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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第93話 やべっ見つかった!

 アレックスに似た青年は、アレックスと同じ茶髪の髪に犬の耳をしていて、アレックスが成長したらこんな感じなのかなと感じさせるくらい似ていた。

 だが目つきはアレックスとは違い、少し鋭い目をしているので、パッと見の印象としては「仕事が出来る男」の様に俺の目には映った。


 「―――なっ!……アレックス、なんだその言い方は。昔のようにお兄様と呼びなさい。」


 アレックスを見つけた時の驚愕の顔から一瞬で切り替え、キリッとした顔で発言の訂正を促してくる。俺はアレックスの兄にあった事に驚くよりも先に、アレックスが兄の事を「お兄様」呼びをしていた事に驚く。


 「お、お兄様ぁ…? おま、そんな呼び方してんの……?」

 「し、してねぇよ! コイツが勝手に言ってんの……!」

 「別に恥ずかしくないでしょ。私だってお兄様って呼ぶわよ!」

 「ソフィアさんは、まあ、名家ですし……でも、という事はアレックスくんも…?」


 名家ぇ…? アレックスがぁ…?

 アレックスの家については俺も気にはなっていたが、本人が喋りたがらなかったから詮索はしていない。

 だが、「才能が無いと言われたから家出をした」とは聞いていた。

 それでも、俺みたいな普通の家の出身かと思っていたのだが、違ったのか……?

 これまで一緒にいて、アレックスの仕草や喋り方なんかを見ても「名家」なんて物は一つも感じる事は無かったのだが……。


 「坊っちゃんは「第2次人獣戦争」で活躍されたジョージ・ハワード様の直系の御子息ですよ。」


 赤髪の女性はそう補足してくれる。


 「……直系だったのか。」

 「系譜はそうかもって話てたけど、直系なのね。」

 「…………。」


 エルザとソフィアは納得したかのような顔をして、バレた事が嫌なのかアレックスは気まずい顔をして下を向く。

 第2次人獣戦争で活躍、直系の子孫と言われてもこの世界の歴史を知らない俺からしたら、どれくらい凄いのか正直分からない。

 あまり歴史とか知らなそうなエルザでも知ってるとなると、結構有名な名前なのだろうか。


 「ジョン。どうしたの、そんな大きな声出して。―――」


 何がなんだかまだ分かってない俺に、またまた新しい人物が顔を出す。

 その人物はアレックス達と同じ髪色をしていて、アレックス達とは違って女性だった。恐らく家族だろう。

 装備はアレックス達の様な戦士の装備をしておらず、レイナやソフィアの様な身軽な格好と杖を持っている事から、恐らく魔法使いだと予測する。

 おっとりとしたタレ目をしていて、兄弟に似ているようで少し違うのが面白い。


 「――ってアレックス! やだー大きくなったわね〜!」


 急に来た女性はアレックスの顔を見るや否やハグをする。

 アレックスの前に立っていたアレックスの兄を突き飛ばし、それを先生と呼ばれていた赤髪の女性が受け止める。


 「お久しぶりです……姉さん。」

 「心配してたのよ〜! 元気そうで本当に良かった〜!」


 アレックスに「姉さん」と呼ばれた女性は、相当嬉しかったのかアレックスの頬をスリスリと擦り合わせて喜びを爆発させる。


 「今までどこに居たの〜!」

 「そうだぞアレックス、今までどこをほっつき歩いていたんだ。」

 「うるせえクソ兄貴! 俺の勝手だろ!」


 そう言ってアレックスは姉と呼んだ女性の手を振りほどき、兄弟に向かって暴言を吐く。

 それからその2人から距離を取り、アレックスは逃げ出すように集会所の出口の方へ走り出してしまった。


 「あっ、待てアレックス……ッ!」


 走り出すアレックスの背を追い、兄の方が声を上げて追い掛けようとするが、アレックスの背丈が周囲より小さいという事もあり、アレックスはスルスルと進んでいくのに対して、兄の方は何度も周囲の人にぶつかりながら掻き分けていく。

 ここは集会所という事もあり、図体の大きい者や装備を着ている事で道幅がますます狭くなっていた。なので兄の方は周囲の人達とぶつかって進みにくそうだ。

 それに加えアレックスは水猿流を物にしているという事もあって、流れを掴むのは並の人間より得意だろう。

 そうした事の差によってどんどんと差が広がっていくが、兄の方はそれでもアレックスを追い掛けて進んでいる。


 「アレックス! アレェェェェックス!!!」


 人の波に飲まれながら、アレックスの兄は悲鳴のような声で叫んでいた。

 さっきまで澄ました顔をしていたので、もっとクールで落ち着いた人なのかと思ったがどうやら違うようだった。


 「……アレックスは、元気にしてますか?」


 アレックスの姉はそんな兄弟達のやり取りに視線を送りながら、俺達に向けてそう質問をする。アレックスと会って凄い喜んでいたから、アレックスが走り出して動揺するのかと思ったが、その声色は落ち着いていた。

 いや、まあ、そりゃそうか。

 多分、この人が落ち着いているのは俺達が居るからだろう。 

 俺達が居る以上、また戻って来る、もしくはこの街に居ると踏んでいるのだ。

 案外、冷静に周りを見れている。

 そう思ってお姉さんの目を見るが、その目はとても心配そうで、それでいて愛おしい者を見ているかの様な視線をしていた。


 「ああ。風邪なんかをした事も無かったから、元気だぞ。」


 エルザなりのボケなのかとエルザの顔を見るが、その顔は真剣な顔をしていたので多分ボケとかでは無い。

 お姉さんが言っていた「元気」という単語は、別に体調の事を言っている訳では無いと思うのだが、俺はそんな天然なエルザが好きなので何も言わない。


 「俺達、アレックスとパーティーを組んでるんです。凄いセンスの塊で、いつもアレックスには助けられてます!」


 俺は仲が良い事をアピールした方が良いだろうと思い、アレックスを持ち上げる感じで話してみる。……何かアレックスの家は身分が高いみたいな感じの話が出てたし、機嫌を良くした方がトラブルにならなそうだからな。


 「『黒翼の狩人』というパーティー名で活動してるんです。アレックス君はいつも元気で、気分の面でも助けられてます!」


 俺の意図を汲んだ訳では無いだろうが、素直なレイナは俺の媚に援護射撃をしてくれる。……ナイス!


 「……そうなのね、良かった。」


 レイナの援護射撃のおかげか、アレックスの姉は俺達の言葉を信じたようだ。


 「…申し遅れました。私の名前はアレックスの姉のジュリー・ハワードです。そしてあの子が弟のジョン、この子が同じパーティーメンバーの―――」

 「エヴァ・オルドマンです! 坊っちゃんに水猿流を教えていました。以後お見知り置きを。」


 ジュリーとエヴァはこちらに向き直り、そう挨拶した。

 その姿勢や振る舞いは一般人とは違う感じがしたが、エヴァが話に割り込んで自己紹介するのに一瞬、ジュリーの眉がピクリと動いたので、多分あそこで入ってはいけなかったのだろう。

 エヴァはまだそこが染み付いていない様子だった。


 「エルザだ。ハワード家のハンターという事は、お前たちが『銀の賢狼』か。」


 エルザはマナーなど知らんとでも言うかのように短い自己紹介をした後に話を進める。「ちょっとちょっと……ッ!」とツッコミを入れたくなる人もいるだろうが、俺もどちらかと言うとエルザと同じなので何も言うまい。……これくらいシンプルで良いんだよ。


 「ええ、そうです。私は魔法使いで―――」

 「私はタンクです!」

 「……エルザさんとなると、もしかして『双翼の狩人』のエルザさんですか?」

 「ああ、そうだ。」

 「あ、『赤鬼』…!?」


 エヴァはエルザが双翼と知ると否や目を見開き、ジュリーの前にスッと移動する。

 ……まるでエルザが狂犬かのような目で見ている。


 「エヴァ、止めなさい。」

 「で、でも……。」

 「アレックスの知り合いに失礼な事はしないの。……すいませんエルザさん。」

 「……いや、慣れている。」


 昔のエルザは尖っていたと聞いていたが、ここまで警戒されるとは……。

 どれだけ凶暴だったんだ……?


 「母さん、よく警戒されてますね。」

 「………。」


 俺の言葉にエルザは気まずそうに下を向く。


 「私はお祖母様の手紙で色々と知らされていたので……その、すいません。」

 「手紙…もしかして、現当主か……?」

 「そうです。当時の手紙に、それはもう荒れに荒れていたとか……。」

 「……………………。」


 『現当主』という単語に興味を惹かれるが、そんな事よりも、エルザの肩がさっきよりも落ちていくのが心配だ。

 過去に行った事がここでも掘り出されてしまい、残りライフが急激に減っているのが、その肩の傾きから察することが出来る。


 「へぇ〜、それって私達が出会う前の話よね! 気になるわ!」

 「いやいや、アレックスを俺達も追わないと!」


 流石にアレックスに不幸が起こるとは考えられないが、もしもの事がある。

 エルザが「誘拐されるかも」と言って俺の手を握っていた様に、最悪の状況を想像しないのはハンターとして問題だろう。


 「それもそうね!」


 ソフィアも俺の言葉に賛成してくれる。

 知識欲を優先して留まるとちょっと思っていたので、その答えに少しだけ安堵する。……アレックスの身の安全を優先してくれて。


 「あの、どこに泊まられているかを聞いても良いですか?」


 集会所を離れようとした俺達に、アレックスの姉であるジュリーは俺達にそう聞く。


 「エレノアさんの家よ!」

 「エレノア……そうですか。ありがとうございます。」


 言っても良かったのかという疑問が残るが、あの喜びようを見たら、相当心配していたのが伺えた。なので、教えても良いだろう。


 俺達はアレックスの後を追った。

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