3話「エンブレムとリベレート」
アストリア学院の広大な敷地は、優雅に整備された庭園と荘厳な校舎が目を引く。しかし、カナタにとってその美しさはどこか冷たく感じられた。入学してすぐに配属された「シャドウクラス」は、エンブレムが何も描かれていない。ほかのクラスがそれぞれ満月や三日月を象徴するエンブレムを誇る中、シャドウクラスの生徒はただ「ノームーン」と揶揄される存在だった。
「カナタ、大丈夫?」
隣を歩くエマが、心配そうに問いかけた。彼女はクレセントムーンクラスに属しており、制服には誇らしげに三日月のエンブレムが光っている。
「うん、大丈夫だよ。ただ、この何もないエンブレムはやっぱり気になるな」
カナタは苦笑しながら、無地のエンブレムに目を落とした。彼の首には、授与式で受け取った首輪が常に巻かれている。それは、他の生徒が誇らしげに付けている指輪と同じ立ち位置付けにあたるが、首輪という形は彼だけだった。
「やあ、エマ」
フリッツ・マクアリスター。クレセントムーンに属する彼の制服には、三日月のエンブレムが燦然と輝いている。フリッツはエマを見つめ、微笑みかけるが、その視線が次第にカナタに移ると冷たく変わった。
「君は本当に美しいな。クレセントムーンのエンブレムがよく似合っている。そんな君が、ノームーンと一緒にいるのが不思議で仕方ない」
「カナタは私の友達よ!」
「友達?ノームーンの友達だなんて、君にはもっと相応しい友人がいるだろう」
フリッツはカナタの胸元の無地のエンブレムと、首に付けられた首輪を指差した。
「見せてやろうか、クレセントムーンに属する者が持つ本物の武器を」
「リベレート!」
その言葉と共に、彼の指輪が輝き、瞬く間に重厚な槍が具現化された。槍は光を放ち、フリッツは得意げにそれを振り回した。
「どうだい?君の首輪とは違うだろう。武器にもならない首輪なんて、君にはノームーンのエンブレムがお似合いだ」
フリッツはカナタを見下ろし、嘲笑を浮かべたまま槍を振るった。
カナタは唇を噛みしめたが、反論することができなかった。
そこに上級生らしき人物が複数の生徒を引き連れてこちらに向かって来た。