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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−3 『乱獲事件編』
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第79話 赤鬼vs氷結の魔女(2)

 ―ソフィア視点―


 魔法使いは、サポート役である。

 魔法使いは、1人でハンターとして活動できない。


 それが、この世界の常識である。


 魔力が尽きればお荷物になり、荷物持ちとして扱われる事も少なくない。

 いつも誰かの後ろを歩き、守り、守られ、共存して行く。

 それが、魔法使いという物だ。


 しかし、何事にも例外は存在する。


 たった1人でモンスター達を薙ぎ倒し、膨大な魔力と卓越した魔力操作でハンター達に畏怖される存在。


 そう言った魔法使いは、この世界の長い歴史の中でも数人しかいない。


 ある人物は、魔法使いにも関わらず、たった1人で古代龍種を撃退し、村の英雄として歴史に名を残した。

 またある人物は、その卓越した魔力操作で様々な魔法を発明し、魔法使いのレベルを別のレベルへと昇華させた。


 その中で、英雄の血が脈々と受け継いでいる者もいる。


 それが、羊人族の英雄の一族。ハーノイス家である。

 羊人族の目は魔力を認識し、魔力の平均保有量も12種族の中で上位に位置する。

 魔法変革期に様々な天才が台頭した中で、ハーノイス家は『強さ』で頭角を表し、魔法使い社会では『武』の頂点として現在も君臨する事になる。


 そんな名家の中で生まれたのが、ソフィア・ハーノイスである。


 ソフィアが生まれる前の時代、数々の高難易度クエストを達成し、古代龍種を撃退したパーティーの魔法使いだったソニア・ハーノイスという人物がいた。

 『ソニアは、現代のハーノイス家の象徴である。』

 そう評されるほど、ハーノイス家にとって大事な『武』を体現する存在として、ソニアは英雄の様に扱われていた存在だった。


 そんな彼女が「私を超える存在だ。」と評したのがソフィアだった。


 幼少の頃から膨大な魔力量を有し、無詠唱をすぐに習得し、一度魔法を見せたら同じ様にその魔法を出して見せる。

 物覚えも良く、同い年の子供達が遊んでいる頃には学校に行き、飛び級をしてメキメキと魔法を極めていた。

 エルザと出会い、ハンターとして生きると決めてから、その時には既に学ぶ事が無くなった学校を、卒業式の時期だからという理由で飛び入り参加をして、全ての卒業生を圧倒して出て行った。

 それからエルザと共に色々な場所を転々とし、行く先々で凶暴なモンスターたちを討伐して行く事になる。


 そんなソフィアも、歴代の伝説的な魔法使いと並ぶ才を持っている。


 モンスターとの戦闘時、いつもエルザの補助として動いているが、実際は1人で大型モンスターたちを討伐する事が可能である。


 そんな彼女の必殺技は『氷の世界(アイス・フィールド)


 その歴代屈指の莫大な魔力量を武器に、贅沢なまでに魔力消費をして視界の世界を真っ白に変える。

 フィールド内は彼女の世界であり、四方八方、あらゆる場所、あらゆる角度から攻撃を放つ事が可能になり、全ての攻撃を防いだ者は今の所、誰一人としていない。

 並の人物であれば足元から氷が這い上がり、その身を氷の彫刻へと変えられ、そうではない人物たちは氷の刃による速射の連撃に串刺しにされる。


 これは1人の時に使えるもので、パーティーでモンスターを討伐する時には全く使えない代物である。

 だが、この瞬間、この環境であれば、この技は最強になる。


 「があああああああああああ!!!!!!!!!」


 危機を察知したエルザが、私の方へ突進してくる。

 前に一度、エルザにこの技を見せた時の事を思い出したのか、あの時と同じ様に真っ先に私へ剣を向けていた。


 ―――しかし、エルザの剣は私には届かない。


 さっきと同じ氷の柱が剣を止める。

 だが、その氷の柱は今までとは違う。

 大きさ、強度、発動速度。

 その全てがフィールドによって段違いに強化される。


 「―――ッ!」


 エルザは地面のから生えてくる氷を避けてバックステップをする。

 それを追う様に氷の棘がエルザを襲うが、流石はエルザと言った所か、それに追い付かれる事は無かった。


 ――ゴッ…!


 しかし、エルザはそれが自身の身体能力が勝って出来たのではない事を理解する。


 背後には、エルザが気付く前に氷の壁を生やしていたのだ。

 エルザがそうなるように誘導されていただけで、別に私の作り出した氷の棘の生成が遅かった訳では無い。

 それを後になって気が付いたエルザは、その壁に背中から激突する。

 激突した瞬間、今度は前方からエルザでも反応できない速度で『何か』が飛んでくる。


 その『何か』はエルザの首へ直進し、両手、胴、両足の順で次々に壁に突き刺さった。


 殺人的な速度で飛んできたそれは、その速度とは裏腹に、エルザにはダメージを与えず、エルザを磔にする。


 「ガッ……。」


 さっきと同じ様に青筋を立てて破壊しようとするが、その氷達はさっきのレベルをとうに超えた代物だ。簡単に壊せる物ではない。

 磔にしている拘束具はビクともせず、冷えた体はより体力を奪う。


 元々エルザの体力が擦り減っている状態とは言え、エルザはたった1人で大型モンスターを倒せる存在だ。そしてエルザは、ここに来るまでに見た光景から推察するに、森の生態系を破壊する程の力を持った『怪物』だ。


 そんな怪物を、ソフィアは一瞬で制圧してしまう。

 彼女もまた、生態系を破壊できる『怪物』であった。


 (……終わりね。このまま体温を下げて、気絶させてから村に戻れば――――)


 ―――ボンッ!!!


 エルザを下ろすために近づこうと一歩を踏み出したその瞬間、爆発音と共に氷が弾け飛ぶ。

 その爆発で弾けた氷の欠片が、私の頬を掠める。

 掠った箇所から、赤い血が冷や汗の様に流れ落ちた。


 「なっ―――!?」


 勝ちを確信していた私の目の前に、予想だにしていない光景が広がっていた。


――――――――――


 その剣は、後の世で名刀として残り、語り継がれる事になる。


 名工『エレノア・テイラー』の初期の傑作であり、数多く作成した名刀の中で、妹のエルザへ送った特別な剣という事も相まって、当時のエレノアの技術が全て詰まっている。


 熱に強い高純度の『紅炎石』を使い、灼熱の中で鉄を叩き、美しい刻印を狂いなく打ち込まれた傑作。


 その剣は魔力を流すと熱を帯び、より多くの魔力を流すと炎を纏う。

 それにより、元々素晴らしい切れ味だったのが強化され、硬い鱗や甲羅もその熱で焼き斬る。


 当時の魔剣では珍しい超攻撃型で、好戦的だったとされる妹のエルザに似つかわしい性能をしていた。

 エルザが晩年になるまで使い続けた過程で、その剣は『剣聖エルザ』の武気が染み込み、名刀として完成する事に成る。

 溶岩に浸けても溶けることは無く、同じ紅炎石で出来た剣で叩いても刃こぼれすらしない。


 それは『名工』エレノアと『剣聖』エルザの才能が凝縮した作品であり、誰もがその剣の魅力に感嘆の声を上げる。


 「………ぁぁぁぁぁぁ――――」


 しかし、後の世でその剣は名刀としてだけではなく、別の意味で畏怖される事になる。


 その剣はリミッターが刻印されておらず、魔力を流せば流すほど熱へ変換する。


 それは上限を知らず、下手をすれば持ち手の体さえ危害を加える。

 実際、のちの人間が試しに魔力を流した所、魔力量を間違えて右腕を大きく火傷をした事故が起こった。

 そしてそれにも関わらず、その剣の性能に心が惹かれ、その剣を扱おうと柄に手を掛ける者が何人もいたが、誰一人として扱い切ることは出来ず、時にはその者を焼き殺してしまう事件もあった。


 いつしか誰もその剣を握らなくなり、その剣は妖刀として恐れられる事になる。


 その剣の名は、妖刀『紅花べにばな』。


 剣としての完成度に魅了され、後の世の人間達が扱おうにも扱いきれず、『剣聖』と呼ばれた天才との力量差を、その身を焼かれて分からされる。


 紅い花が咲いたが最後、その剣は全てを燃やし殺す。


 「―――ぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


 後の人は言う。



 『その身を厭わぬ狂人が持てば、その剣は死ぬまでその者に力を与え、神をも殺す力を得るだろう。』



 白銀の世界で、大火が立ち上がる。


 全てを燃やす業火の中で、閻魔が顕現す。

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