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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第92話 街観光

 イクアドスに着いて2日目。

 エレノアの仕事が2週間程掛かるという事で、特にやる事の無い俺達は、朝にそれぞれの体の寸法を測り終えた後、街の観光をする事になった。


 イクアドスは、前に書いた通り歴史のある街だ。

 元々は小さな町だったが、平地広がっているという事もあって人が集まり、どんどんと土地開発が進んで大きくなった。

 しかし、モンスターの大量発生によって『第2次人獣戦争』が勃発。

 その時は既に広大になってしまった街を、無理やり取り囲んで封鎖をしたのだとか。それによって色々と問題が勃発したのだが、何とか落ち着いて今に至るという事だそうだ。


 「じゃあ、まずは大広間だな! そんでその後に西の繁華街に行こうぜ!」


 アレックスはイクアドスに来てからテンションが下がっていた――いや、警戒していたと言った方が正しいかも知れない―――のだが、レイナと俺の反応を見て気分を良くしたのか、自身が前に出て先導する。


 「良いわね! じゃあその後は集会所に行きましょ! バティル達は驚くわよ!」

 「良いね〜! ここのは確かにデカいから、バティル達はビックリだと思うぞ!」


 ソフィアもアレックスに乗っかり、テンション高く俺達の前を歩く。

 俺も「The異世界」といった風景に感動、興奮していて、アレックス達の後ろに着いて行きたいのだが、走り出そうとした所でエルザに手を握られる。


 「ここは人が多いからな。バティルは迷子にならないように私の手を離すんじゃないぞ。」

 「え……? いや、大丈夫ですよ母さん。子供じゃ…子供なんですけど、迷子になんてならないですよ。」

 「いや、人攫い何かもいるからな。もしもの事を考えて手を繋いだ方が良い。」

 「俺、一応Bランクなんですけど……。」


 エルザは、たまにこうして母性が爆発してしまう事がある。

 最近はその理由を考えていたのだが、ソフィアとお茶会をする時によくこうなるので、ソフィアが何か不安がらせる事でも言っているのではないかと思っていた。

 しかし、昨日はソフィアとお茶会なんてしていなかったので、もしかしたら俺の予想は間違っていたのかも知れない。

 何がトリガーでエルザの母性が爆発するのかは分からないが、本人を不安がらせたく無いので俺は素直に手を繋いだ。


――――――――――


 それから5分ほど歩いたくらいだろうか、アレックスが言っていた大広間に到着する。


 「お〜!」


 大広間に出た俺は、その広さに感嘆の声を上げる。

 すぐに左折したから分からなかったが、あのまま直進したらこの光景があったのか。


 「広ぉ! デカぁ!」


 中心には大きい塔が立っており、一番上には鐘がぶら下がっている。

 それを見た俺は、なぜか東京タワーを思い出す。

 流石に東京タワー程は高くはないが、この世界で考えるとそれくらい大きのではないかと思う。

 あれは確か、電波塔として広い範囲に電波を流す為に高くしたと聞いたが、この塔は鐘の音を広い範囲に届ける為に建てたのだろうか。

 でも、別にここまで高くしなくても良いんじゃないか……。

 日当たり悪くなりそうだし……。


 「ふふん、良い反応ね〜!」


 ソフィアは自身が作った訳でも無いのに、両手を腰に当ててドヤ顔でそう言う。


 「ここは、この前言った戦争の時に建てられた塔で、全域に司令とかを速く伝える為に使われたとか聞いた事があるぜ!」

 「はえぇ〜、今も使われてるの?」

 「今は基本的には使われていないぞ。お祝い事の時とか記念日の時とかに鳴らされるくらい。今はこの街の象徴の一つとして大事に保管されてる。壁と一緒だな。」

 「へ〜。」


 以前の俺なら、こういった歴史的な建造物とかに興味を持つ事は無かっただろう。

 しかし、こういう異世界の歴史の一端を見ると、どうしても興味を唆られる。

 俺が居た世界には、巨大なモンスターや魔法などが無い世界の歴史だったが、この世界は違う。

 その全く違う世界観で、全く違う歴史を持っているにも関わらず、こうして塔を建てたりするという共通点があって面白いと感じる。


 そんな事を考えながら大広間を西に進むと、一箇所だけ異様に熱気のある道が視界に入る。


 「あれは何?」

 「あれが繁華街だぜ! 」


 見ると、そこには1本の大通りが繋がっており、沢山の屋台がズラッと並んでいた。夏の祭りに良くある屋台が凄い数並んでおり、沢山の人達がそこで食事を取っていた。


 「おぉ〜!」


 目玉の塔の近くにお店を開くと言うのは何処も一緒なのだろう。

 繁華街と言うだけあって、とても活気に満ちていた。


 「お〜い、そこの坊っちゃん達〜! 寄ってかないかい?」


 俺がその熱気に面食らっていると、繁華街の入り口に店を構えていたおばさんに声を掛けられる。


 「最近人気の商品を売ってるよ! 歩きながらでも食べれるからオススメさ!」


 何か凄い商売上手そうな感じだ。

 「最近人気」とか「歩きながらでも食べれる」というワードで興味を惹かれる。

 そのワードの組み合わせのおかげで、何だか「立ち寄っても良いかな」って気持ちにさせてくる。


 「おぉ、最近のトレンド! 何それ!」


 アレックスとソフィアはそのワードにまんまと反応し、そのおばさんの屋台の前に向かう。


 「それはね、これだよ!」


 そう言って見せてくれたのは、肉や野菜などの食材をパンに挟んだあの料理だった。


 「何だ、サンドイッチか。」


 エルザはそれを見てそう言うが、屋台のおばさんは人差し指を振って「違う」とジェスチャーをする。

 

 「それとはちょっと違うよ。これは『イクアドスサンド』って言って、肉と野菜を挟んだ、言わば亜種みたいな物さ。」


 「亜種みたい」その単語を聞いたら、俺の世界だったら発狂している人がいただろう。

 目の前に出された料理は「ハンバーガー」だった。

 確かにサンドイッチに似ているけど、大きな肉がある分、ハンバーガーはガッツリ系になるだろう。


 「へ〜、今はこれなのか! 1個頂戴っ!」

 「私も! 何なら皆の分も作って頂戴!」

 「はいよ〜! 出来立ての方が良いだろう? ちょっと待ってな〜!」


 それから、おばさんは慣れた手付きで俺達の分を全て作る。

 作られたハンバーガーは普通のもので、前世の様な盛り付けのハンバーガーではない。繁華街で歩きながら食べれるのが売りのようだし、その方が良いのかも知れないけど、専門店とか出来たら盛り付けが増えるのだろう。

 そして勿論、この世界に包み紙など無いので、おばちゃんから焼き立てのハンバーガーを手渡しで受け取る。


 「いただきま〜す!!」


 アレックスは、皆がハンバーガーを受け取る前に口に入れてしまう。


 「美味い!!!」


 頬張ったアレックスは素直に感想を述べる。

 皆を待っていた俺も我慢出来なくなり、そんなアレックスに続いて手に持っていたハンバーガーを食べてみる。


 「おぉ〜、美味い!」


 肉汁がしっかりとあり、野菜もシャキシャキで食感も良い感じだ。

 パンは肉汁を逃さないをばかりにしっかりと染み込んでおり、肉の旨味を最大限活かす役割をしている。


 「ホントだぁ〜! こりゃ売れるわ!」


 その後に続いてソフィアも食べ、皆もハンバーガーを食べ始める。

 皆の反応は俺と同じで「美味しい」という感想だった。

 思い思いの感想を述べ、屋台のおばさんも嬉しそうだ。


 「今日来たのかい?」

 「違うよ、昨日だよ。」

 「そうかい! じゃあ、まだ見てない所もあるだろう? ここは色々な物が集まるから、もっと見て行きな! そんで、一周してからここに戻って来てくれよ! また違うの出すからさ!」

 「ハハッ、うん分かった! ありがとね!」


 そんな感じでハンバーグをペロッと平らげた俺達は、おばさんにそう言われて手を振って分かれる。そんな気の良いおばさんを気に入ったのか、アレックスは嬉しそうに返事をする。

 あのまま「これもある、あれもある」と出さない所が上手いなぁと思いつつ、俺達は旅行を続けた。


――――――――――


 続いてアレックスとソフィアに連れられて向かった先は、ハンター集会所だった。

 繁華街から北の方角に進み、暫く歩くと、道の先の方でこれまた大きい建物が見えてくる。


 「あれがハンター集会所だぜ!」

 「え、あれ? あれなの!?」

 「そうよ!」


 俺は予想外の大きさの集会所の大きさに、何度も聞き直して確認するが、アレックスとソフィアは俺を面白そうに見ながら返事をする。

 視界の先にあるのは、ドーム状の建物だった。

 高さがそれほどある訳ではない。高さで言ったらさっきの塔の方が大きいだろう。

 しかし、屋根の広さからして、野球場の様な広さをしている建物が広がっていた。


 近づくに連れ、沢山の人や沢山の馬車が行き来をしている。


 「おぉ〜!」


 中に入ると、またもや圧巻の光景に自然と声を上げてしまう。

 入るまでは「何でクエストを受注するのに、こんなに大きくするんだ?」という疑問があったが、中に入って理由が分かった。

 受付とクエストの貼り出し場の近くには食事の場が設けられている。……これはうちの集会所にもある。

 しかし、それ以外にこの中には鍛冶場があったり、素材を売っていたり、ハンターに必要な小道具なんかも売っている店がズラッと並んでいた。

 それに驚いたのが、向こうの方でモンスターの死体を解体していて、どうやら鱗とかの素材も売っている様子だった。


 「こんなに店があるからあんなに大きかったのかぁ……。」

 「そう! ハンターにとって必要なのは、ここに来れば何でもある! 世界広しと言えど、この規模の集会所は片手で数えるくらいしか無い!……って、聞いた!!」


 アレックスは自慢げに語っていたが、最後の方で少し顔が曇り、それから再び自慢げな顔に戻る。


 「へぇ〜、ここのハンターの狩り場は何処なの? ここって平地でモンスター少なくない?」

 「狩り場は主に北にある『アルナール丘』か、北西にある『グリムヴェイル』だな! 南西の方にも行く人はいるけど、ちょっと時間掛かるからその2つがメインだぞ!」


 それから、少しだけここのハンター達の話を聞いた。

 ここのハンター達は、田舎のハンターみたいに「ちょっと行ってくるわ」でクエストをする距離にモンスターが居ないので、速くても1日掛けて狩り場に向かい、1日掛けてモンスターを討伐し、数日掛けてこの場所に戻るという事をしているらしい。

 この街に来るクエストは、狩り場近くの村のハンター達が出来なかったクエストが多いので、比較的難易度が高く、その代わりに高収入なのだそうだ。……まあ、勿論そうじゃないクエストも存在している。そういう簡単なクエストは、村のハンターが先にやってしまうというミスが頻発してしまうので、ここに慣れているハンターはやらないらしい。


 「坊っちゃん―――ッ!!」


 そんな会話をしていると、突然横から女性の声がする。

 周りの会話とは若干違う、少し大きな声で発していたので反射的にそちらを見る。

 俺達のメンバーで「坊っちゃん」なんて呼ばれ方をされる人物などいない。

 なので恐らく、このごった返した人の中で誰かを見つけたのだろう。

 そんな事を瞬時に感じつつも、反射的に大声の方を見ると、そこにはエルザと同じ様な赤い髪の女性が驚いた顔でこちらを見ていた。


 その女性は、片方のもみあげを三つ編みにしているのが特徴的なショートカットの髪型をしていて、エルザとは違って緑色の瞳をしていた。

 その目はこちらを見ていて、俺じゃない、もう1人の男へ視線を向けていた。


 「お久しぶりです! 随分と背丈が大きくなって一瞬気が付きませんでしたよ!」


 そう語りかけるのは俺の横にいるアレックスへ向けての言葉だった。


 「――先生!」


 隣に居たアレックスも赤髪の女性を見て驚きの声を上げる。


 「3年ぶりですね。戻って来られたという事は、もうSランクまで行ったんですか?」

 「いや、戻って来た訳じゃなくて……というか、先生が居るって事は―――」


 アレックスは目の前の女性から目を離し、ソワソワと周囲を確認する。

 俺からしたら急な展開でよく分からないので説明して欲しい。

 ……何ならその目の前にいる先生とかいう女性の事を詳しく教えて欲しい。


 「――アレックス! アレックスか…!?」


 不安がるアレックスの予想が的中した様で、女性の次は男性の声で呼び止められる。


 「―――げぇ!?」


 アレックスはその声に聞き覚えがあったのか、今度は誰よりも速く反応する。

 それから苦虫を噛み潰したかのように、眉間にシワを寄せて男性を睨みつけた。


 「クソ兄貴!!」


 そこにはアレックスとよく似た茶色の髪の青年が立っていた。

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