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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第118話 龍神 vs 剣聖(2)

 森に一本の火柱が出来る。

 その瞬間火力は凄まじく、水々しかった木達を一瞬にして黒くする。

 火柱は横一線に伸び、衝撃波と共に熱波が周囲を干上がらせる。


 「グォォォ……。」


 焦げた道の先には龍神がいた。

 高温で焼かれながら吹き飛ばされた体からは水蒸気が立ち上り、その威力に龍神はぐったりと地面に倒れながら、うめき声の様なか細い声を上げていた。


 (やれる……ッ!)


 倒れ込む龍神を視界の先に捉え、私は止めを刺すつもりで一気に距離を詰める。

 今度は腹だけでのはなく、全身に攻撃を加える。

 バティル達の攻撃に加え、レイナの巨大な氷塊をぶつけられ、私の炎の攻撃を受け続けた龍神の鱗は限界を迎えていた。

 一刀一刀に力を込めた私の剣は、龍神の鱗を破壊しながら斬り刻む。


 「グオォォォ!!!」


 流石に一方的にはやらせないとばかりに龍神も立ち上がる。

 尻尾で攻撃したり爪で攻撃したりするが、その傷で近距離の私に着いて来れる筈もない。

 私はその攻撃を避けながら、脆くなって来ている鱗を砕いていく。

 そこから龍神は「これは無理だ」と判断したのだろう、龍神の全身が赤く光る。

 私はその攻撃が来たら離れようと意識を割いていたので、その攻撃の前兆を察知した私は難なく回避する。


 龍神の体にバチンッという音を立てて赤い雷が全身に走った。


 さっきまで私が居た場所の他に、無造作に周囲へ雷を放射していた。

 その攻撃にどこか余裕は感じられず「なんでも良いから当たれ」といった雑な感じが見て取れた。


 「グルルルルルル………。」


 龍神は距離の離れた私へ視線を向ける。

 龍神の体はさっきよりも切り傷が増えており、全身から血が流れ落ちていた。普通の大型モンスターなら弱っている所を見せて、完全に私が優勢であるのが確信できるくらいのダメージを表面に受けている筈だ。

 しかし、龍神の佇まいは今だに覇気を感じる。


 (………本当にタフな奴だな。)


 普通なら意気消沈していてもおかしくないのだが、今の龍神はむしろやる気になっている様に見える。


 龍神の胸元にある結晶の周りが赤くなり、龍神の口の奥が赤く光りだす。

 ブレスの前兆を見て、私はその場から離れる。


 ―――ドンッドンッドンッ!


 しかし、龍神は簡易のブレスを連発した。

 今まで一発ずつの発射だったのでこの攻撃は予想外だった。


 「――なッ!」


 一発避ければ良いと思っていた私は不意を突かれたが、何とかその3連発のブレスを回避する。肝を冷やした事でホッとする暇はなく、続けて龍神は扇状に雷のブレスを吐き出した。

 溜めたブレスは色々な形で放出できるのか、さっきから攻撃の種類が増えている。


 木が覆い茂っていた森は一瞬で薙ぎ倒され、周囲の景色は一気に広がる。


 龍神の攻撃はそこで一旦終了かと思いきや、今度は空に向かってブレスを吐き出す。何事かと思い空を見るが、空に何かがいる訳ではなかった。


 「なッ……!」


 何をしているのか分からず混乱していたのだが、打ち上げたブレスの様子を確認して私は驚きの声を上げる。


 吐き出されたブレスは空高くまで打ち上がり、そうして重力に沿って地面に帰って来る。雷のブレスは空中分解して行き、剥ぎ取りナイフ位の大きさで雨のように変形して降り注いだ。


 ――――ドドドドドドドドッ!!


 周囲に木があれば、木の陰に隠れてやり過ごす事が出来ただろう。

 しかし、それが分かっていたかの様に事前に周囲の木は破壊されていた。


 「―――くッ!」


 私はその場で上から降ってくる雷を避ける。

 剣で弾いたり、隙間を抜けて避けたりをして何とか回避を続ける。

 剣に当たる時に「バチッ!」という音がするので、恐らく当たったら感電するタイプの攻撃なのだろう。


 こんな攻撃をしてくるモンスターなど出会った事がない。


 事前に物陰に隠れる要素を無くし、上空から範囲攻撃をするなどというテクニックをほとんどのモンスターはする事はない。

 しかし、知恵のあるモンスターは確かにこういった攻撃もするので、龍神もそういうタイプなのだろう。……まあ、神と呼ばれているのでそれくらいの知恵はあって当然か。


 「グオォォ!!」


 そんな雷の雨の中、龍神だけは何ともない顔で急接近する。

 自身の雷で感電する事は無いのだろう、バチバチと音を立てながら走り出す。

 既に振り上げられた右腕は赤い雷を纏っており、雷の雨から避け続ける私に振り下ろされる。


 ―――ブオンッ!


 しかし、その攻撃すらも私は躱して見せる。

 確かにタイミングは完璧だったし、普通のハンターならパニックになって食らっていただろう。だが、私はこういうのもソフィアに協力して貰って鍛錬した事があr――――


 ―――バチンッ!


 龍神の振り下ろされた爪を避けた後、着弾した地面から雷が1メートルの範囲で伝播する。それは水滴が落ちた時の波のように地面に伝播し、スレスレで避けた私にまで伝わって来ていた。


 3連撃のブレスを回避し、空に打ち上げられたブレスを回避し、追い込んだ私を仕留める為の引っ掻き攻撃も回避した。

 引っ掻き攻撃が狙いなのだと思っていた。


 しかし、これが本命だったのだ。


 気付いた頃には私の体は感電し、力が抜けていく。

 龍神に遭遇した時の初撃と同じ様に、私の体は力なく地面に膝を着いた。

 動きたくても動けない、意識はあるのに、視界は正常なのに、目の前で行われる次の動作に体が反応しない。


 「グオォォォ!!!!!」


 ―――ドンッ!!!


 ようやくチャンスが来たと喜びの雄叫びを上げる様に咆哮した後、龍神は左腕を振り上げて、渾身の一撃を私に叩き込む。


 「―――!―――――!!!」


 左の爪が着弾すると同時に、電流が私の体を通過する。

 武気のおかげで体外的にはダメージは少ないが、感電によるダメージは深刻だった。内側から筋肉が強制的に反応し、自分の体では無いかのような動きをする。


 ―――ドンッドンッドンッ!!!


 身動きの取れない私の体に、龍神の剛腕が何度も私に降り掛かる。

 着弾する度に私の体は硬直して意識が飛びそうだ。


 バティルを救出する前、視界の先で何度も轟音と雷のバチッという音が鳴っていたがこういう事だったのか。

 これは意識が持っていかれても仕方がない。


 龍神は締めに一回転をして尻尾でエルザの体を吹き飛ばす。

 全身をやすりで削り取られたかのような感覚になりながら、なすすべ無く全身でその尻尾を受け止め、吹き飛ばされる。

 エルザは為すがままに地面を転がり、何本も木をへし折りながらようやく止まる。


 「ガハ……ッ!」


 こんなにダメージを与えられたのは何時ぶりだろうか。

 全身に痛みが走るのは、この数年ではまず無かった。

 ソフィアと共に成長してから、ほとんど怪我などして来なかったから、この痛みは懐かしさすらも感じる程だ。


 今だに痙攣する体を無理やり起こす。


 追撃を警戒しての起き上がりだったのだが、龍神はすぐには追撃をして来なかった。何事かと思い龍神の方へ視線を動かす。


 「グオォォォォ!!!!!」


 龍神は勝利の雄叫びの様な咆哮を上げていた。

 追撃をしない所を見るに、勝ったと思っているのか。

 ……舐められた物だ。


 この戦いはバティル達を逃がす為の戦いであり、時間稼ぎの戦いだった。

 私もある程度時間を稼げば逃げるつもりだったので、完全に本気だったという訳ではない。


 ただ、ここまでダメージを与えられるとその余裕も無くなる。

 逃げる為に、私も本気にならなければいけないだろう。


 (翼は斬った……――――)

 「―――……次は、足を貰うぞ。」


 再びこの森に、閻魔が顕現する。

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