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記憶喪失になったヒロインは強制ハードモードです  作者: 春目ヨウスケ


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12. いちゃもん以外の何物でもない




 濡れていない制服を手に入れてたのも束の間、ちゃんと10倍にしてやり返すと言ったのに、クラスでの私の扱いは全然変わらなかった。

 あの女の子達はすっかり意気消沈して何もしなくなったから良かったけど、私だけプリントを渡さなかったり、座席に画鋲を置いたり、私に向かってこっそり消しゴムを投げてきたり、、偶然装って私の椅子を倒してきたり……あげるのも億劫なくらい、酷かった。

 だから、私は有言実行した。

 プリント渡さなかった人のプリントを横から掻っ攫い、画鋲の個数を増やしてやり返し、消しゴムは即座に投げ返して額に当て、、私の机をひっくり返した彼の机の天板をボンドで床にくっ付けた。

 多分、これは根比べになると思う。

 先生もずっと静観して放置してるし、彼らは私は虐めるべきものだと思ってるみたいで、この程度じゃ全然止めない。

 彼らが諦めるまで虐めに虐めを返す地獄のラリーを続けるしかないみたい。

 更に、ため息が出ることに……。


「はぁ……クラスの外でもこれなのね」


 昼休み。購買で買ったサンドイッチを抱えて何処かで食べようと思ったら、見知らぬ女子生徒にわざとぶつかられて、ヘラヘラ笑われながらサンドイッチを踏み潰された。

 明らかに私より上級生の彼女は、友達と一緒に、私を笑いながらどっかに行った。

 それも周りに大勢の生徒がいる衆目の前でだ。なのに、彼女の犯行を見ていた誰も彼も私を素通りしていく。

 嫌われてる私ならどうなっていいと言わんばかりだ。

 私は踏み潰されたサンドイッチを拾って、頭を抱えた。

 終わってる! この学校!


「……はぁ。めげない、しょげない、へこたれない……」


 踏み潰されたサンドイッチは諦めるしかない。

 私は前向きになれるおまじないを口に出しつつ、気を取り直してまたもう一度購買に向かった。


 それにしても妙よね……。


 昨日、保健室であの彼女達は私の虐めは嘘だって言ってた。

 でも、実際には誰もが目につくような場所でも私は虐められている。

 なんで彼女達はあんなことを言ったんだろう……? 気付いてなかった? 彼女達のその言葉自体嘘だった? もしかして虐めに関わっていないって意味だったのかしら?

 それに、それだとあの時の王子様達の言葉も気になる。

 彼らはいじめの主犯は彼女達だと糾弾していたけど、あの教室にもここにも彼女達の姿はない。

 彼女達は彼らの元婚約者だし、動機はあるだろうけど……どういう経緯(いきさつ)で彼女達が主犯だと判断して糾弾していたんだろう。 多分、理由あってのことだと思うけど、まさか思い込みで彼女達を?

 はぁ、色んな推測ができるけど、記憶喪失の私にはさっぱりだ。

 あれから彼らの姿もないし……。


「まぁ、どっちも信用ならないってことか……」


 購買で買い直したサンドイッチを片手に、中庭に行く。

 お昼を食べる学生は皆、ここに行くみたいで、テーブル席やベンチが置かれた中庭は人でごった返していた。

 そこで気づいた。人混みをよく見ると、見覚えのある人たちがいた。

 あれは……昨日保健室で見た、腰まである藍色の長い髪の女の子と……ピアスを着けた赤髪の男の子だ。

 女の子の方は、侍女を傍らに置いて優雅に豪華なバスケットに入った昼食を1人で黙々と食べていて、そこから随分離れた場所にいる男の子は友達らしき誰かと愚痴とか不満でも話しているのか不機嫌そうな顔でホットサンドを食べていた。

 …………気まずい……。

 他の場所で食べることにして、引き返そうと踵を返す。

 その時だった。


「おいっ! ミアリー! お前、学校に来ていたんだな!」


 後ろから私を呼ぶ言葉遣いの荒い誰かの苛立った声がする。

 はぁ、私に安息の時間は無いみたい。イヤイヤながら振り返ると、そこには私を見つけて走ってきたらしい息を切らした赤髪の男の子がいた。

 ……この人、前の私の恋人(5股)の1人よね?

 でも、その顔は恋人に向けるとは思えないほど嫌悪感と怒りに満ちていた。


「……なんでしょうか」


「お前のせいで、俺は大損害だ! この悪魔!」


 悪魔……?

 名前も知らない彼氏に罵声を浴びせられ、私は首を傾げるしかない。ていうか、付き合っていた女の子に悪魔とか酷すぎない!?

 頭に血が上るのを感じながら、でも、この人より大人な私は、ぐっと抑えて平静を装うことにした。

 

「お話ならここではなく別のところでしませんか?」


「いいや、ここだ! オーブリー商会の跡取りである、このセロン・オーブリーをお前は騙したんだ!

 逃げ場は与えない!」


「はあ……?」


 彼の話は、記憶喪失の私にはさっぱり分からない。名前を聞いても何も思い出せそうにない……一応、5人中1人の恋人だったのに。

 ていうか、この人、私が記憶喪失だって知っているはずなのに、何でこんなに怒っているんだろう。何にも思い出せないから反省も出来ないし対処も出来ないからお互いに困るだけなんだけど……。

 気になっていると、その顔を真っ赤にしているその人は中庭の真ん中で私を指差した。

 ただでさえ、この人混みの多い場所、彼が叫んだだけで衆目の的になっているのに、指を差されたせいで、私にばかり注目が集まる。公開処刑だわ、これじゃ。この目の前の彼氏……もとい、元カレに、私はげんなりした。



「身に覚えがないなら言ってやる!

 お前はな! この俺を誑かした悪女なんだ!

 お前は俺を騙したんだ!」


 唾を飛ばしながら人前で女の子を怒鳴る彼は、とても紳士に見えない。

 セロン・オーブリー……外見は美少年だけど、前の私の見る目を疑うくらい中身は全く良くないブサイクな男のようだった。


「何をどう騙したのです?」


 そう毅然と聞き返せば、彼は何故か勝ち誇ったようにニヤリと笑った。




「お前は、自分がシルヴァリオ男爵家の三兄弟の末娘だと騙り、俺を騙したんだ!」




 …………?

 どうしよう。意味が全く分からなすぎて、呆気を取られてしまったわ。

 確かに昨日、お義兄様が保健室で前の私がそう騙っていたことを暴露した。お義兄様はただの後見人で男爵家とは血の繋がりもないって。

 でも、だからって何で彼が怒るんだろう?

 意味がわからない。

 思わず、彼をじっと見れば、彼は反応がイマイチな私をじれったく思ったのか、更に顔を真っ赤にして私に怒鳴ってきた。


「俺は、お前があのシルヴァリオ男爵家の人間だから付き合ったんだぞ!

 いじめだって庇ってやった! 欲しいと言っていたものは全部与えた! 金だって貢いだ!

 だが、結局、お前は顔だけだったんだ! お前はシルヴァリオ男爵とは何にも関係ないただの平民だったんだからな!

 おかげで笑い者だ!

 俺とシルヴァリオ男爵と縁繋ぎになるから今まで有利な取引が出来ていたのに、一晩で取引相手にお前がただの金銭的援助をされているだけの平民だってバレて、全部おじゃんになった!

 大損害だ! 全部お前のせいだ! クソみたいなお前の!!」


 唾を飛ばしながら、彼はこの中庭で叫ぶ。

 この人、前の私のこと全然好きじゃなかったのね。完全に打算じゃない。

 この人は私を使ってお義兄様達にお近付きになりたかったんだ。でも、結局、私がお義兄様達とは何も関係ない人間だったことで、目論見が外れて、仕事に支障が出た。

 だから、今、怒って……いや、逆ギレしているのか。

 はぁ、ダサい……。


「謝れ! 慰謝料寄越せ! 今までお前に貢いだもの全部返せ! お前のせいで俺は……」


「あら、よろしいんですか? 私がここで謝っても?

 ご自分が無能だってバレることになりますよ」


「……は?」


 私が何を言ったのか理解出来なかったのか、ポカーンと口開けて呆ける彼。

 馬鹿みたい。だって……。


「はっきり言います。

 貴方のそれは、口外に自分は仕事が出来ない無能で、嘘つき女に頼るしかなかったと自ら言っているようなものです。

 そもそも貴方の仕事と私は関係ない話です。本当に有能な人なら自力で仕事を得られますからね。

 なのに、私に全て責任転嫁して、衆人環視の前で八つ当たりして、謝罪させようとするとか……社会的には成人済みなのに、恥ずかしくありませんか?」


 そうハッキリ告げれば、ただでさえ真っ赤だった顔が血管が浮き出るほどに歪む。

 どうやら私の言葉は図星だったみたい。


「き、貴様、この俺をバカに……!」


 でも、その時だった。


「はぁい、そこまでだよ」


 そんな聞き馴染みある、すっかり慣れ親しんでしまった声がした。

 目の前の彼と同時に、そちらを向けば、そこには予想通りの人がいた。


「全く騒がしいと思ったら……我が義妹ちゃんは、本当、僕を飽きさせないよね~。

 困った義妹だよ、ホント」


 ニコニコと楽しそうに良い(悪い)笑顔を浮かべたお義兄様がいた。






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