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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第94話 兄の気持ち

 ―ジュリー視点―


 「なんで帰って来ないんだ!!」


 焦り混じりの怒声が広いリビングに響く。

 アレックスと久しぶりに会ってから、私達は一旦家に帰っていた。


 「ちょっとジョン落ち着いて、大きな声を出さないでよ。」

 「姉さんは何でそんなに落ち着いてられるんだ!」


 それは目の前で感情任せに叫んでるあなたが居るからだろう。

 それにあなたがアレックスの背中を追っている間、私は同行者に居場所を聞いてもいる。

 ただ、心配していない訳では無い。

 ずっと不安に思っていたし、クエストで出掛ける際は村で聞き込みをして、探してもいたのだ。ようやくアレックスを見つけた時、私もとても嬉しかった。


 「私も心配してたけど、とても元気そうだったじゃない。アレックスのお友達も良く言ってくれてたし、それに『双翼の狩人』と一緒にいるみたいだし、大丈夫なんじゃないかしら。」


 『双翼』は、ここイクアドスで少々有名だ。

 理由は北西にある森に突如現れた凶悪なモンスターを討伐したからだ。

 あの森はイグメンテスに繋がる道であり、重要な交易路でもある。

 そんな道を通行止めしたモンスターに、多くのハンターが狩りに出たが返り討ちにされ、最終的に『双翼』が討伐を成功させた。

 そんな大変な時に私達は何をしていたのかと言うと、私達はSランクのクエスト要請で別の場所におり、帰って来た時にはその問題が終わってしまっていたのだった。


 イクアドスの強者達が返り討ちにされた中で、たった2人、それも女性2人で討伐したという事で街は盛り上がった。

 そして、アレックスもその熱狂の中にいた人物の1人で、私達が帰って来た時には「凄い凄い!」とはしゃいでいたものだ。


 「いぃや、駄目だ!!!」


 ジョンはリビングのテーブルを両手で叩き、両腕をつっかえ棒にして頭を項垂れる。


 「そもそもアレックスはハンターに向いていないんだ。

 姉さんだって覚えてるだろ……! 

 初めてのクエストで傷だらけになって、泣いて震えているアレックスを……!」


 覚えている。

 まだ小さかったアレックスが、まだ基礎も出来ていない状態でクエストに出てしまったのだ。結果はもちろん惨敗で、それ以降アレックスは半年間クエストに出る事が出来なかったのだ。


 「アレックスは安全な仕事に就くべきだ。

 小さい頃から手が器用だったから、手芸とかの裁縫関係でも、陶芸の仕事とかでも良い…! アレックスは俺達の世界に居なくて良いんだ…!!」


 ジョンはアレックスの前だと澄ました顔をしているが、見ての通り、ジョンは心底アレックスが好きなのだ。アレックスが小さい時から可愛がっており、私が覚えている一番古い記憶では、オムツなんかも積極的に変えていたはずだ。

 アレックスが「あに」と喋った時に号泣し、アレックスが初めて立った時に号泣し、アレックスが走っている姿を見ているだけで涙を流している時なんかもあった。

 それくらいジョンはアレックスの事を大事に思っていた。


 「それにしても、アレックス……成長してたわね。」


 歳の離れた弟という事もあり、私もアレックスの事は可愛かった。

 兄の剣を重くてプルプルと震わせながら構えていたあの子が、背丈も大きくなり、ハンターとして、男の子として成長している姿に少し泣きそうになった。

 その事を誰かと共有したいという理由と、ジョンの怒りを抑え、逸らそうという理由でこの話を振ってみる。


 「――ああ!! 身長は163センチくらいで、顔も大人っぽくなってきてた! 可愛さが抜けていくのはちょっと悲しいけど、そんな事は分かってたことだ! あの顔だと大人になったら凛々しい系の顔になるんだろうなぁ! それに、前腕が特に以前より大きくなってた! 片手剣のスタイルだから、俺みたいな両手持ちと違って負荷が掛かるんだろうな! それに首元にほくろが1個増えてたね! アレックスはあんまり肌が出る所にほくろが無いんだけど、見やすい所にあって可愛かったなぁ!それに―――」


 話を振ったは良いが、まさかの怒涛の返答が帰って来た。


 「いやぁ〜成長してたねぇ……。」的な感じで、アレックスの顔とかが大人っぽくなっていたとかの返答が帰って来ると思っていたのだが、もっと詳細な成長が出てくるとは思わなかった。

 前腕が大きくなっていたとか、ほくろの数が多くなったとか、そんな事をあの短い時間で分かるはずが無い。


 今こうしている間にも、アレックスの成長を喜んで話すジョン。


 3年間会っていなかったからか、その喜び様は凄まじかった。

 頬は紅潮し、瞳孔が開いた目で話す姿は、正直気持ちが悪い。

 だが、こうして喋らせておいた方が良いだろうと判断して、その場では「うんうん」と分かったフリをして頷いておく。


 「そんなにアレックスの事が好きなら、本人に直接その賞賛の声を掛けてあげれば良いじゃない。」


 一通り話し切った所を見計らい、今まで言いたかった事をスッと差し込む。

 だが、答えはすでに分かっている。

 ……この提案はもう何度もやったから。


 「姉さん、それは駄目だ。アレックスはクールな俺をカッコイイ、好きだと言ったんだ。こんな姿を見せてしまったら、アレックスは俺の事を格好悪いと思ってしまう。―――俺はまたアレックスに『カッコイイ』と言われたい!!!」

 「………………………。」


 いつもの返事が帰って来た。

 「いつの話をしているんだ。」と諭しても聞く事は無いので、ジョンにその考え方を変えるように促しても意味が無い。

 ジョンはアレックスに嫌われているのだから、そんなクールな態度をしてしまうと高圧的に見えて逆効果だろうと言っているのだが「そんな事は無い。」と一蹴して聞いてくれないのだ。


 「あぁアレックス…! 帰って来てくれアレックス……!!!」


 ジョンはそう言いながらテーブルの周りをグルグルと忙しなく回る。

 こんなにテンションが高くなったジョンを久しぶりに見れて嬉しい反面、アレックスに会いたくて苦しんでいるジョンの姿は少し悲しさも感じる。

 ジョンの気持ちも分かるので、エルザに教えて貰ったアレックスの居場所を伝えようか――――


 「あぁ…! やっぱり駄目だ、今から探しに行く!!!」

 「はぁ!? もう夜よ?」

 「関係ない! 俺はアレックスと一緒に居たいんだ!!」

 「待て待て待て!!」


 ―――と思った瞬間、ジョンはそう言ってリビングの扉を壊さん勢いで外に出ようとする。

 これは、今言ってしまうとジョンが夜中に向かってしまうだろう。

 それでは先方に迷惑が掛かってしまう。

 なので、私は外に出ようとするジョンを、私の魔法で作り出した木の根で縛った後、そのままジョンの自室に放り込む。


 アレックスの居場所は明日の朝に伝えて上げよう……。

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