルヴァリオ男爵家当主であるこの僕の前で……」
「……う、あ……」
彼は青ざめたままふらつき尻もちを着きそうになる。けれど、お義兄様はそれを許さず、彼の胸ぐらを掴みあげて無理やり立たせた。
「僕を舐めすぎじゃない?
家人を目の前で馬鹿にされても黙っていると思ったの? それともミアリーだから良いと思ったのかな。
どっちも当然アウトだよ?
あははっ、 君のこと、今までミアリーのお財布その1としか思ってなかったけど、考えが変わったよ。君ってさ、無能なだけじゃなくて、どうしようもなく性根が腐った子なんだねぇ?
あーあ、ウチとオーブリー商会との取引、考え直そうかな?
結構な大口契約を結んでいたけど、君みたいな虫唾が走る馬鹿が居るなら無かったことにした方が得策な気がするよ、うん」
「……!!」
青ざめていたセロン様が、その瞬間、飛び跳ねるようにお義兄様の手から離れると、地面に着きそうなくらい頭を下げた。
「し、失礼を致しました! ふ、深く、お、お詫び申し上げ……」
でも、お義兄様は許さなかった。
「ねぇ、それでいいと思ってる?
ちゃんと何に対して謝罪しなければならないか説明して謝らないと、謝罪じゃないよ?」
「っ!」
「ほら、この僕に、どんな失礼をしたか、自分の口で、言いなよ。
この……全校生徒が揃っているの中庭の真ん中でさ、はっきりと」
ハッとなってセロン様は周りに目を向ける。
周囲は固唾を飲んでお義兄様とセロン様を見ている。無数の目で、じっと、一言一句聞き逃さないとばかりに……セロン様の言葉を、その無様な敗北の瞬間を、ずっと待っている……。
「………………」
言葉を失うセロン様。そんな彼をお義兄様は急かす。まるで、獲物を隅に追い詰めていくように……。
「ほら、早く言いなよ。僕の昼食冷めちゃうじゃん。
君、実家の商会を守りたいでしょ?
僕が手を引いたら、借金している君んちに何が起こるか、ねぇ、想像してごらん? どうすればいいか、分かるよね?」
「…………っ」
「あ、言う時はちゃんと大声で言ってね。さっきウチのミアリーを怒鳴った時みたいにさ。
もちろん感謝もしながら。
だって、僕への不敬を、社会的な死で許してあげるんだよ? 結構、寛大な処置だろ?」
そう言って、お義兄様は彼ににっこりと笑った……全く笑っていない目で……。
「みっともなく生き恥晒せよ、セロン・オーブリー君」
そう告げた瞬間、彼の悲鳴が中庭に響き渡った。
「う、うああああああああぁぁぁ!!」




