第126話 龍神 vs 『 』
―アレックス視点―
「な、何だ……?」
突如現れた白いモンスターが、目の前で背を向けている。
その立ち姿は俺達を守ってくれているかのような姿で、蛇のような長い体で龍神の視線から俺達を隠す。
そこから白いモンスターはこちらに振り向く。
その瞳は青白い色をしていて、金色の角が2本生えている。
鼻先には太いヒゲが2本生えていて、頭部には髪のような白い体毛が生えていた。
羽のない体なのにも関わらず、その体は宙に浮いている。
その佇まいはモンスターにしては気品を感じられ、純白の鱗を身に纏う姿は神々しさすら感じさせる。
しかし、俺はもしかしたら獲物の取り合いをしているのかと思い警戒する。
俺はバティルの体を隠すように後ろに回して、白いモンスターと視線を交わす。だが白いモンスターは俺と視線を合わした後、クイッと顎を突き出す動きをする。
その動作は「逃げろ」と言っているかのような仕草だった。
「グオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
吹き飛ばされた龍神は起き上がり、今までで一番の咆哮をする。
その声色は激しさを増しており、まるで宿敵を目の前にしたかのような怒りの籠もった咆哮だった。
そして、いつの間にか曲がっていた上顎が修復されており、黒いモヤが上顎付近から溢れている。
「キュォォォォォォオオオオオン!!!!!」
そんな咆哮に対して、白い蛇のようなモンスターも力強い声色で返す。
反抗的な白い蛇に対して、龍神は瞬時に赤黒いブレスを放つ。
白い蛇もブレスを速射で反撃。
赤黒い光線と青白い光線が両者の間に激突する。
「――……くッ!」
白い蛇の後ろに隠れているとは言え、両者のブレスの衝突による爆煙は俺達を包む。
「レイナ行くぞ……ッ!」
俺は横にいるレイナの腹に手を回す。
左肩にはバティルの体を乗せて、右肩にはレイナの体を肩に乗せる。
俺もダメージがある状態だが、そんな弱音を吐ける状況でも無いので力を振り絞る。
「グオオオオオォォォォ!!!!」
2人を担いで走り出した所で、アレックスの背後から龍神は咆哮する。
アレックスを、いや、バティルを追う為に龍神は走り出すが、白い蛇も動き出す。
空中を浮く白い蛇はその場でとぐろを巻き、バネのように弾けて突進をする。
――ドンッ!!!
白い蛇の攻撃は凄まじく、龍神の体は突進攻撃を止める事が出来ずに後方に押される。踏ん張る足が地面を削り、一直線に伸びるそれはまるで電車道の様だった。
龍神と白い蛇はアレックスが走る逆方向へ戦場を移し、アレックスは後ろを振り返らずに森を走った。
――――――――――
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!」
森を疾走している俺は、休憩時間を挟まずに足を前に出す。
俺の体力は疲弊しているし、バティルやレイナの治癒や止血もしたい所だが、それをした結果が先程の追い付かれる事に繋がったので出来なかった。
しかし、幸いに俺達は森を抜ける。
「だぁぁ――……、ハァ、ハァ、ハァ……。」
俺は森を抜け出した事で、地獄から抜け出した感覚になり一度立ち止まる。2人を担いで木の根などが凸凹と盛り上がった地面を走った事で、俺の足は疲労で震えていた。
「レイナ、大丈夫か?」
ここまで必至に走っていたから、その間に会話などは無かった。
森を抜け出した事でようやく話せるくらいにはなったので話しかけたが、レイナから返事が無い。
「―――ッ!?」
まさかと思い、すぐに2人を降ろして脈を確認する。
「……よ、良かった。」
返事が無いので焦ったが、ちゃんと2人共に脈はあった。
俺は緩んだ緊張を再び戻して、取り敢えず応急処置だけをして2人を担ぐ。
―――ゴゴォォ………。
森の入り口から離れようと立ち上がったのに合わせて、森の方から雷鳴のような音がここまで聞こえる。それは今だに戦闘が続いているという事でもあり、油断できない状態だという事でもある。
「くそ……ッ! 何も、出来なかった……ッ!」
雷鳴を聞いて、先の戦闘がフラッシュバックする。
エルザの決死の覚悟。
龍神の爪が襲いかかる瞬間。
レイナが龍神の足止めに名乗りを上げる瞬間。
バティルの覚醒。
それを思い返して、自身の不甲斐なさを痛感せざるを得ない。
俺の呟きに対して、誰も応える人はいなかった。
「クソッ、クソ……ッ!」
俺はいつの間にか泣いていた。
歯が割れてしまうのではないかと思うほど噛み締め、悔しさのあまり涙が頬を伝っていく。
パーティー初の敗北。
アレックスの足取りは重く、踏みしめる足は地面に足跡を残す。
苦い苦い敗北だった。
――――――――――
「グオォォォォォォォ!!!!」
白い蛇の突進攻撃により、龍神の体は電車道を作って森を削る。
相当な距離の電車道を作った後、ある場所に着いた事で白い蛇が動く。
龍神の頭は白い蛇の2本の角の間に挟まっており、上を向いた状態である。
そこから白い蛇は頭を上げ、龍神の巨体を首を起点に持ち上げる。
投げるように持ち上げた事で龍神の体は空中に浮き、角に挟まっていた頭部もスッポリと抜ける。
―――ドゴンッ!!!
距離が離れた事で喜ぶのも束の間、白い蛇はブレスの準備を先にしており、投げ飛ばされ宙に浮いた龍神に向かって青白いブレスを吐き出す。
翼を使う事が出来ない龍神はそのままそのブレスを全身に浴び、慣性の法則に従って吹き飛ぶ。
「グルルルル………。」
吹き飛んでいった龍神を視界で追っていた白い蛇は、すぐに視線を外してとある場所を見る。
そこには黒刀が肩に刺さった死体が転がっており、白い蛇は素早い動きでその死体に近付く。その死体はエルザのもので、白い蛇はその死体に鼻を近づける。
「……………。」
そこから何を思ってか、白い蛇は一滴の涙を流し始める。
その涙はエルザの死体に流れ落ち、その全身を覆うほどの一滴の涙はエルザを包み込む。涙は地面に吸われる事はなく、ゼリーのように、水滴のようにその場に留まってエルザを包んでいた。
エルザの体はその中でフワフワと浮いており、それを目視で確認した白い蛇は満足そうに見つめてから龍神の方を見る。
「――ォォォオオオ!!!」
怒り狂った龍神の咆哮が聞こえる。
森の奥で赤い光が見えた事で白い蛇は奥で何が起こっているのかを察し、白い蛇もまた、口元から青白い光を放つ。
―――ゴォン!!!
両者のブレスが再び衝突する。
エネルギーの衝突は拮抗し、龍神と白い蛇の間で弾けて森を破壊する。
破壊された事で開けた視界の先には、全身を黒い霧で覆われている龍神が立っていた。上顎同様、その黒いモヤに包まれた龍神の体は修復しており、破壊されていた翼も元に戻って再生していた。
龍神はその場で翼をはためかせ、地上から離陸する。
それを見た白い蛇も元々浮いていた体を更に上昇させて、龍神と同じ高度で視線を合わせる。
「グオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
「キュォォォォォォオオオン!!!!!!」
互いに咆哮をし、対象的な雷を纏って突進をする。
曇天の空はますます暗くなり、雷鳴が鳴り始めていた。




