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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−3 『乱獲事件編』
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第60話 手繋ぎ1

 ―エルザ視点―


 ソフィアにアルベルトと付き合う事を報告すると、ソフィアはとても喜んでいた。

 「お姉さんも喜んでくれる」とソフィアは安心するような顔もしていた。


 アルベルトと付き合い始めて1ヶ月が経過した。


 特に言い争うことは無く、良好な関係をしている。

 一緒に食事に出掛けたり、採取クエストや討伐クエストを一緒にやったり、数ヶ月間しか居なかったが、水猿流を教えて貰っていた期間があったのでそれを教えたり、逆に私が文字の読み書きを教えて貰ったり、となかなか良い1ヶ月を過ごしていた。


 ……しかし、私の心は悶々としていた。


 「で〜、話って何〜?」


 ソフィアの部屋で対面になって座っている。

 朝早くから「話がある」と言って家に上がったが、嫌な顔をせず口を開く。


 この1ヶ月、悶々としていたのだが誰にも話せなかった。

 一番は恥ずかしかったからという事がある。

 こんなプライベートな話を聞いてくれる人は1人しかいない。

 しかし、それを聞いたらイジられるのではないかと思い言い出せなかった。


 だが、もうコイツとも長い付き合いだ。

 コイツも真剣な話の時は、ちゃんと真剣に聞いてくれると分かっている。

 今回の相談もアホらしいかと思われるかも知れないが、こちらが真剣に悩んでいると分かればちゃんと相談に乗ってくれるかも知れない。


 「アルベルトと、て、手を繋ぎたい……!」

 「………………………………………………。」


 そう。

 この1ヶ月仲良くなっているが、それ以上を超えることは無かった。

 アルベルトの方からアプローチされるかと思っていたが、彼は私の身体を触れるという所までは絶対に踏み出さなかった。

 初めはそれでも良かったのだが、段々と相手にされていないようで悲しくなってくる。だが、私の方から行くのは恥ずかしいので躊躇っていた。


 「この1ヶ月、アルベルトは私に触れようとして来ないんだ……。楽しく会話しているのに、それ以上はしてこないって事は、私に魅力がないのか……?」

 「ま〜、それはアルベルトに「ヘタレッ!」って言いたい所だけど、しょうがない部分もあるんじゃない?」

 「しょうがない?」

 「ええ。だってアルベルトと初めて会った時、相当キツく接してたじゃない。多分だけど、その時の拒絶を思い出して踏み込めないんじゃないかしら。折角好きな人と恋人に成れたのに、また拒絶されるかも知れないって怖がっているのよ。」

 「じゃあ、どうすれば良いんだ……?」

 「決まってるでしょ。あなたから手を繋ぎに行くのよ!」


 ソフィアは立ち上がり、ビシッとこちらに指を指して言ってくる。


 「いやぁ〜〜〜〜〜〜………、それは〜〜〜〜〜〜……………。」


 恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。

 でも―――


 「でも、本当はアナタ自身、分かってるんでしょ。自分から行くしか無いって。」

 「それは、そうなんだが……でも、淫乱な女だと思われないか?」

 「付き合ってるのに、手を繋ぎに行って何が悪いのよ。」


 それは……確かにそうか。


 「それに、手繋ぎなんて甘っちょろいのを目標にしちゃ駄目よ。」

 「じゃあ何を目標にするんだ?」

 「決まってるじゃない。セッ◯スよ、セッ◯ス!」

 「おまっ!」


 窓が開いてる状態でなんて事を言っているんだ。


 「あなたも色々あったでしょうけど、手を繋ぎたいって言えるって事は、それ以上のも行けるわ。昔のトラウマなんてここで乗り越えちゃいなさい。」


 昔のトラウマ。

 そう言えばソフィアは知っているのだった。

 私達姉妹がまだ小さかった頃、男に襲われそうになったという事を。


 「そう、だな。……うん、やろう。いや、ヤりたい……!」

 「そう、その意気よ! 一応、私は性教育を教えて貰ってるからそれをあなたに伝授するわ!」

 「おぉ!」

 「まず男の股間なんだけど―――………」


 それから男女のあれこれを教わり、アルベルトの所へと向かうのであった。


――――――――――


 「こうですか?」

 「そうだ。この盾の曲線を上手く使って攻撃をいなしていく。」

 「なるほど! 受け止めるんじゃないんですね。」

 「そっちもちゃんとあるが、水猿流は受け流すのがメインだ。それにモンスターの攻撃を受け止めるのは結構難易度が高いからな。」


 それから昼間になり、集会所で一緒に昼食を食べた後、今度は私の家で読み書きを教えて貰う。


 「これで良いのか?」

 「そうです。これでお姉さんの名前になります。」

 「なるほど。こうなってたのか。」

 「もう短い単語は文に出来ているので、お姉さんに手紙とか出してみましょうか。」

 「わかった。」


 そんな時間を一緒に過ごしていると、あっと言う間に時間が過ぎて行く。

 太陽は赤くなり、所々の煙突から湯気が出始めていた。


 「あ、もうこんな時間ですか。」

 「ん? そうか、そんなに経ったのか。」


 何となく時間は分かっていたが、アルベルトと一緒に居たいので口には出さなかった。しかし、こちらにも予定があるのは事実なので、ここで切り上げた方が良いだろう。


 「少し早いですけど夕食にしませんか? 集会所が混む前に席を取っておきましょう。」

 「そう、だな。………い、いや、そのぉ〜、今日はソフィアが料理を振る舞いたいらしくて、アルベルトを連れてきて欲しいと言ってたんだ。私はそんなの要らないと言ったんだが、アイツがどうしてもって言うからー、その、今更なんだが――――」


 自然に誘うつもりだったのに、何か早口になってしまった。

 これからの予定を考えてしまうと、どうしても普段通りの私ではいられない。


 「そうなんですか! 勿論行きたいです!」

 「そ、そうか。じゃあ行こうか。」

 「はい!」


 しかし、そんな変なテンションの私を気にすること無く、アルベルトは純粋に楽しみだという目でこちらを見ていた。

 安心すると共に、嫉妬心が出てしまうのはなんでだろうか。


――――――――――


 「いらっしゃ〜い!」


 ソフィアが泊まっている部屋は、私が泊まっている部屋よりも豪華だった。

 私もそれなりにちゃんとした部屋に泊まっているのだが、理由は変な男が来ないようにする為であり、必要最低限のレベルに押さえているのに対して、ソフィアはこの街一番の宿に泊まっていた。


 「お、お邪魔します!」

 「も〜、そんなに固くならなくて良いのよ! エルザの彼氏なんだから、もっと堂々としてれば良いの!」


 緊張しているのは別の事も含んでいると思うのだが。

 それとは別に「エルザの彼氏」という単語対して、未だ慣れない私は顔が赤くなる。

 それはアルベルトも同じなようで、2人で赤面していた。


 「1ヶ月もお祝いできなくてごめんなさいね〜。」

 「いえいえ、そんな!」

 「そのお詫びと言ってはなんだけど、腕に()りをかけて作ったから一杯食べてね!」

 「はい、頂きます!」


 豪華な部屋に入り、キッチンまで付いている。

 こういう金持ちは自分で料理なんてしないだろうに、何でキッチンなんてあるんだろうか。……という事を気になって聞いてみると、どうやら出来立てを食べる為に、メイドに作らせる様であるらしい。


 そんな部屋で作った料理が並べられ、私達は付き合って1ヶ月記念という名目の下、ソフィアの手料理を食べ始める。


 「どうかしら。」

 「凄く美味しいです!」

 「ふふん、そうでしょうとも!」


 料理を美味しそうに食べるアルベルト見て嬉しい反面、それがソフィアの手料理を食べて喜んでいるのだという現実に少し嫉妬する。

 私も姉さんに料理を教えて貰った事はあるのだが、食材を炭にしてしまうので、それ以降はやらせて貰えなくなった。


 「それにしても、あのエルザが1ヶ月も男と付き合えるって思って無かったわ〜。エルザに殴られたりとかしてない? もしそうだったら私に言ってね。」

 「なっ、するわけ無いだろ。」

 「まあ、昔より手は出なくなったけど、それでもねぇ〜?」


 手助けしてくれるという話だったのに、なんで私のマイナスな部分を掘り下げてくるんだコイツは。……もしかしてあれは嘘だったのか? コイツは敵か? 敵なのか?


 「いえいえ、そういった事は全く無いですよ。」

 「ほんとぉ〜? ま、それなら良いんだけどね。」

 「むしろ、皆がなんで怯えてるのかなって思えるくらい優しいです。」


 アルベルトがこちらに視線を動かし、視線が交わる。

 褒められ慣れていない私は、アルベルトからの「優しい」という褒め言葉と熱のこもった瞳で見られる事で顔が赤くなる。


 「ふふ〜ん、なるほどねぇ〜。」


 逆にソフィアは観察動物を見ているかの様な冷たい目、いや、これは違うな。

 いつもの悪戯をする時の様なねっとりとした目でこちらを見ていた。


 「じゃあ〜ここからが本題で〜す!」


 そう言ってソフィアは右手を上げる。


 「2人はもうあれはやったんですかぁ〜?」

 「あ、あれって言うのは……?」

 「勿論、これよこれぇ〜。」


 ソフィアは左手で丸を作り、右手でその丸の中に人差し指を出し入れする動作をする。


 「な、ななななっ、そ、それは、…………まだです。」


 アルベルトは赤面しつつも素直に答えた。

 はぐらかす事も出来ただろうに…………。

 この素直さがアルベルトの良い所であり、良くない所でもあるだろう。

 まあ、この話題に関しては既に知っている事なので、どっちの返答をしても変わらないのだが。


 「えぇ! そうなの……!?」


 知っているくせに、ソフィアは「初めて聞きました!」的な顔で驚いた演技をする。


 「もしかして、エルザが拒否をしたとか……!?」

 「い、いえ、そういう訳じゃないんです……。」

 「あ、分かったわ……。そうよね……こんな筋肉ムキムキ暴力女。流石に……ね。」

 (………殺す。)


 何故か可哀想な奴を見る目で、私の方を見るソフィア。

 それに対し、一瞬で沸点まで到達した私は、ソフィアを殺そうという決断をするのだが、アルベルトは手を前に出して「違う」というジャスチャーで言葉を続ける。


 「いえ、それも違うんです……! ただ、その、僕が勇気を出せなかっただけで、エルザさんに魅力が無いとかではないんです。」

 「勇気が出せなかったぁ〜?」

 「はい、その、付き合うまでのエルザさんは男の人を拒否していたみたいですし、何かあったのかなって。僕もエルザさんに嫌われたくなくて、その、初めて会った時も触れられそうになった時に凄い嫌そうだったのを覚えてて、慎重になってました。」


 ……確かにあった。

 背後にアルベルトが居て、驚いた私は飲み物を吹き出したのだ。

 その時に心配してくれたアルベルトに対して、反射的に手を振り払った。

 やっぱりああいうのがあったから、アルベルトは手を出さなかったのか。

 ソフィアの言っていた通りだな。……殺すのは後にしてやろう。


 「まあ、トラウマがあるのは正解よ。でも、ヤッてみないと分からないわ。なんだったら私のベッドを貸すから今からヤッてみなさいよ。あなた達なら許すわ!」

 「いやいやいや! 何言ってるんですか!」

 「エルザもウジウジしてないで、1発ヤッちゃえば良いのよ! 勢いで乗り越えちゃいなさい!」


 コイツにセラピーは向いてないな。

 勢いでどうにかなるなら、この世界でトラウマは撲滅している。

 だが、ソフィアが言いたい事はそういう事ではないのだろう。

 彼女は私に乗り越えて欲しいのだ。……姉さんの様に。


 「……食事中に話す内容じゃないな。」

 「………。」

 「………。」


 誰もその事にツッコまないので、流石にツッコんでしまう。

 しかし、ソフィアが何故こういった行動に出たかと言うと、アルベルトの真意を聞きたかったからなのは明白だ。

 なぜアルベルトが私に手を出してこないのか。

 それを聞けたので、もうこの話は終わりにして良いだろう。


 「ま、まあ確かにそうね。ごめんなさい、折角の食事の時間なのに。」

 「いえ、僕は大丈夫です。」


 声色とは裏腹に、ソフィアはこちらに片目を閉じてウィンクをする。

 とても強引なやり方だが、それがソフィアという人間なのだ。

 しかし、そのお陰で原因を知る事は出来た。


 (手を出すと嫌われると思った……か。)


 否定はできない。

 私が今の様に、自分から繋がりたいと思わなければ拒否反応が出ていたと思う。


 「ささっ、食べて食べて! この野菜は、このソースを掛けると味がガラッと変わってね?―――」


 それ以降は卑猥な話題を出すこと無く、ソフィアの料理の話や、私とソフィアの出会いの話などで盛り上がった。

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