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記憶喪失になったヒロインは強制ハードモードです  作者: 春目ヨウスケ


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1.目覚めたらそこは修羅場でした




 やけに周りが騒がしいことに、微睡みの中にいた私はふと気がついた。

 聞こえるのは、若い少年と少女がお互いに声を荒らげて言い争う声……。

 それも2人とかじゃなくて何人もいる。

 せっかく良い気持ちで眠っていたのに、なんだって大人数でこんなに騒いでいるんだろう。

 あまりにうるさすぎて、私は目を開ける。

 その瞬間、目に飛び込んで来たのは、見慣れない光景だった。

 真っ白な天井、開け放たれたカーテン、汚れひとつないベッド……。

 そして、こちらを無言で見つめる無数の目……。

 それも。

 何故か私を熱の篭った目で見つめる美少年の目が5人分。

 何故か私を殺意の篭った目で睨みつける美少女の目が5人分。


「………………ひっ」


 その目に私の身体中に穴が開くんじゃないかってくらい見つめられて、私は思わず後退る。

 すると、美少年の1人が……少年達の中で1番品のある華麗な格好をした金髪の少年が厳しい表情で美少女達の方を見た。


「出て行ってくれ。君達のせいでミアリーが怯えている」


 その瞬間、それを皮切りに、美少年達が次々と口火を切った。一様に険しい表情を浮かべる可憐な美少女達に向かって……。


「あぁ、そうだ! 出て行け! お前達はミアリーを階段から突き落とした加害者なんだからな!」


 そう糾弾したのは博識そうな眼鏡の美少年。眼鏡を指で押し上げながら眉間に皺を寄せ不快そうに美少女達を睨みつけた。


「卑劣だ……。彼女を突き落とすなんて……!」


 そう言ったのは、小柄で華奢な紅顔の美少年。おとぎ話の魔法使いのような三角帽子を被った彼は大きな丸い瞳に涙を溜め、美少女達に頬を膨らませた。


「毎日嫌がらせして虐めて、ついには殺人未遂か……おぉ、怖い。このままじゃ危険だ」


 ピアスをつけた赤髪の美少年がわざとらしく震え上がる。この5人の中で最も衣服を着崩し上着を腰に巻いた彼は美少女達を軽蔑した目で見ていた。


「この沙汰は追って我がディストン家が調査する!これ以上彼女を傷つけるな!早く出て行け!」


 そう怒鳴ったのは、この少年達の中で最も体格のいい精悍な美少年だった。騎士見習いなのかその腰には木剣が差してある。


 だが、彼の命令とは裏腹に、彼が怒鳴りつけた瞬間、5人の少年の視線の先にいた美少女達はその綺麗な容貌を苛立ちに歪めながらも背筋を伸ばし胸を張り彼らの前に立った。


 彼女らは真っ向から彼らに相対した。


「お断りします」


 そう毅然と答えたのは、高貴という言葉が少女の姿になったような赤いドレスの気品溢れる美しい少女だった。


「ミアリーさんがこの件は私達とは関係ないと証言するまで……いいえ、私達の身の潔白を貴方方が信じるまで、絶対に帰りません。

 何度も申し上げますが、私達はミアリーさんを突き落としてなどしてません。私達はたまたま横を通り過ぎただけです」


「また戯れ言を!」


 突然、眼鏡の少年が金切り声を上げた。


「お前達はいつもそうだ!ミアリーを毎日傷つけておいてよくも……!」


「行っていないのだから当然では?

 いい加減迷惑なのです。

 ミアリーさんが話しているだけで、証拠もない、謂れもない、嘘の話で貴方方から批難されるのは。それで私達や他のご令嬢方がどれだけ迷惑しているか……」


「あぁ? どの口で言ってんだ? 全部事実だろう!」


 その瞬間、両者の間に火花が散ったのを、私は確かに見た。


「君達は本当汚いよね。僕らが君達の話?」


 帽子を被った膨れっ面の彼がそういえば、頭に大きな黄色いリボンをした可愛い少女が即座に否定した。


「汚い? 汚いのはどっちよ! やってないから証拠も何も無いのに! 酷い言いがかりだわ! 失礼しちゃう!」


 それに、腰まで伸びる長い藍色の髪の少女が何度も頷き、その隣にいた緑色のカチューシャをしたつり目の少女は目の前の彼らを睨みつけた。

 そして、今の今までずっと黙っていた利発そうなポニーテールの少女が口を開けた。


「とにかく、帰らないわよ。今回はとことん居座るわ!

 ミアリーさんにも貴方達にもうんざりなのよ!

 今のディストン家だって信用ならないし!」


 それに体格のいい彼が目を釣り上げた。


「は? 信用ならないってなんだ!?」


「ならないでしょ。ちょっと前の調書、あれ、何よ。証拠の記載も私達や他の目撃者の証言もないし、そもそも調書自体、かなり適当で下手くそだった。

 まるで、誰かさんがディストン家の名前を騙って、急いで書き殴ったみたいにね……!」


「……っ!? 貴様っ! 我が家を侮辱する気か!!

 あんな調書を出さざる得ない方が問題だと思わないのか!

 お前らが嫉妬して下らないことをするからだと!」


「嫉妬? 本当に馬鹿ね! あの女のどこに嫉妬するところがあるのよ!」


 一触即発。

 これ以上ないくらい張り詰めた空気に、思わず鳥肌が立った。

 ……正直、逃げ出したい……。

 けれど、逃げ出せる空気じゃないし……何より……。

 何より……私は……。


「あ、あの……」


 勇気を振り絞って、声を出すと、散らばっていた視線が一斉に私に向く。

 惚気混じりの視線と殺気混じりの視線……私は思わず、悲鳴を上げそうになった。

 でも、ぐっと我慢して、私は、ずっと気になっていたことを聞いた。



「皆様……どなた様でしょうか……?」



 目が覚めた私は、自分の名前も、ここが何処かも、美少年と美少女達が誰なのかも、分からなかった。

 記憶喪失……。

 私はそれになったみたい。

 まるで頭の中で空っぽで、意味が分からなくて不安で……。

 助けを求めるつもりでそう聞いた。

 だけど、一瞬部屋が静かになったかと思うと……その瞬間、私に向いていた目が一斉に別の方へ……お互いの敵へ向けられた。






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