表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
127/137

第127話 緊急会議

 アレックス達は無事に村に帰還し、ボロボロになったアレックス達を見て村人達は「何があった!」と驚きながら聞く。アレックスが「龍神が現れた」と報告をして村は騒然となった。


 急いでソフィアを呼び、緊急会議が開かれる。


 その前にアレックス達の治療をして貰い、その間にレイナが目を覚ます。

 レイナの目覚めにより、手分けをしてアレックス達を治療する事が可能になり、素早く治療を完了させた。バティルは深刻なダメージで目が覚める事はなく、アレックスとレイナが生き証人として会議に参加する事になる。

 エルザが居ない事に誰もが疑問を持ちつつも、誰一人としてアレックス達に聞く事は無かった……。


 「もう一度聞くんだけど、龍神で間違いないんだね?」


 村長は緊迫した顔でアレックス達に聞く。


 「エルザがそうだって言ってたから、多分そうなんだと思う。」


 アレックスの返答に対して、周りは「嘘だろ……」「何でこんな端の方に……」とそれぞれが絶望的な声色で呟く。


 「エルザは子供の頃に龍神に村を襲われてる。……そのエルザが龍神だって言ったのなら、間違いなく龍神ね。」


 確信を持ったソフィアの言葉に、周りの動揺は更に激しくなる。


 「……それで、そのエルザ君は?」


 エルザの話題に触れた事で、村長は誰も聞いてこなかった話題に触れる。


 「……死にました。」


 アレックスの返答に、瞬時に周囲へ絶望が広がる。

 ソフィアはその言葉を聞いた瞬間に目を見開くが、すぐに無表情に切り替える。

 この中で1番動揺してもおかしくないのだが、ソフィアの表情はほとんど動かなかった。


 「本当に死んだの?」


 ソフィアは動揺をこれ以上広めない為に、鉄仮面を被ってアレックスに聞く。


 「……はい、私も見ていましたが、あの状態は治癒は不可能でした。」


 ソフィアの疑問に答えたのはレイナだった。

 同じ魔法使いとして、治癒魔法の使い手としての意見を素直に述べる。

 端的にエルザの状態がどうだったのかを説明して、「信じられない」と呟いていた周りの人達もその詳細な説明に納得する事になる。


 「エルザの死体を見れる状態だったって事は、龍神は致命傷だったとかなの? 詳細が聞きたいわね。」

 「そうだね。どういう流れだったのは聞こうか。」


 そこから、どういう経緯で龍神の戦闘になったかという所から、アレックスとレイナが会議に参加した人達に説明をする。

 いつも通り狩りに出掛けて、突然龍神が現れた事。

 龍神との戦闘になるが、バティルが戦闘不能にされて退散した事。

 その殿にエルザが立ち、最後まで守ってくれた事。

 自爆覚悟でエルザが特攻して、それでも龍神が止まらなかった事。

 龍神に追い詰められ、白い蛇のようなモンスターが助けに来てくれた事。


 「白い蛇……?」

 「……うん。普通の蛇と違って空中に浮いている不思議な生き物だったんだけど、蛇みたいな長い体をしてた。」


 それを聞いた周りは「蛇神様か…!?」と騒ぎ出す。


 「何だ、守り神が来てくれているのか……!」

 「神同士であれば、そこまで慌てる必要も無い…のか……?」

 「だったらエルザを回収出来るんじゃ……。」


 村人に「エルザを回収する」と言う提案がすぐに出てくる当たりが、エルザが親しまれている現れだろう。

 しかし、その提案に対して「待った」を掛けるのは救われたアレックスとレイナだった。


 「……その、回収しに行くのは待った方が良いかも知れない。」

 「何でだ……?」

 「龍神は何でか知らないけどバティルを狙ってた。正面にエルザとか俺達が居ても構わずに……。」

 「なので、もしかしたらこの村にも来るかも知れないんです。」


 レイナのその言葉を聞いて、村人達の顔は再び暗くなる。

 村長は「そうか……」と呟いた後、ソフィアの方へ視線を動かしてから視線を戻し、数秒ほど考え込むように右手を眉間に運ぶ。

 周りは村長の考えがまとまるまで黙って待った。

 この村の英雄の判断に従うつもりなのだろう。


 「ソフィア君、すまない。……村は防衛に専念しようと思う。」


 しばらく熟考した後、村長は申し訳無さそうにそう言うが、ソフィアは顔色一つ変えずに答える。


 「私もその方が良いと思う。……だから謝らないで大丈夫ですよ。」


 その返答に周囲の村人達も安堵する。

 誰一人として安堵のため息を立てた訳では無いが、村長の発言に対して周囲は張り詰めていた。もしかしたらソフィアが激昂してしまうかも知れないと頭が過ぎったが、そうならなかった事で安堵しているのだ。

 もしも龍神がこの村に現れてしまった際、一番頼りになる人物はソフィアだ。

 そのソフィアが機嫌を損ねてしまって「村を離れる」や「エルザを回収しに行く」と言って村を離れられては困る。


 「ありがとう。……でも安心して欲しい。1日、明日の1日だけ防衛をして様子を見ようと思う。その後に偵察も込みでエルザ君の回収に行って貰いたい。」

 「ええ、分かった。龍神が来たら報告してね、今度は私が時間を稼ぐから。」

 「…………そう、か……うん、分かったよ。」


 ソフィアの言葉に何かを感じ取ったのか、村長の返事は少しぎこちなかった。ハンターとして長く活躍して来た村長は沢山のハンターに出会い、そして沢山のハンターと別れを遂げてきた。その経験から、今のソフィアから何かを感じ取ったのだろう。……しかし、村長はそれ以上は踏み込まなかった。


 「よし、じゃあその方向で話を進めよう。まずは防衛の事だけど―――……」


 そうして、緊急事態ではあるが村の英雄が指揮を取ることでパニックにはならず、龍神を迎え撃つ準備を進めたのだった。


――――――――――


 静まり返った森の中を1人の女性が歩く。


 その女性は全身に白い着物のような服を着ており、純白の肌に純白の髪をしている事で、草木の緑や土の茶色が多い森の中では一際浮いていた。


 そこは龍神と蛇神らしきモンスターが激突した場所である。

 龍神という神が戦闘をした場所という事もあり、その森は破壊の限りを尽くされて崩壊していた。


 「……………。」


 物音がしないのでその戦闘は終了したと見れる。

 しかし、どのモンスターも生き物もここには戻って来ていない。

 これだけの破壊をした龍神の残り香がある場所になど誰も近づかないのだ。

 だが、そんな場所を純白の女性は歩き、立ち止まる。


 「……流石は猿神に認められた赤毛族。凄まじい生命力ですね。」


 女性が呟いた先にあるのは水の塊だ。

 その水の塊の中にはエルザが入っており、ボロボロだった体は少しだけ再生しているように見える。だが、まだまだエルザの体は損傷が激しく、痛々しい姿のまま水の中で浮いていた。

 そこから女性はエルザの肩に刺さっていた黒刀を引き抜き、そのまま地面に突き刺す。


 「もうストックが残っていないんですが……―――」


 純白の女性は細い指先を顎先に持って行き、数秒ほど考えるような仕草で中に居るエルザを見る。


 「――……それでも貴方は『彼』を育ててくれた。その恩は返すべきでしょう。」


 そう言って女性は左手を右手首に持って行く。


 ―――ブチッ!


 そこから何の躊躇もなく、女性は自身の右腕を引き千切った。

 普通なら痛がる所を、女性は何ともない顔で千切れた右腕に視線を向ける。

 千切れた右腕からは出血が見られず、女性の体の方からも出血をしていない。体を傷付けたら血が出ると言うのが普通の人間からすると、その光景は不気味で仕方が無いのだが、女性は「いつも通りの光景だ」とばかりに何も表情が動いていない。


 女性は千切れた右腕をエルザが入っている水の中に入れる。


 すると右腕は炭酸水かのように泡を吹き出し、中に居るエルザと違って水に溶け始める。

 それを見た女性は、今度は地面に左手を触れる。

 そこから波動のような波が地面に伝わり、左手を中心にして周囲から青い光が現れる。青い光は空に伸びていき、ドーム状に変形をしてエルザを包む。

 そのドームは10メートル程の大きさをしており、半透明をしているので外からも中が見える形なのだが、中に居る人物だけが外からは見えていなかった。


 「これで大丈夫でしょう。………念の為もう少し追加しますか。」


 それから女性はエルザを包む水の塊に左手を触れ、その左手を中心に蜘蛛の巣のような糸が出る。その糸は水の塊を覆うように伸びて行き、最終的に繭のように全身を覆ってしまう。


 「偵察隊が来るまではこれで持つでしょう。」


 女性はエルザが包まれた繭に背を向けて、半透明のドームの膜から出て行く。


 「それにしても、まさか彼が雷を纏うとは……。」


 そう呟いた女性は、エルザが安置された半透明のドームの方へ振り向く。

 数秒ほどそちらを見て何かをしようとするが、結局何もせずにその場を立ち去る。


 「もう少し様子見ですね。」


 白い女性はそう言って、無音の森の中でスッと姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ