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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第97話 兄弟喧嘩(2)

 アレックスとジョンが剣を交える。

 売り言葉に買い言葉でアレックスは返事をしたが、正直俺は賛同できなかった。

 どう考えても勝てないからだ。


 ジョンの戦いをまだ直接見ては無いが、それなりに戦闘経験を積んだ俺でもジョンの強さは理解できる。

 この戦いは、簡単に言えば俺とエルザが剣を交えるのと同じようなもので、その実力差は歴然としている。

 俺がBランクで活躍出来ていても、今のエルザの足元にも及ばないだろう。


 「木刀を―――」

 「いらん。」


 俺が木刀を持って来ようとするが、ジョンは即座に拒否した。

 ジョンは少し離れた所に移動し、アレックスの目を見る。


 「アレックス、構えろ。」

 「……言われなくても!」


 アレックスはその言葉に誘われて、ジョンの前に移動する。

 すでに盾と剣を持っていたのを考えると、ジョンの気配を察知して持って来たのだろう。


 戦闘開始の合図は無い。

 アレックスが盾を構えた瞬間、ジョンは剣を抜き走り出す。


 「――っ!」


 アレックスは少し動揺するが、ジョンが剣の間合いに入る前に剣を抜き、気持ちを切り替えて盾を構える。


 ジョンは抜いた剣をそのまま正面に構え、走りながら突きの構えをする。

 アレックスの間合いに入った瞬間、持ち手と軌道を変えてアレックスの右手目掛けて剣を振り下ろす。


 ―――ヌルッ。


 アレックスの右手にある剣を、剣の側面ではたき落とそうとしたジョンの攻撃は空を切る。それからお返しだと言わんばかりアレックスも剣を振るが、ジョンも攻撃を避けて互いに攻撃を外す。


 「…………。」


 しかし、距離を離したジョンの方は、驚いた顔で目を開いていた。

 一撃で終わると思っていたのか、意外そうな顔でアレックスの顔を見つめる。


 そんなジョンに対して、アレックスは油断をせずに構えを変える。

 一発目からフェイントで撹乱してきた事に警戒してか、さっきよりも体の開きを抑え、盾を突き出して亀のような姿になる。


 あれは俺も何度も見た事がある。


 あの状態のアレックスは正に鉄壁で、崩すには大変苦労する。

 あの構えの時は警戒心がMAXなので、どんな奇抜な事をしても全て流されるのだ。

 ジョンはそんなアレックスが攻撃してこないと理解したのか、無警戒にゆっくりと歩き、再びアレックスの間合いに入る。


 互いに視線を逸らすこと無く、ジョンはゆっくりと剣を上段に構える。


 ―――ボッ!


 上段に構えて数秒後、先に攻撃して来ないアレックスの頭上から剣を振り下ろされる。その速度は先程よりもギアが上がり、初速が速すぎて手がブレて見えてしまう。超近距離のアレックスの体感速度は俺が見ている物よりも速いだろう。


 それでもアレックスはその攻撃を流す。


 「…………。」


 再び攻撃を流されたジョンは、今度は無表情でアレックスを見る。

 その表情は何なのか。

 「帰って来い」と言っていた時とは違い、凄く冷たい目、いや違う、凄く真剣な目でアレックスを見ている。


 ―――フォン!


 流された事など気にしないかのように、ジョンは流された腕をそのまま切り替えし、盾に向けて追撃を加える。

 アレックスは再びその攻撃を流し、ジョンがさっきと同じ様にして連撃を加える。


 目にも止まらぬ速さでの連撃。


 身長差がある事で、通りすがりの人が見たら一方的に上から剣を振り下ろしている虐めの様に映るかも知れない。

 しかし実際はそうではない。

 俺なら足を使って逃げながら避ける様な連撃を、アレックスはその場で全て流して受け切っていた。


 盾の曲線を上手く使い、相手の斬撃の軌道を読んで最小限の衝突で済ませている。


 「…………………。」


 アレックスは、なぜ反撃しないのか。

 それは何度も手合わせをしている俺が一番知っている。

 あの間に相手の速度やリズムを掴み、避けにくい体勢の時にカウンターを合わせる為にタイミングを伺っているのだ。


 「……………………………………。」


 目の前で見応えのある攻防が続く。

 ジョンがその場で剣を振り下ろし、アレックスがその場でその攻撃を流して見せる。

 まるで演舞を踊っている様にも見えるが、彼らは「真剣に当てようとする者」と「真剣に攻撃を躱そうとしている者」なのが凄い。

 やろうとしている事は違うのに、お互いが息を合わせているかの様な攻防が目の前で行われていた。

 ………あれ、おかしい。


 「なんで、カウンターをしないんだ……?」


 いつもだったら既に相手のタイミングを掴み、反撃をしているくらいの時間が経っているはずだ。それなのにも関わらず、アレックスは一向にガードをしていた。


 「……出来ないんだ。」


 俺の呟きにエルザが答える。


 「どういう――」

 「――すぐ分かる。」


 俺がどういう事かとエルザの顔を見るが、エルザは視線を変えずに短く答える。俺もすぐに視線をアレックス達に向けると、その理由がすぐに分かった。


 「〜〜〜〜〜〜〜〜………ッ!!」


 ジョンの連撃は止まること無く浴びせられ、それを捌いているアレックスの顔は苦しそうだった。

 青ざめたアレックスの顔で、ようやく何が起こっているのかが分かった。

 そもそも、この連撃の対処でアレックスは一杯一杯の状態だったのだ。

 それに加え、この連撃はますます加速して行き、息を吸う暇が無い。

 アレックスは、無呼吸・無酸素状態で攻撃を流し続けていた。


 「〜〜〜ッ、〜〜〜ッ……!!!」


 苦しさを我慢しきれず、アレックスのポーカーフェイスが崩れ始める。

 対するジョンは飄々とした顔をしていて、汗一つ無い。

 まるで「本気ではないよ」と見せ付けるかの様なその姿に、ここまでの差があるのかと絶望感が込み上げてくる。


 エルザと俺の力量差を見れば、アレックスとジョンの戦いの結果は自ずと決まっていた。……決まっていたが、ここまで差があるとは思わなかった。

 BランクとSランクの差を、自分ごとのように痛感させられる。


 「〜〜〜〜………―――ッ!」


 我慢比べに引きずり込まれたアレックスは、限界だとばかりにバックステップをする。その動作の前にジョンの剣を流したのだが、ジョンの姿勢は全くブレておらず、離れていくアレックスを目で追っていた。


 「―――――――――」


 アレックスが肺に酸素を送るために息を吸う瞬間、その一瞬の隙を狙って、ジョンは今まで見せていなかったスピードで移動する。

 Bランクまで行った俺でも目で追えない、音を置き去りにするかのような速度で突進をし、俺が気付いた時にはアレックスのすぐ隣に居た。

 アレックスも一泊置いてジョンが隣に居たことに気が付いて、ビクリと反応する。それくらい速度が違っていた。


 そして、ジョンの剣はアレックスの首に突き立てられており、誰が見ても勝者がどちらかは明確だった。


 「クソッ……!」


 アレックスは首に剣を突き立てられたまま、眉間にシワを寄せて悪態を付く。

 そんなアレックスの悪態を聞いたジョンは、そのセリフが負けを認めた事と判断したのだろう、突き立てていた剣をアレックスの首から離し、流れるような動作で鞘に戻す。


 「俺がお前くらいの時でも、数発は攻撃を返せていた。

 その程度では高が知れている。

 家に帰って来いアレックス。……もう十分だろ。」

 「…………。」


 いや、どう考えても才能あるでしょ……。ランクの差を考えてみろよ。

 それに体格の差だって考慮に入れるべきだ。

 明らかにリーチが違い、パワーが違い、経験値が違う。

 そんな不利な状況で、あれだけ攻撃を流し続けたと言うのは凄い事の筈で、才能があるに決まっている。


 「ちょっと待て。」


 ぐうの音も出ないとばかりに項垂れるアレックスに、エルザが割って入る。


 「どう見てもアレックスには才能があるだろう。

 Sランクのお前の攻撃を、あれだけ流せるのは凄い事だ。

 それが分からない程、お前の目は節穴じゃないだろ。」

 「………………………………。」


 エルザの言葉に、ジョンの顔は真顔を貫いていた。

 だが、最後の部分でジョンの眉毛が少しだけ動く。


 「才能とは少し違うんだが、私達には「一人前のハンター」の条件がある。私はもうそろそろやっても良いとは思っていたが、今のアレックスの戦いを見て、行けると判断した。」


 ジョンは無言のまま、エルザに視線を動かして続けるように促す。

 これまでのジョンの言動や行動から、話を聞かないタイプの様に見えるが、自身が認めた人の話は聞くタイプなのだろう。


 俺もエルザの「一人前のハンター」の条件を今まで聞いた事が無いので興味がある。………と言うか、もう一人前なのかと思っていた。


 Bランクに上がってから暫くして、エルザは俺達の狩りに着いて行く事が無くなっていた。「私という補助なしでやってみろ。」と言われ、そしてそれが普通になるくらいはクエストに出ていた。

 なので、それは少なくとも俺達の事を一人前として認めてくれていたからなのかなと思っていたのだ。


 「1人で大型モンスターを討伐する。」


 なんかとんでもない事を言い出した………。

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