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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−3 『乱獲事件編』
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第53話 これからの君を想う

 愛する人が目の前にいる。


 赤い髪を束ねた後ろ姿は凛々しく、ピンと伸びた背中は体幹がしっかりしているのが分かる。

 テーブルの前に座る僕は、幸せを噛み締めながら、その光景を目に焼き付ける。

 視線の先にいる彼女は、キッチンで肉を焼いていて、その香ばしい香りが食欲を刺激する。


 「出来たぞ。」


 彼女は僕の方へ振り向き、肉汁が溢れ出ている焼けた肉をテーブルに置く。

 テーブルに置かれたその肉は、湯気を立たせ、肉汁を跳ねさせながら食欲を刺激してくる。


 「わ〜美味しそう! また違う焼き方を教えて貰ったの?」

 「ああ、ソフィアがこの間、教えてくれてな。」

 「もう料理はお手の物だね。最初の頃が懐かしいよ。」

 「あ、あの頃のは忘れろ……! 恥ずかしい……。」

 「僕は好きだったよ。何と言うか、愛がこもってる感じがして。」

 「い、今も……あ、愛はこもってる…………。」


 赤い髪の女性は真っ赤に赤面し、それを見た僕は優しく微笑んだ。

 結婚したにも関わらず、彼女はこういう話になると顔が赤くなる。

 いつも凛々しい彼女から、こういう女の子らしい表情に切り替わるのは、ギャップがあって僕は好きだった。


 「僕も愛してる。」

 「―――っ! わ、私も………愛してる。」


 そんな彼女の可愛い所を見て、思わず心情が声に出る。

 それに彼女は答えてくれ、僕達は笑い合う。

 結婚して半年が経っているにも関わらず、この夫婦の熱々具合は健在であった。


――――――――――


 雨雲に光が遮られて、周囲の森はどんよりと空気が重い。

 雨音が森中に響き渡り、雨は1人の青年を濡らす。


 青年は黒い髪と瞳をしていて、目元は優しげな印象を持つ目をしていた。


 「はぁ、はぁ、はぁ…………。」


 青年の息は荒く、体は木にもたれ掛かっている。

 青年の左半身からは大量に血が流れ、濡れた大地により滴る血液は急速に広がっていく。その広がりは尋常ではなく、早く処置をしなければ生死に関わる事は、専門的な医療知識が無くても一目瞭然だった。


 青年の近くには大型のモンスターが転がっている。


 その大型モンスターは、青年という弱った生き物がいるのに関わらず、ピクリとも動かない。理由はそのモンスターの地面を見れば明らかだ。

 そのモンスターからも大量の赤い血が流れ、黒髪の青年と同様に地面を赤く染めている事から、青年よりも一足先に死んだ事が伺える。


 「…………これは……もう、駄目かな。」


 青年は自身の無くなった左腕と左足を見ながら言う。

 

 大粒の雨が森に響いている。

 それにより、余程近くを通らなければ声は聞こえないだろう。

 歩くにしては周囲は森だらけであり、人に出会える前に立てなくなるのは見て明らかだった。


 青年は目を瞑る。


 そして何を思うか、数秒間空を見上げた後、右ポケットにあった手帳を取り出した。


 残り少ない時間をそこに込める様に、青年は力を振り絞る。

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