第59話 赤鬼攻略2
―アルベルト視点―
【クエスト:薬草を籠1個分採取】 【Dランク】
デートで選んだ場所は、森の中だった。
ソフィアさんにそれを話すと「絶対に止めた方が良い」と言われたが、僕がやりたい事を尊重するつもりだったそうで、最終的には納得してくれた。
それからも大変だったようで、エルザさんは僕との2人きりでのクエストに行こうとしなかったそうだ。
まあ、当たり前と言えば当たり前なのだが、それを聞いて流石に悲しかった。
そんな彼女をどうやって説得したのかは2人のみぞ知るといった事のようで、僕には話してくれなかった。
「あっ、それはロッヤの葉って言って、今回採取するのとは違う薬草なんです。見分け方は葉の裏側の違いで、ロッヤの葉は裏側が白いんです。」
「…………。」
ここに来るまでに何度も話しかけたのだが、今のように返事は返ってこない。
しかし、間違いを指摘しても反論せず、素直に籠から出しているのを見るに最悪な心境でいる訳では無いのかも知れない。
「……なんでこんな事をしているんだ?」
「こんな事?」
突然エルザさんが口を開いた。
「私達はハンターだろ、狩るのが仕事だ。それなのにこんな雑草をなんで集めるんだ。」
「雑草……。一応、このロミの葉は二日酔いに効果がある葉っぱなんですよ。」
「………。」
とは言ったものの、エルザさんが言いたかったのはそうじゃない。
「それにハンターはモンスターを狩るだけが仕事じゃないと思ってます。」
「……?」
エルザさんは「何を言っているんだ」と言いたげな顔でこちらを見る。
「僕の故郷はここより東にあるビエッツ村という所なんですが、小さな村なので皆の距離が近いんです。」
「………。」
「僕もエルザさんの様にハンターはモンスターを狩るのが仕事だと思っていた時期はありました。でもその時、村の薬剤師さんが1人で森に入って、ボロボロになって帰って来る事件があったんです。」
「………。」
「理由を聞くと、『誰も取りに行ってくれなかったからだ』って言ってました。僕の村の村長はそういったクエストもしてくれる人だったんですが、その時期は仕事で村を離れなきゃいけなくて居なかったんです。『この薬草を今のうちに取っておかないと冬の時期に村の人が困る。』と薬剤師の人はそう言ってました。」
エルザさんの目を見る。
「そこで気付いたんです。ハンターはモンスターを狩るだけの存在じゃなくて、危険な場所に行けない人のために、僕たちハンターが行って目的を達成する。それがモンスターの討伐の時もあれば、薬草を取って来てくれという時もある。ハンターっていうのはそういう役割なんだと思うんです。」
「――ッ!」
エルザさんは目を見開き、フッと地面に広がっているロミの葉を見る。
圧倒的力量差のある僕からの反論を聞いて、怒られてしまったかも知れない。
でも、エルザさんの顔を伺いながら付き合いたくはない。
付き合うなら、それは対等に物を言える関係で居たい。
――――――――――
―エルザ視点―
私は、目の前にいる、アルベルトという男に驚いていた。
ハンターという存在はモンスターを殺す為の存在だと思っていたから。
私が生まれた時からある職業で、彼らも皆、モンスターをどれだけ狩ったかを誇るかのように喋っていた。それが普通だと思ったし、疑問にも思わなかった。
じゃあなんで薬草を採るクエストがあるのか、お遣いの様なクエストがあるのか。
それを一度も考えた事はなかった。
しかし、目の前にいる男はそれに答えを出していて、その答えは私も納得する所だった。
誰しもが強くなれる訳ではない。
それを知ったのはここ数年での事だった。
生きる為に剣を振ってきた私には、理解できなかった事がある。
何故もっと強くならないのか、酒なんて飲んでいる暇があったら剣を振れば良いのに。そんな事を考えていた。
それに対して答えたのはソフィアだった。
誰しもが剣を握れる訳じゃないし、そもそも握ろうとすら思わない。
私はそれを聞いてもよく分からなかったが「そういう物なのだと頭の中に入れてれば良い。」とその時は流された。
それからも自分なりに考え、沢山の人達を見て、ソフィアの言っている事がようやく理解し始めていた。
こいつは、その先の答えを言っているんだ。
強い奴と弱い奴がいて、それは決してサボっているからでも、悪い訳でも無い。
それぞれの役割があって動いていて、生きていて、生活している。
じゃあ、ハンターとは何の役割なんだ。
それを私はモンスターを狩るだけがハンターなのだと思っていたが、お遣いの様なクエストがあるのを考えると、こいつの言っている事の方が正しいと感じる。
「人の為のハンター……か。」
今まで視界に入っていた、しかし不要な物として記憶から消去していた目の前の草木たちを見る。
太陽に照らされ、風に揺らされ、この森に根ざしている。
そして目の前にはロミの実と呼んでいた草が広がっている。
この草を採るにはこの森に入らなければいけない。
そしてこの森は、ハンターでないと生きて帰るのは難しい。
だから、我々ハンターがいる。
この男に言われ、なんだか見ている世界が広がっていく感覚になる。
さっきまで、ただの草だと思っていたものが、とても大事な物の様な気になり、茎から放つ不快な匂いに関しても気にならなくなる。
「……このロミの葉とロッヤの葉とか言うのは、なんでこんな近くで生えているんだ。」
こいつの話を聞いてみたい。
そう思った私は、自然と目の前の男に話しかけていた。
――――――――――
薬草を採り終わり、町に入る。
「―――っていう事があってから、辛いのが苦手になった。」
「……それはお姉さん、鬼畜すぎませんか。」
「まあ、それが姉さんだから仕様がないんだが……。」
町に帰る頃には、私達は雑談をするくらいにはなっていた。
ロミの葉の話から始まり、アルベルトの故郷の話や私の過去の話、そして私の唯一の肉親である姉さんについての話などをしていた。
アルベルトは肉親と呼べる存在は居なくなったそうなのだが、一応、従兄弟はいるそうで、その従兄弟からは「ハンターは向いていないから止めておけ」と何度も言われているらしい。
アルベルトの戦闘を何回か見た私から見ても、それは同意できる。
しかし、当の本人は辞めるつもりはなく、昔憧れた竜殺しの英雄になるのが目標らしい。だったら薬草なんて集めている場合じゃないだろうと思うのだが、恐らくアルベルト自身もそこまで強くなれないのは分かっている様に感じる。
これは要するに、ハンターを続ける口実なのだと思う。
「エルザさんのお姉さん、聞いてる限りだと凶暴に聞こえちゃ―――」
「お、それ、ロミの葉じゃないか?」
アルベルトと話している間におじさんが入ってくる。
「あ、はい、そうです。」
「その姿……と赤い髪の人はハンターだよな。もしかしたら、俺の発注したクエストをやってくれたのかもな。ありがとよ!」
「もしかして、ロハンスさんですか? この前はニオイタケのクエスト出してましたよね。」
「おお、そうだよ! もしかしてあのクエストをやってくれたのアンタか!」
「はい、そうです。少し小さいのとか入っちゃってましたけど、大丈夫でした?」
「問題無いよ、小さいのは小さいので使えるんだ。それにしても、今回もやってくれるのはありがたいね。クエストを発行しても、やってくれるのはいつも時間が経ってからだから困ってたんだよ! 名前はなんて言うんだ?」
「アルベルトです。これからもよろしくお願いします。」
「おう、よろしくな! 店に来る時は安くしとくよ! じいちゃんにも言っておく!」
「ありがとうございます!」
そう言って男は立ち去っていった。
何のためにあるんだと思っていたクエスト。
誰がやるんだと思っていたクエスト。
そのクエストには、ちゃんと意味があった。
張り出されていた紙ばかり見ていて、その先の人間を見ていなかったと気付かされる。……視界が広がっていくのを感じる。
――――――――――
【クエスト:薬草を籠1個分採取】【Dランク】【済】
「クエスト完了です。お疲れ様でした〜。」
薬草を届け終え、集会所を出る。
「お疲れ様でした。……それで、その、エルザさんってこの後用事とかってありますか?」
「いや、特には無いな。」
「そうですか。……じゃあ、この後食事とかどうでしょうか。」
「……ッ!」
アルベルトと会ってから何度も言われたセリフだ。
しかし、今回はそのセリフが心に響く。
ドキドキと鼓動が速くなり、それを知られたくないという気持ちでアルベルトの目を見ることが出来ない。
異性として、女として見られる事がすごく嫌だった。
嫌な思い出を思い出すから。
しかし今、目の前にいる男に女として見られていると感じて喜んでいる。
その証拠が、この心臓の高鳴りなのだろう。
「……わ、わかった。」
私は、この胸の高鳴りに従った。
――――――――――
移動した先はちゃんとした食事の場で、いつも通っていた集会所のテーブルとは違い、騒ぎ立てる奴もいなければ男臭い場所でもなく、ちゃんと食事をする場所といった感じの場所だった。
「―――そうやって落ち込んだ時は、いつもシチューを作ってくれました。」
「アルベルトはシチューが好きなのか?」
「それはもう! 特に母さんのシチューはお袋の味に選ぶくらい好きです。」
「そうか。」
いい話を聞いた。
アルベルトは何が好きなのかを1つ知る事が出来た。良い収穫だ。
この場所に来てから、アルベルトの事をとにかく聞いていた。
森から帰って来るまで私の身の上話を中心に話していたので、今度はアルベルトの話を聞かせてくれと言って現在に至る。
アルベルトの両親が亡くなっている事は聞いているが、その両親がどういう人だったかをアルベルト自身が積極的に教えてくれた。
両親が亡くなっているので、聞くのは悪いような気がしていたのだが、本人は全く暗い雰囲気を感じさせない。
両親の良い思い出を嬉しそうに語っている所を見るに、もう既に乗り越えている事なのだろう。なので、それに気が付いてからは、私も途中からは罪悪感なく両親との思い出を聞いていた。
アルベルトの母親は料理が好きな人だそうで、アルベルトも昔から料理を手伝い、自身も料理が好きになっていったそうだ。ソフィアも昔から料理が好きなのを考えると、もしかしたら気が合うかも知れない。……そう考えたらなんか嫌だな。
父親は農家をやっていたそうだが、若い頃はハンターをしていたらしい。
ただやはり、アルベルトを見て分かるようにハンターとしての才能は無かったそうだ。
しかし、頭脳は優秀だったそうで、農家をしつつ村と商売人との交渉の場に参加していたそうだ。計算や物書きを習得し、最終的に村長から一部の仕事を任せられるという所まで行ったのだと言う。
そのお陰で、アルベルトも文字の読み書きが出来るようになり、今まで読み書きで騙されること無く生活できているらしい。
これは素直に凄いことだと思う。
私もハンターが使う文字くらいは読めるが、交渉や手紙を書くというレベルには無い。私の師匠はそれを小馬鹿にして来ていたが、私みたいなのが一般的なのだ。あの酔っぱらいジジイは、いちいちそういった事で煽ってくるムカつく奴だった。
師匠からのマウントを思い出し、アルベルトに「文字の読み書きを教えてくれないか」と言ってみた所、快く承諾してくれた。
ソフィアに教わる事も出来るのだが、何か一緒に居られる口実が欲しかったので、アルベルトに教えて貰おうと思う。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、終わりの時間が漂い始める。
「食事の誘いに応じてくれてありがとうございました。僕の話ばっかりでしたけど、つまらなくなかったですか?」
「ああ。聞きたいと言ったのは私だからな、楽しかった。」
そう、楽しかった。
男と話してここまで楽しかったのは初めてだった。
「それで、その―――………」
「……?」
言おうとした事が止まってしまい、アルベルトは心配そうにこちらを見る。
ああ、そんなに私を見ないでくれ。
恥ずかしくて心臓が張り裂けそうだ。
今まで経験したことの無い心臓の高鳴り。
顔だけではなく、全身が熱くなっているのが分かる。
その所為で汗が吹き出し、目の前の男に汗臭いと思われるんじゃないかと思い、また恥ずかしくなって熱くなる。
こんな事は初めてだ。
「……―――お前は、私の事が、その、好きなのか?」
「――ッ!」
それを聞いたアルベルトは背筋を伸ばし、私の目を真っ直ぐ見た。
「はい、僕と付き合ってください。」
何人も言い寄って来る男たちはいた。
しかし、その目はみんな濁っていた。
私自身を見ているのでは無く、私の身体や、Aランクハンターの女というブランドで見ている男達ばかりだった。
だが、目の前の男は違う。
アルベルトは、私を見てくれていた。
それがとても嬉しく、そして格好良いと思ってしまった。
「―――はい。」
私は、初めて彼氏が出来た。




