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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第91話 姉妹

 『エレノア・テイラー』


 妹であるエルザと同じ赤い髪を、顎付近まで伸ばした髪型をしていて、凛々しい顔をしたエルザとは違い、目力があって、勝ち気な雰囲気を持つのが印象的な人物だ。


 元々はエルザと同じハンターをしていたが、エルザがソフィアとパーティーを組んだ時に転職を決意し、エルザとは別れて鍛冶屋として修行する日々を過ごしていた。

 弟子として師匠のやり方を何年も掛け、所作や物の善し悪しなどを見て覚える日々を送るのが普通なのだが、物覚えの良いエレノアはすぐに師匠の技を吸収したそうだ。

 それからすぐに独り立ちをして、鍛冶場を建てる事になる。

 客は少ないながらもその実力は認められているそうで、知る人ぞ知る名工として現在は活動しているらしい。

 エルザやソフィアから聞いた話をまとめるとそんな感じであり、実際に会ってみるまではエレノアがどんな人物なのかは不明だった。


 会ってみての感想は、ヤンキーみたいだなというのが率直な感想だ。


 ハンマーを投げつける所から、エルザの顔を見たエレノアはすぐに家に通してくれる。

 そこまでは良かったが、俺達全員が椅子にちゃんと座っているのに対して、エレノアは片足を座る所に掛けて腕を膝に置くという、全く持ってマナーがなってない座り方をしてのを見ても、ガラが悪いイメージが先着してしまう。

 エルザは「姉さんは人思いの優しい人だ」と言っていたし、ソフィアは「話しやすい人」という評価をしていたので、勝ち気と言ってもそれなりにマイルドな感じなのかと思っていた。

 そして実際に会ってみたら、強面のお兄さんに怖がられているし、扉を開いたら怒声と共にハンマーを投げつけるし、目つき怖いしで普通に縮こまる。


 「よく来たなぁ、私はエレノア・テイラーだ。

 んで、コイツが夫のアンドリュー。

 このチビっ子が、息子のアラン。

 このちんちくりんが、娘のエマだ。」


 雑に紹介されたテイラー一家。


 夫の方は茶髪で優しそうな顔をしているが、ラグビー部の様なゴツい体つきをしていて、雰囲気的に村長みたいな感じだった。若い頃の村長はこんな感じだったのではないか思う。

 息子のアランはまだ幼稚園くらいの年齢の様子で、キャッキャとアンドリューの太い腕の上ではしゃいでいる。髪色は母親に似て綺麗な赤い色をしていて、元気な感じも母親に似たのだろう。

 娘のエマは赤ん坊で、アランとは逆の腕の方で俺達の方を「誰この人。」という感じで大人しくじっと見ている。髪は茶髪で、大人しく周りの様子を伺っているのを見ると父親似なのだろう。


 「こんにちは、アンドリューです。

 エルザさんとソフィアさんは久しぶり! 結婚式以来だね!

 部屋は用意してあるから、ゆっくりしていってね。

 あと〜……、何かあったら何でも言ってね!」


 熊みたいな男が優しそうな笑顔でニッコリと笑うと、その直後に扉が開き、白髪の老婆が飲み物とコップを持って現れる。


 「アンドリュー! 手伝いな!」

 「あぁ、母さん! わ、分かったよ。」

 「おう、おばば! 気が利くな!」

 「あんた達は気が利かな過ぎるんだよ! 客人に飲み物も出さないなんて、何考えてんのさ!」


 おばばと呼ばれた老人はキツイ目つきで2人を睨みつけ、アンドリューはテキパキと指示に従い、悪態を突かれたエレノアはガハハッと笑う。


 「客人って……妹の連れだぞ? そんな畏まんなくても良いだろ。」

 「これだからお前は。まともに教育を受けて来ないとこうなる!」

 「あぁん!? 何だとこの野郎!」

 「図星かい? 悔しかったらもっと教養を身に着けな!」

 「てめぇ!!」

 「ちょっとちょっと2人共……! ここで喧嘩は止めてよ……!」


 嫁姑バトルが急遽始まり、俺達は完全に置いていかれる。

 しかし、そんな怒声をすぐ近くで聞いていた娘のエマがビックリして泣き出すと、両者とも気まずそうに口を閉じる。


 「……エマは私があやすから、あんたはお客さんを持て成しな。」

 「あ〜、わーってるよ。」


 そう言ってオババはエマを連れて部屋から出ていく。

 ついでに、息子のアランもエマと一緒にテトテトと可愛らしい背中を見せながら一緒に退場した。


 「じゃあ、私達の紹介からだな。隣りにいるのは―――」


 エルザはさっきの嫁姑バトルに何も感じる物が無かったらしく、淡々と俺達の紹介に入ろうとする。


 「―――私の息子のバティルだ。」

 「そうか、お前か。」


 エルザがそう紹介し、俺が軽い挨拶をしようと声を出す前にエレノアは俺を見て口を開く。

 その目は何と表現すれば良いのか分からない。

 敵意があるような、無い様な。

 観察しているような、していない様な。

 ただ目力が強いからというだけなのかも知れないが、俺に向ける視線が何だか特殊だった。


 「あ、はい。バティル・オルドレッドです。よろしくお願いします。」


 エレノアの眼力に怯えつつ、ボロが出ないように短く挨拶をした。

 それに対して、エレノアも特に突っ掛かるような事はせず、順調に全員挨拶をして、その日はお開きになった。


――――――――――


 ―エルザ視点―


 姉さんの家のテラスに、姉さんと2人きりで椅子に座る。

 久しぶりの再会という事もあり、色々と話をしたいと姉さんの方から誘われたのだ。

 一応、皆で夕食を食べた時も話をしていたが、それでも姉妹で居たいのだろう。


 「今夜は良い月だなぁ。」


 姉さんは月を見ながらそう呟く。

 その瞳は昔と変わっておらず、芸術品を見ているかのような目で月を眺めていた。


 「姉さんは月が好きだったよね。」

 「あぁ。太陽は眩しすぎて見れたもんじゃねぇが、月は違う。真っ暗な世界を優しい光で照らしてくれる。」

 「………………。」


 姉さんは良く、私が寝ている時に見張りをしてくれていた。

 寝る暇もないくらいの激しい時期もあり、姉さんも眠いにも関わらず、ずっと寝室を守ってくれていたのを思い出す。

 確かあの時くらいから、姉さんは月が好きになったと言い始めていたと思う。


 「なあ、エルザ。なんでバティルを養子にしたんだ?」

 「なんでって、手紙で書いたでしょ……?」

 「経緯は手紙で知っている。だがな、それは誰の為なんだ? バティルの為か? それともお前の為か?」

 「…………………。」


 『誰の為』と突然言われても、すぐには答えを出すことが出来ない。


 「行き場の無かった子供に居場所を与えたのは褒められた事だ。だがな、親になるって事がどういう事なのか分かってるのか?」

 「………。」


 分からない。

 でも、だからと言って考えていない訳じゃない。

 色々と考えて、それでも何が正解かが分からないから、その問いには答える事が出来ないだけだ。


 「……まあ、すぐに答えを出せとは言わないけどな。1個くらいは自分なりの答えを出しとけよ。じゃないと、母親として行動しなきゃいけない時に動けなくなるぞ。」

 「……そう、だね。」


 てっきり思い出話とかをするものだと思って着いて来たのだが、まさかのお説教が来るとは思わなかった。

 ………いや、説教ではない。

 忠告とか、提案に近いだろうか。

 これは姉さんなりの心配の表れだ。

 長い付き合いなので分かる。


 「まあ、こういうのはここまでにして。……バティルはお前の言ってた通り、礼儀正しい奴みたいだな! いつもあんなに大人しいのか?」


 姉さんは重い話から切り替えて、私が話しやすい話題に変えてくれる。


 「いや、普段はもっと元気なんだけど、何か今日は大人しかったね。」

 「ハッハッハ、何だよ人見知りなのか。」

 「う〜ん、別にそういう訳でも無いはずなんだけど、何でなんだろう。」


 姉さんとバティルには仲良くなって欲しかったのだが、バティルは何故か緊張をしていた。


 「まあ、まだ会ったばっかだからな。これからだろう。」

 「そうだね。」


 それ以降も、子育ての事とかバティルの事を姉さんと話して、初日は終わったのだった。

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