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記憶喪失になったヒロインは強制ハードモードです  作者: 春目ヨウスケ


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終幕3




「ありがとう。彼らの話を聞いてくれて……」


「いいえ。丁度良かったです。私も伝言がありましたから」


「それについても彼らに代わり感謝させてくれ。

 聖女レイカは、彼らにとって本当に大切な存在だったそうだ……彼女の言葉なら精霊達も改心すると思う。

 もう長くないが精霊王もその為に尽力するそうだ。君との約束を果たす為にも、ね」


 精霊のいなくなったその場所で、ミアリーは、ロベールと2人並んでベンチに座っていた。

 ミアリーとロベールがこうして話すのは厄災のあの時以来だ。

 だが、隣の彼に、あの時の泥だらけだった彼の面影は無く、ミアリーが初めて出会った時の彼とも違っていた。

 身も心も少年だった彼は、苦難や葛藤を乗り越え、たった数日で青年になり、服装だけでなく、顔つきやその雰囲気からして、凛々しい一国の王子になっていた。


「君がいてくれて、本当に良かった」


 ロベールはそう言って静かに目を閉じた。過去を思い返し、懐かしみ、彼は笑みを浮かべる。


「君でなければ、今回のこともどんな結果になっていたか分からない。

 厄災も、厄災のその前もその後も含めて……。

 少なくとも、前のミアリーだったら、人類は滅亡していただろうな……俺も、最後まで戦えなかった。まず気の持ちようから違ったと思う。

 君の為ならば全てを賭けられた。あの時は特に、この俺の手に君の命がかかっていたから……尚のこと、死力を尽くせた。

 本当に君がいてくれて良かった。

 君のおかげで、俺は変われたんだ」


 彼は瞼を開けると、彼女の瞳……晴れ渡るどこまでも澄んだ青空のようなその瞳と目を合わせた。

 その青空の瞳をもう一度見る為にロベールは、あの日無我夢中で抗った。恐怖にも運命にも……。

 今、生きている彼女を目の前にしてロベールは内心、感極まる。彼女が目の前にいるこの現実こそあの時、最も求めていたものだったから、良かったと心の底から思い、安堵し、故につい……。


「君に、婚約を申し込みたい」


 彼女だけをその目に映し、彼らしく真っ直ぐに正々堂々とそう伝えた。

 彼女ほど、この心を揺さぶる人はいない。

 彼女ほど、命さえ捧げてもいい思える人はいない。

 彼女ほど、共に未来を歩みたいと思う人はいない。

 彼女を見つめる彼の目にはそんな彼の思いが如実に現れているようだった。


 だが。


「ごめんなさい」


 彼女は笑みを浮かべ、断った。

 彼の愛も正しく本物だ。ランタンの光のような温かく眩しい光を放つ愛は、居心地も良く穏やかな気持ちになれた。だが、彼女には夕陽のような鮮烈で強烈な大きな光を放つあの愛にもう出会ってしまっている。


「気持ちは有難いんですけど……応えられません」


 彼女はそう言うしかなかった。もう彼女は応えられる立場にはない。

 だが、その答えに、彼は驚くことはなかった。むしろ……。


「………………そう答えると思っていた」


 最初から確信していたのだろう。自嘲するような笑みを浮かべた。


「分かっていたよ。本当は。

 婚約を申し込んでも、もう意味が無いと……」


「…………」


「だが、それでも君に申し込みたかったんだ。

 ……君に思いを告げたかった。

 この俺の恋は、きっと君が最初で最後になるから……」


 ベンチの背もたれに彼は背中を預け、空を見上げた。

 そこには星々が輝く夜空が広がっている。あまりに綺麗な空……しかし、彼の目には何故かぼやけて見えた。


「何故だろうね……確信してるんだ。

 俺は君と以外恋が出来ないって……君の魅力が僕にそうさせるのか、それとも、俺が攻略対象と精霊に呼ばれる存在だから出来ないのか……分からないが、もう予言も運命も変わってしまっている……俺を置いてね。もう直すことも変更することも出来ない」


「殿下……」


 彼女は申し訳無さそうに彼を見上げている。それに気づき、彼は首を横に振った。


「気にしないでくれ。確かに辛いが……この気持ちは俺が抱えるもので、君が抱えるものじゃない。

 それに……俺はちゃんと前に進むさ。

 君の隣に立つことは一生出来なくとも、君の前に立つに相応しい男には今からでもなれるからな」


 空を見上げていたロベールは体を起こし、もう一度、彼女の方へ振り返る。

 ……そこには覚悟を決めた男の顔があった。


「遠くで見ていてくれ。ミアリー

 厄災が終わった今、この国もこの世界もこれからがスタートだ。

 俺は人々を導いてみせる。人と人が手を取り合い、穏やかに笑い合えるような、そんなより良い未来に」


 そう決意を語るロベールに、申し訳無さそうにしていた彼女もハッとなり、彼に微笑んだ。


「期待していますよ、殿下」


「あぁ」


 色とりどりのスイートピーが咲く庭園。

 その真ん中で、大人になりつつある2人が、笑い合う。

 そこには爽やかな風が吹いていた。





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