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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−3 『乱獲事件編』
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第67話 結婚記念日

 アルと結婚して今日で1年になる。


 アルとの関係は今でも熱々で、冷める予兆は全く感じない。

 むしろ仲が良くなりすぎて、最近では村の人からもラブラブだと言われるくらいだ。

 

 ハンターとしても村には貢献していて、つい最近も大型のモンスターを狩ってきた所である。

 私が来るまでは、村長がそういったクエストをクリアしていたそうなのだが、やはり歳には抗うことが出来ず、ギリギリの戦闘をしていたそうで、私が来てくれた事は渡りに舟だったそうだ。

 なので、ハンターの人達には大分有難がられていて、特に村長からは、鈍感な私でも分かるくらいに感謝の言葉を毎回貰っている。


 「行ってきま〜す。」

 「行ってらっしゃい。」

 「愛してるよ。エルザ。」

 「わ、私も、愛してる。」


 もう何度も言い合ったフレーズにも関わらず、やはり面と向かって言うのは恥ずかしい。


 今日は結婚記念日という事で、昼からアルはアライ鹿を獲りに出掛ける。

 私は買って来た肉でも良いと言ったのだが、こういう特別な日は手が込んでいた方が良いとアルは言っていて、そうする事にした。

 狩りと言っても、仕掛け罠は既に仕掛けていて、数か所の罠を見に行くだけだ。

 帰りは重たいだろうが、そこまで森の奥に罠を仕掛けていないので危険は無い。

 夕飯の時間には帰って来るだろう。


  コンッコココンッ!


 アルが出て行って数分後、特殊なノック音が扉の方からする。

 出なくても分かるそノック音を聞き、扉を開く。


 「やっほ〜、遊びに来たわよ〜。」

 「ああ、入ってくれ。」


 別に何かをする訳でも無いのだが、ただ話したいという理由だけでソフィアは遊びに来る。ただ、今日は私達が結婚して一周年という事もあり、恐らく祝いに来てくれたのだろう。


――――――――――


 ソフィアを家に招いた後、すぐに飲み物を出す。

 こういう流れもこの1年で習得したもので、村長や他の客人が来た時に何度もやっていく内に自然と出来るようになった。


 「さっきアル君にも言ったけど、結婚1周年おめでとうございま〜す!」

 「ああ、ありがとう。」


 扉を開いた時に「タイミングが悪かったな。」と思っていたが、どうやらアルとすれ違った様だ。


 「あれからもう1年経つのね〜。」


 ソフィアのそんな一言から始まり、一通りこの1年の思い出を語り合った。

 「子供が出来ない」と泣きながら相談した時とか、ソフィアの研究の所為で村の雑草がおかしな事になった時の話とか、色々な話をした。


 「はいこれ、記念日のプレゼント。」


 それなりに思い出を語り合った後、ソフィアはそう言ってずっと膝の上に置かれていた箱をテーブルの上に置く。

 遠慮無く箱の中身を見てみると、中には色々な色の宝石が付いたネックレスが雑に入っていた。


 「これは?」

 「私の研究の副産物! 

 ほらこの間、研究するのを変えるって言ってたでしょ? 

 だから、余ったのはあなたに上げる! 

 勿論、そのネックレス達は全部攻撃系が入ってないから大丈夫。

 緑色は回復魔法、青色は水が軽く噴射する魔法、白は私特製の霧が出る魔法よ。

 他にも色々あるけど、そんな感じで害はない奴だから安心して。」

 「そうか、ありがとう。」


 素直に感謝の言葉を言うが、結婚記念日に在庫処理と言うのはどうなんだろう。

 私もそこそこ常識を理解できる様になってきているので、こういうのが結婚記念日に相応しくないのは私でも分かる。


 「…………………。」

 「……………………。」


 流石に理解した私と、流石に理解した私を理解したソフィアは、笑顔のまま見つめ合って固まる。


 「……も〜ちろん、これだけじゃないわよ!」


 そんな微妙な時間を切り裂くように、ソフィアは立ち上がって大きな声を出す。


 「本命は〜〜〜、はいこれ!!!」


 ポケットから出されたのは紫色の瓶だ。

 見た目からして高級そうな感じで、ソフィアと高級店で食事をした時の瓶もあんな感じだった。あの時はワインが出てきたから、もしかしてこれもワインか。


 「……ワインか?」

 「ブブー、ハズレ! これは端的に言うと〜、媚薬です!!!」


 び、媚薬!

 聞いた事がある。

 確か、興奮剤に類する薬剤なのだが、その効果は絶大で、しかも出荷が著しく少ない事で高値で売り買いされている奴だ!

 使った人は即座に興奮し、とんでもない性欲でハッスルするという。

 気持ちよさも何倍も高まり、一度使ったら病みつきになるそうなのだが、その媚薬は依存性がある訳ではなく、健康を害さない事で有名になった高級の興奮剤!


 結構前にソフィアがその話をしていて「それだったらアルとハッスルしてみたいな」と言っていたのだった。

 まさか本当に買って来るとは……!


 「今日くらいは悩みなんて忘れて、これでハッスルしなさい!」


 ソフィアが手にしている媚薬と、今ソフィアの言っていた「嫌な事」というのを合わせると、ソフィアが何を言いたいのか自ずと分かってくる。

 この1年、アルとは何度も子供を作るために試行錯誤をしたが、未だに子供を授かる事が出来ていない。

 それに関してソフィアや近所の人に相談したりもしていた。

 もしかしたら、私に問題があるかも知れないと落ち込んでしまった時期もあった。

 そんな私を見ていたから、ソフィアは気を使って媚薬を渡しに来たのだろう。

 そういう悩みを抜きにして、今日ぐらいは忘れても良いのかも知れない。


 「ソフィア、色々とありがとう。」

 「別に良いのよ。……報酬はこの媚薬がどれ位の効果があったか聞くって所かしら〜。エルザがどれ位ヒーヒー鳴いていたか聞かせて貰おうかなぁ〜。」


 ソフィアはニヤニヤと嫌らしい笑顔で挑発するようにそう言う。

 下衆な会話だが、誰も居ないから今回は許してやろう。


 「ああ、効果があったかは教えてやる。」

 「あら珍しい。嫌な顔しないの?」

 「ああ、お前とは長いからな。」

 「……そうね。」


 ソフィアがこうやってお調子者になる時は様々だが、今日は私を気遣ってくれている事ぐらいは分かっている。

 いつものように突っぱねる事を言っても、恐らくソフィアは怒りはしない。

 むしろその方が想定内だろう。

 しかし、私はそうはしなかった。

 それがどういう意味なのかをソフィアも受け取ってくれた様子だった。


 「エルザ、今、幸せ?」


 ソフィアは嬉しそうにこちらを見てそう言った。


 「ああ、幸せだ。」


 ソフィアの問に対して、私の答えは即答だった。

 幸せじゃない訳が無い。

 あの時の私は、ここまで幸せな時間を過ごせるとは思っていなかった。

 苦しんで来たからこそ、この幸せな時間の有り難みを日々噛み締めている。

 

 「そう、良かった。」


 そんな私の返答に、ソフィアも微笑んで答える。

 丁度、私が荒れていた時期の最後ら辺を知っているソフィアから見ても、私の変化は嬉しいのだろうか。


 ソフィアから媚薬を受け取り、少し見えにくい食器棚の奥に置いておく。

 それから席に戻って、ティーカップを持ち上げた瞬間―――


 ―――ドンドンッ! ドンドンドンッ!!


 「エルザさん!」


 扉の向こうで、大きな物音と声がする。

 その声は切羽詰まる様な声色をしていて、こちらも緊張が走る。


 「―――? どうしたのかしら。」

 「分からん。でも、何か……―――ん?」


 ―――パキッ……!


 不安な気持ちが伝播したかのように、私の愛用しているティーカップにヒビが出来る。それは何かを暗示しているようで、私の中で不安は一気に膨れ上がる。


 「どうしたの、出ないの?」


 不安が体を支配し、動けなくなった私にソフィアが声を掛ける。


 「あ、ああ、出る。」


 嫌な予感がする。

 扉の前に立って、「エルザさん居ますか!」という声を聞いても、扉を開きたくないと思ってしまう。

 扉を開いてしまうと、何か大きな物が失ってしまうかのような。


 しかし、扉を開かない訳にはいかない。


 私がこの村に来てから、快く迎えてくれたこの村の人達に対して、居留守なんて失礼な事をする訳にはいかない。


 そう思い、扉を開く。


 「どうしました……?」


 扉を開くと、目の前に居たのは同業のアランだった。

 ハンターとして、アルとサイモンとアランで仲が良く、飲み友達だとアルから聞いている。3人で陽気に飲んでいるイメージのアランの顔は、物凄く焦っている顔に染まっていた。


 「エルザさん、アルベルトが―――ッ!!!」


 ……嫌な予感は的中した。

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