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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第134話 それぞれの道

 「俺は大事な人達を守る為に強くなります。」


 昨日、俺が出した答えを皆の前で宣言をする。

 ここ数日はエルザの体調のこともあり、何か予定がある訳では無いが、毎日俺たちの家にソフィアとレイナ、アレックスが顔を見せている。

 なので今日も皆でテーブルを囲んでいた。

 そんな中で俺が口を開き、心の内を吐露した。


 「バティルらしいじゃん!」

 「うん! 良いと思う!」


 アレックスとレイナは俺の出した答えに快く賛同する。

 エルザには昨日、アレックス達に励まされた後にすぐ伝えたのでもう知っている。

 子供の成長を見守る様に、優しい瞳で笑みを浮かべているエルザとは対照的に、ソフィアはホッとした様な顔で安堵の表情をしていた。


 「そう、良かった。このまま辞めちゃうんじゃないかと思って心配したのよ。」


 ソフィアは意外にも俺がハンターを辞める事に対して反対だったらしく、俺の報告を聞いてからそう発言をしていた。レイナの時は辞めても仕様が無いといった感じの反応だったので少し意外だったが、そこを詰める場面ではないので自重した。


 「大事な人を守れる様に……か。」

 「俺とレイナの間みたいな感じだな!」

 「うん、そうだね。」

 「バランス良いわね!」


 エルザの発言から、アレックスやレイナ達がそれぞれ意見を言う。

 ソフィアが言うように、俺達はそれぞれが違う事で、それはそれでバランスが良かった。


 「強くないと守れない。だから強くなる。……その気持ちは私も分かる。」


 エルザは視線を落とし、龍神との戦闘の事を思い出しているのか、その視線は眼の前の机に向けられているのだが焦点が合っていない。


 「うん。もう、あの時みたいに母さんの後ろで守って貰うのは嫌だ。次こそは隣で戦えるくらいになりたい。

 今度こそ皆を守る。

 だから、俺は神を殺せるくらい強くなる……!!」


 あの戦いで世界最強を知った。

 いつ再び龍神と相まみえるかは分からない。

 だけど、いざその時になった時、今回のように大事な人を犠牲にして逃げる事はしたくない。


 大事な人を守る為には、世界最強と呼ばれている龍神からも守れるくらいに強くならないといけないと言う事だ。


 俺のその言葉に1番反応したのはアレックスだった。


 アレックスは俺の言葉に対して、伏せていた顔を上げて反応し、俺の覚悟を確かめるかのように俺の目を見つめていた。

 俺が「龍神を倒すくらいに強くなる」という言葉を発した事に対して、いつも龍神を倒すと宣言していたアレックスは思う所があったのかも知れない。


 俺とアレックスの視線が交わる。


 俺は本気だと伝えるために、アレックスの視線を真っ直ぐ見つめ返す。

 アレックスも俺の目の奥にある深層心理を、その類稀なる直感力で掴み取ろうと真っ直ぐ見つめてくる。


 ―――ガタッ……!


 アレックスは俺の目から視線を外して下を向いた。

 そしてアレックスは、そのまま両手を机に突っ伏しながら勢い良く立ち上がった。

 何事かと周囲が困惑する中、アレックスはしばらく顔を伏せたまま机に手を置いた状態を続けていたが、覚悟を決めた顔で顔を上げて宣言する。


 「俺ももっと強くなる! だから、俺はシラガミ山に修行に行く!」


 唐突な言葉に、俺を含めた周囲の反応が遅れる。


 「一緒に戦おうって言っておいて何だけど、バティルがそれくらいの覚悟で強くなるってんなら、パーティーメンバーとして、俺も強くなるには水猿流を磨かねぇといけねぇ!!」


 困惑する周囲を無視して、アレックスは言葉を続ける。


 「龍神と戦ってから、ずっと考えてた。もっと強くなるにはどうれば良いかって……。

 俺達の基礎はもう出来てる。連携も問題ない。

 じゃあ何が足りないかって考えたら、それぞれの専門性なんじゃねぇかって思ってた。」


 アレックスの言葉を聞いて、俺は何も言い返せなかった。

 成人になる前にAランクまで上り詰めた俺達が、基礎が出来ていないなど誰が言えようか。そしてまだ数年とはいえ、パーティーの連携も問題があるとは思えない。

 ではこれ以上の伸び代が何なのかを考えると、アレックスと同じ答えになっていくだろう。


 「3年くれ。……3年で俺は最強になって帰って来るッ!!!」


 アレックスの覚悟は目を見れば分かる。

 そんなアレックスに感化されたのは、意外にもレイナだった。


 「わ、私ももっと強くなるよ! ソフィアさん、確かソニアさんから既に招待状は来てるんですよね?」

 「……ええ、弟子が出来たって言っただけなのに「いつでも来て良い」って言って向こうから招待状が送られてるわ。いきなり行っても門前払いはされないでしょうね。」

 「それじゃあ、私も学校に行きます!」


 レイナのその言葉に対して、ソフィアは「そうよね。」とでも呟きそうな顔でレイナを見ていた。レイナは普段、優柔不断に見えて「これ」と決めたら突っ走るタイプだ。前回のAランクのクエストをやると言った時のように驚いた顔はしなかった。


 「俺は……」


 2人は共に修行先があるようだが、俺はそのようなコネなどない。

 どうしようとエルザに視線を向けるが、エルザは答えが決まっていたようで俺の不安げな声に即答する。


 「私の師匠の所が良いだろう。」


 エルザの師匠。

 その人の話は何度か話題に上がった事があるが、そこまで深くは知らない。

 エルザは「飲んだくれ」とか「クソ親父」とか言って卑下していたが、その声色には本気で嫌っている訳ではなさそうだったのが印象的だった。


 「でも、あの人って放浪者じゃない。どこにいるのか分かるの?」

 「ああ、大体は予想できる。時期によって場所を変える奴だが、今の時期は特に分かりやすい。……バティルはそれで良いか?」

 「え……、あ……。」


 会話の流れ的には俺に話が振られるのは間違いではないし、誰もが予想できる流れだろう。しかし、エルザからのバトンにうまく返す事が出来ない。


 アレックス達の強くなろうとする意志は理解できる。

 そして俺も彼らと同じく強くなりたい。

 しかし、病み上がりのエルザが心配だった。


 体は見るからに元気そうだし、傷一つない姿でここに座っている。

 だが、ソフィアが言うようになぜ生きているのかが分からないのだ。

 何故か繭に包まれていた状態だったそうだし、エルザが運ばれた後の数日は肌に白斑があったりもしていた。

 奇跡と言えば聞こえが良いが、あまりに分からなすぎて不安が拭えない。


 その事を包み隠さずに皆に言う事にした。


 「そっか、それはまあしょうがねぇよな。」


 話が盛り上がってる中、俺が水を差してしまったがアレックスは俺の気持ちを汲んでくれたようだ。


 「でも、それぞれの行き先は決まった事だし、大丈夫そうだな!」

 「そうだね。後はいつ出発するかだけど……」

 「俺は明日の朝には出発するぜ!!」

 「速くないか……?」

 「お前たちに追い付くためには1日も無駄にしてらんないからな!」


 アレックスは俺よりは前を走っていると思うのだが、アレックス自身はそう思ってはいないようだ。


 「そうか、なら手紙を一筆書こう。そうすればスムーズに話が進むはずだ。」

 「でもさ、先生が言ってたけど、エルザの名前を出しても良いの……?」

 「………多分大丈夫だ。当主とはそれなりに面倒を見てもらったし「また来い」とも言ってくれた。」


 確かに、アレックスの先生であるエヴァは名前を聞いただけで眉間にシワを寄せていた。暴れまわったという話だったが、流石に出禁とかにはされていないようだ。


 それから出発の時期も早急に決め、レイナは1週間後、俺は3週間後に行く事に決まった。


―――――――――――


 翌日。

 朝早くから俺達は村の外に集まっていた。


 「これを当主に見せれば分かってくれるはずだ。」

 「了解!」


 エルザはアレックスに手紙を渡す。


 「それじゃあ、最後に模擬戦しようぜ!」


 手紙を荷物の中に入れたアレックスは振り返り、俺の方を見てそういった。

 俺はなんとなくそう言われるのではないかと思っていたので驚きはない。

 というのも、アレックスは何故か木刀を2本も持っていたからだ。

 旅には必要ない物をわざわざ置いてあるのを考えた時、アレックスのしたい事が理解できた。


 「分かった。」


 アレックスは、前回の模擬戦で木刀を握れなかった俺を見ている。

 口では「もう一度戦う」と宣言していても、実際に剣を握っている所を見ないと安心できないのだ。

 だからこうして俺に模擬戦をすると言っているのだろう。


 アレックスは木刀を俺の前に持ってくる。

 俺を目の前に差し出された木刀を手に取る。


 揺らぎはない。

 既に覚悟はできている。


 前回は木刀を握った瞬間に震えが起こったが、今回はそうはならなかった。

 柄に手を触れ、しっかりと握られた木刀を地面から引き抜く。


 「へへっ、大丈夫そうだな。」


 アレックスは安心したようで、いつものニカッと笑う笑顔を見せる。

 俺達は互いに距離を取り、普段のように間にはエルザが立つ。

 剣を握っただけでは安心はできない。

 ちゃんと戦えるのか、俺はそれをアレックスに見せないといけない。


 「始めッ!」


 エルザの号令に反応して、俺は真っ直ぐ走り出す。

 それを迎え撃つのが、アレックスとの模擬戦のいつもの流れだ。


 ―――ガァン!


 木刀と盾がぶつかる音は、朝の村人を起こすのではないかと思えるくらいに大きかった。しかし、今の俺は周囲の事を気にする程の余裕はなかった。


 なぜなら、アレックスからは「本当にやれんのか」とでも言うように、いつもよりも攻撃の圧が強い。俺の攻撃をいなす時は滑らかで、カウンターをする時の剣速を見るに、当たれば軽い怪我では済まないだろう。


 俺はそんなアレックスに答えるように「やれる」と覚悟を込めて打ち合った。


 そして暫く剣を交えて気が付いたのだが、以前よりも体が軽くなった様な気がする。アレックスとレイナは俺が雷を纏っていたと言っていたが、そう思えるくらいに、雷を纏っていると表現できるくらいには体が軽かった。


 「くッ……」


 普段なら俺達は拮抗し、最終的にはアレックスが勝つ事が多かった。

 しかし今回はアレックスに「やれんのか」と問われた事もあり、本気で勝ちを取りに行った。

 俺がちゃんと戦闘できるという事を見せないと、アレックスは修行中にも大丈夫なのかと心配になるだろう。

 それに、アレックスは俺みたいに負けて怖気づいたり落ち込んで悩むタイプではない。そうなる瞬間はあるが、すぐにその負けをモチベーションに変えるタイプだ。だから安心して本気で勝ちに行ける。


 ―――ザッ。


 俺の剣先はアレックスの首元を抑え、アレックスは地面に膝を付けた状態で「やられた」と言うような顔をする。

 しかし、やはり俺の予想通りすぐにアレックスの瞳は輝きを帯びていた。


 「へへっ、また強くなってるな!……負けらんねぇ!!」


 アレックスは勢い良く体を起こして立ち上がる。


 「やっぱりお前には才能があるよ。……だから俺も強くなる!! 次やる時はこうはならねぇぞ!!」


 アレックスは悔しそうな声色だったが、その顔は嬉しそうであり、強くなる意志をひしひしと感じる瞳をしていた。


 「ああ、俺ももっと強くなる。強くなって、今度こそは龍神を倒そうぜ!」

 「そうだな! きっと雷を受け流す技とかあるだろうから、この間みたいにはいかねぇぜ!」


 俺はアレックスに差し出された手を握る。

 これから3年間会えない事に悲観するのではなく、必ず強くなって再開するといった気持ちが握られた手から伝わってくる。


 「アレックス君。」

 「レイナ!」


 レイナは俺達の方へ歩き出し、俺の横に並ぶ。


 「風邪には気を付けてね。野菜も食べないと体壊すから、ちゃんと食べてね。」

 「……なんか、弟みたいじゃねぇか?」

 「うん。アレックス君って危なっかしいから、心配しちゃうんだよね。」

 「なんかもっと言うこと無いのかよぉ! なんかあるだろ、バティルみたいなのがさぁ!!」

 「う〜ん。……歯も磨く事! 虫歯になったら大変だからね。怪我とかも私がいないと治癒する人がいないだろうから、怪我も気を付けて!」


 横に並んだレイナが何を言うのかと少し期待していたのだが、出てきたのは生活面の心配事だった。


 「……って言うのは半分冗談。だってアレックス君なら大丈夫だって分かってるから、戦闘とかより生活が心配だよ。」


 アレックスは反論できないのか、レイナの言葉に苦笑いをするしかなかった。

 顔を合わせた時は、おとなしめのレイナに元気なアレックスの組み合わせがどうなるのだろうと思っていたが、どうやらこういう関係で落ち着いたようだ。


 「それはそうね! 私もいないから、今までみたいに無理しちゃ駄目よ!」


 レイナの後ろに移動していたソフィアが元気良く口を開く。


 「エルザも言ってたけど、水猿流の基礎は出来てる。ほとんど基礎だけでAランクになってるんだもの、3年で全部習得できるわよ! 頑張んなさい!!」

 「うん! ありがとう!!」


 ソフィアは手を前に突き出し、グッドサインをする。

 その仕草にアレックスも答え、お互い満面の笑みで挨拶を終える。


 「アレックス、お前は強い。強くなろうとし続ける限り、お前はどこまでも成長すすだろう。それだけの素質は持っている。」

 「へへっ、うん! 俺もエルザみたいに伝説を作って帰って来る!!」

 「ははっ、それは楽しみだ。」


 アレックスの言葉にエルザは微笑む。

 ここに来る時も「エルザに会いたかった」と言っていた。

 俺はほとんどの時間をこの村でしか過ごしていないから、エルザの伝説の数々を知らない。しかし、会った人々が口々に「あのエルザか?」と聞いてくる事からしても相当な有名人なのだろう。

 帰って来る頃にはアレックスもそうなっているかも知れない。

 今のアレックスが今以上の技を習得した状態になることを考えると、ソフィアの言うように凄い事をしてしまう可能性がある。


 「じゃあ、行ってきます!」


 全員にエールの言葉を貰い、荷物を持ち上げたアレックスはこちらに振り向く。


 「お〜い!」


 そうして出発しようとした矢先、後方から声が掛かる。


 「皆ぁ!」


 アレックスの驚きの声と共に振り向くと、この村のハンター達がアレックスを見送るために集まっていた。年中二日酔いのサイモンまでもが重い体を引きずってここまで来ていた。


 「俺達も応援してるぜ!」

 「お前ならやれる!」

 「また奢ってくれ!」

 「新しい技も教えてくれよ!」


 それぞれがアレックスに短いエールを送る。……なんか変なのも混じっていたが。

 アレックスは、まさか見送りに来てくれるとは思っていなかったようで驚いた顔をしつつも笑みをこぼす。


 「うん! 最強になってくる!!」


 アレックスらしい言葉を残し、アレックスは歩き出す。

 その背中は自信に満ちており、朝日が背中を押しているようだった。

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