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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第95話 弟の気持ち

 ―アレックス視点―


 『お兄様すごーい!』


 小さかった頃の俺は、兄貴に憧れていた。

 歳の離れた兄は、俺の物心が付いた時から英雄だった。


 兄貴がまだハンターになって間もない頃、小型モンスターを討伐した帰り道で中型モンスターに襲われるという不幸が起きた。

 だが、兄は単独でそのモンスターを討伐。

 大きな怪我をすること無く、淡々とその時の状況を説明し、密猟などの違法性が無い事を自身で説明していたらしい。


 それからもハンターとして活躍していき、姉さんとパーティーを組んでからは無双状態だった。Bランクに楽々上がって、Aランクも特に躓くこと無くSランクまで行った。

 その強さを街の人達は「流石だ。」と皆が称賛していた。


 そんな兄のようになりたくて、俺も兄のように剣を握った。

 はじめはそもそも剣を振るなんて事が出来ず、持っただけで重くて手が震えていた。

 それから見様見真似で剣を振っていたのだが、構え方を知らなかった俺はそれはそれは酷い振り方をしていた。

 兄貴はそんな俺に構え方から振り方まで丁寧に教えてくれた。

 重心を意識した剣の構え方、戦闘時の足捌き、素振りをする時に意識する事。


 兄貴のようになりたくて、初めの頃の俺はバティルと同じく両手持ちのアタッカーだった。毎日、教えて貰った通りに剣を振り、少しでも兄貴の様になりたくて頑張っていた。


 沢山教えて貰った。でも―――


 「クソッ………!」


 エレノアが貸してくれた部屋のベッドに横たわりながら、俺は短く悪態をつく。

 部屋の窓からは月明かりが差し込んで、少し埃が舞ってキラキラと幻想的な景色があるにも関わらず、俺の心は荒んでいた。


 家族の事、特に兄貴の事は考えないようにしてた。


 『才能がない』。

 その言葉を思い出してしまうから。


 家出をしてからも強くなろうと努力をした。

 エルザに出会い、バティルとレイナとはパーティーにもなった。

 それから、それまで経験した事が無いランクのモンスターとの戦闘も何度もして、1人だったら何年掛かるか分からないレベルにまで行く事が出来た。


 あの言葉を言われ、家出をし、1人で生きて、周りを見てみたら、順調に成長をしていると感じ始めていた。


 あの家から1歩外に出てしまえば、俺は『才能のある少年』で居られる。


 エルザから才能を認められ、ソフィアからも才能を認められた。

 レイナも才能があると言ってくれるし、バティルは自身が才能の塊にも関わらず、俺に「勝ち越せるようになりたい」と言ってくれる。

 村のハンター達も俺の才能を認めてくれて、あの村に居続ける事を喜んでくれている。サイモン何かは「その歳でその強さなら、Sランクになれる」とまで言ってくれていた。


 俺自身もまだまだ伸びしろがあるのは感じているし、今はBランクだが、体感的にこのランクで停滞するとは思えない。何なら、ちょっと前に狩ったアブールレザルとの戦闘をしてみて、余裕すら感じていたので、今の俺はAランクが適正だと思う。


 しかし、そう思い始めた所に突然兄貴と鉢合わせし、兄貴という冷水を被せられる。


 兄貴は今の俺くらいの年齢で既にAランクのハンターとして活躍していた。

 もう既にAランクとして活躍している事に加えて、同じAランクのハンター達がクエストを失敗し、Sランククエストになる寸前のモンスターを狩っていた程だった。


 俺のように「Aランクになれるかな」なんてもんじゃ無い。

 兄貴は俺の年齢で「Sランクになれるかな」という所まで行っていた。


 兄貴の顔を見た瞬間、「才能がない」という言葉が再び呼び起こされる。


 俺だってこの3年間頑張った。

 兄貴が認めた、兄貴と同じレベルの剣聖エルザに弟子入りしてめちゃくちゃ頑張った。


 エルザの戦闘スタイルが俺と違うと言っても、戦闘のプロであるエルザのアドバイスや指摘は的確だったし、エルザのようなアタッカーが戦闘時に何をしたいかを言語化して説明してくれた事で、バティルとの連携もスムーズになった。

 モンスターとの距離感、足運び、戦闘時に見るべき場所。

 エルザは出し惜しみすること無く、彼女の戦闘経験を俺に伝えてくれた。


 それにより今ではエルザの補助なしで狩りに出掛け、エルザからは「自分で考えて行動、修正していくように」とほぼ免許皆伝の様な状態になっている。


 それでも尚、俺は兄には追い付けない。


 合理的に判断したら、兄の言ってる事は正しいのだろう。

 ハワード家の面子は、兄貴が保った。

 だが、ハンターという職業はいつ死ぬか分からない。

 だから、全員が戦闘に出ると血を残せない可能性が上がる。


 ハワード家は名家だ。


 そこで一番才能の無い俺は、血を残すために安全地帯で血筋の保管として残しておいた方が家の為になる。

 一応、Aランク間近の所まで来ているのだ。

 家の中では才能なしでも、世界的に見たら才能ありだ。

 残す価値は、俺が小さかった頃よりずっと高くなっただろう。


 でも、それでも、俺は剣を置きたくない。


 合理的に考えたら、そうした方が良いのだろう。

 兄貴や姉さんみたいに頭が良い人から見たら、それが妥当な道であり、安牌な選択なのだろう。

 だけど俺は馬鹿だから、その考えを論理的に考えて反論出来ない。


 だから家出した。

 だから逃げ出したんだ。


 自分なりに考えて、自分なりに努力して、自分なりに成長した。


 でも、兄貴の顔を見て思い出す。

 俺は兄貴を超えられて無い。


 兄貴の顔を見て、家族の事を思い出し、忘れていた劣等感が内側から湧き出る。


 「俺は……―――」


 右腕を目の上に乗せ、感情を押し殺すかの様に瞼を押し込む。


 それは怒りか、悲しさか。


 暗い部屋の中で、鈴虫が鳴いていた。

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