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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−2 『パーティー結成編』
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第29話 お母さんと呼んで1

 ―エルザ視点―


 『バティルにお母さんと呼ばれたい。』


 ソフィアに打ち明けてからどうすれば呼ばれるかを一緒に考え、一緒に寝てみるのはどうかと言うアイデアが出て、これは良さそうだと思いすぐさま実行に移してみた。


 バティルに提案してみた所、あまり乗り気では無かったが、なんとか了承を得て一緒に寝る事に成功した。初めは慣れないからか気まずそうにしていたのだが、最近は一緒に寝るのが日常化する事に成功し、もうバティル自身も嫌そうでは無くなっている。


 それに今日、なんとバティルは怖い夢を見たそうで、目が覚めたらバティルの方から私にハグをしてくれていた。


 普段から聞き分けが良く、子供らしからぬ怪力で剣を振っているバティルだが、怖い夢を見たと言って怖がっている子供らしい所を見ると、胸の奥から愛おしい気持ちが湧き出て来る。


 昔から私は子供の事が嫌いという訳では無かったが、どう接すればいいか分からない存在として子供と言う存在を捉えていた。子供が困っているようだったら手助けをするし、悪戯をして来たとしても子供のやる事なのだからと軽く流して終わるなんて事もあった。


 カリカリしていて、ムカつく事があったらすぐに手が出ていた昔の私でも、流石に子供に暴力はした事は無い。


 アルが私を気にし出したのも、子供に優しく接している所を見てからだと言っていた。昔の喧嘩っ早い私が、子供に優しい顔をしている光景を見て美しいと感じたらしい。


 バティルに会うまでは子供に対してはそんな感じで認識し、対応してきたのだが、バティルに会ってからは子供が可愛くて仕方が無くなった。恐らく養子にしたのが分岐点だった。あれ以降、見えている世界が違くなったのを感じる。


 そうして再び、心の奥底に寝かして置いていた感情が再燃してくる。


 ――――『お母さんと言われたい』。


 ソフィアからは「そういった事はバティルの問題だから、バティルが言いたくなるまで長い目で見守って行くべきだ」と言っていて、私も「それはそうだな」と思ったのでこの1ヶ月は我慢していた。


 ………だが、もう限界だ。


 けれど、私の方から「お母さんと呼んでくれないか。」と言うのはなんだか恥ずかしい。なるべくバティルの方から「お母さん」と呼んでくれる状況が好ましい。


 それが可能か不可能かで言ったら、可能な状況に来ている気がする。


 と言うのも、ソフィアに相談してから1ヶ月が経ち、食後のティータイムや一緒に寝ると言った行動をして来た結果、出会った頃の様な怯えは皆無になり、バティルとの関係はより親密になっているのを感じる。今朝のバティルからのハグがいい例だ。これは「お母さん」と呼んでくれる関係性に近づいてきている証拠だろう。


 怖い夢を見たと言って甘えて来た今がチャンスだ。


 ここでブーストを掛ければ、より私たちの親子関係は良くなり「お母さん」と呼んでくれる未来に近づけるのでは無いだろうか。


 特に今日はブーストのチャンスだ。この機を絶対に物にしなければならない。


 (まずは何を攻めるべきだろうか。お母さんと呼ばれる為にすべき行動………。)


 そうだ。怖い夢を見たと言っていたのだからそこから攻めて行くのが定石だろう。


――――――――――


 という事で、起きたらまずやる事は素振りなどの剣の練習なので、そこで強い母親を見せてみようという考えに至った。普段ではあまりやらない、朝から激しくという事をしてみる。


 怖い夢という事なので、恐らく何か脅威が迫ってくる感じだと予想した。


 なので「そんな怖い存在が来たとしても、私は守れるくらい頼れる存在だよ。」という事をアピールするつもりで大袈裟に動いてみた。普段は朝からこんな激しく動く事は無いのだが、「お母さん」と呼ばれる為に、今日はどんどんアピールして行くつもりだ。


 そして効果は上々の様だった。


 バティルは私の素振りを凝視し、なんだったら私の真似をして少し無理をしながら剣を振っていた。…………可愛い。


 (そうだ、バティルが出来ない事でも私は出来るぞ。だから、いつでも頼って良いからな。)


 バティルに頼れる存在だと思われたいという感情が先行してしまい、最終的に全力を出してしまった事で、庭の雑草が一部剥げてしまった………。


――――――――――


 稽古も終わり、次は食事の時間だ。


 朝食をバティルと一緒に作ってテーブルに着く。


 目の前にはパンとシチュー、野菜に肉、そしてデザートに色々な果物が入ったフルーツポンチが置かれている。


 バティルとはもうそれなりに生活しているので、バティルの好みは理解している。と言っても、他の人と同じように肉や果物が好きなのだが………。


 主にバティルが一番喜ぶのはシチューだ。


 正直、私のシチューは料理の師匠であるソフィアよりは美味しくないのだが、子供が喜びそうな肉や果物よりも、シチューを出した方が喜びの度合いが違っていた。観察してみた感じで言うと、シチュー>肉>果物といった序列の様だった。


 なので、朝から全部盛りで行ってみた。今日の献立は基本的にこれで行く。昼食は甘いお菓子を追加して、晩御飯の時はパンケーキを追加しよう。


 「今日は朝から豪華ですね。何かの記念日ですか?」


 そう捉えられてもおかしくない。朝食は基本的に軽く済ませているのだが、今日は母親ポイントを稼ぐつもりなので、朝から奮発して果物や肉を多く出してみたのだ。


 「いや、記念日という訳じゃないんだが………まあ……何というか………こういう日があっても良いんじゃないかと思ってな。」


 正面きって「母親ポイントを稼ごうとしています。」なんて事は言える訳が無いので、あやふやな返答でその場を凌ぐ。


 「・・・そうなんですね。じゃあ頂きます。」


 いつもと違う食事の量にバティルは少し躊躇いを感じていたようだが、私の返答に納得して普段通り食事をする。


 観察してみた所、やはりシチューの食い付きが違う。余程バティルの舌に気に入って頂けたようだ。それにやはり成長期の男の子という事もあり、少し量が多すぎたかなと感じていたが全くそんな事は無いみたいだ。


 (これからは毎日この量で行くか? いや、流石に量が多すぎるな。それに出費が凄い事になってしまう。………だがバティルには大きくなって行って貰いたいし、これからは少し量を増やすくらいにしておこう。………む、肉の食い付きも良いな。最近ソフィアに教えて貰った焼き方を試したのだが、こっちの方が良いのだろうか。聞いてみよう。)


 「肉をいつもの焼き方とは違って焼いてみたのだが、どうだ?」


 「美味しいです! 柔らかさが違うし、口の中で肉汁が溢れてきます!」


 バティルが肉を頬張りながら嬉しそうに答える。………可愛い。


 (よしよし、良い感じだぞ。実戦で作るのは初めてだったので少し不安だったが、バティルの口に合ったみたいだな。毎回このやり方で焼いてみるか。)


 「そうか、じゃあこれからはこのやり方で焼こうか。」


 「………でも時間掛かりませんか? いつもの焼き方も美味しいので、無理しなくても大丈夫ですよ。」


 そうか、バティルも隣で人参などの皮むきをしてくれていたから時間が掛かるのを見ていたのか。確かに時間が掛かるし色々と大変なのだが、バティルに好かれるのであれば安い物だ。………だがバティル自身が心配しているし、そのまま毎回このやり方で焼いていったら申し訳無さに変わっていってしまう可能性もある。


 「そうか。じゃあ贅沢する時に作るくらいにしようか。」


 「はい、いつものだって美味しいですしね。」


 そんな感じの良い雰囲気で朝食を取る事が出来た。少し多すぎたかなと思った食事の量も残さず平らげ、バティルもお腹一杯になり満足げに食器を洗っていた。


 出だしは好調だ。この調子で行こう。


――――――――――


 それからも好感度上げを積極的にして行き、午前中から様々な事を試してみた。


 膝の上に乗せて髪をとかしてあげたり、スキンシップが大事だろうと思い、頻繁にハグなんかをしてみた。バティルは少しぎこちない感じだったが、別に抵抗する事もせずに受け入れてくれた。


 そして今日のバティルには「怖い」という思いがある事は分かっているので、トイレに行った時なんかは私も《《付いて行って》》一人にしないようにした。


 バティルは、トイレの扉の前に私が居た事に驚いていたが「1人だと怖いかのでは無いかと思った」と素直に言ってみた所、「心配してくれてありがとうございます。」と帰って来たので問題は無かったようだった。


 (よしよし、午前中は良い感じに母親ポイントを稼げただろう。午後からはもっとポイントを稼いでいくぞ。)


 それから、昼食を作る前にバティルはレイナに会ってくると言って家を出て行ったので、私も昼食の食後に出そうと思っている甘いお菓子を買いに家を出た。


 今日中に「お母さん」と呼ばれたいので、今日は奮発して良いお菓子を買って来ようと思う。バティルの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

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