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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第115話 龍神 vs 黒翼の狩人(2)

 爆煙が落ち着き、ようやく視界が開ける。


 視界の先には巨大な氷塊が地面に突き刺さっており、割れた地面がその威力がどれ程の物だったのかを伝えさせていた。


 「やったか……!?」


 アレックスはテンション高くそう言うが、それは言っちゃいけないセリフだ。俺も言いそうになったのをグッと抑えたのにも関わらず、その法則を知る訳がないアレックスはすんなりと声に出してしまう。


 ―――バチッ…!


 その言葉に反応するように、何度も食らったあの音が氷塊の方から聞こえる。


 ―――バチバチバチッ………ジジジジジジジ……ッ!!


 初めは音だけが聞こえていた所から、クレーターになった地面から赤い稲妻が地面に走る。まるで科学の実験で見た事のある、テスラコイルから発せられる雷のような光景が目の前に広がる。


 ―――ジジジジジジジジジジジジッ…………ドンッ!!!!!


 雷の放電は範囲が広がり、轟音と共に目の前の巨大な氷塊が真っ二つに割れる。


 「グオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!」


 割れた氷塊の下から現れたのは、真っ赤に染まった龍神だった。

 2本の角は赤く染まり、全身の鱗の隙間から赤い光が漏れ出ている。

 全身はバチバチと音を立てて帯電しており、地面に赤い稲妻が走る。


 その姿は見るからに怒りが籠もっており、目が血走っているとかではなく、全身が血走っていると表現できる位には怒り心頭だった。


 「グオオォォ………ッ!」


 龍神は俺達の事を視認すると、喉を引っ込める様な動作を始める。

 それと同時に胸元にある赤い水晶の周囲が光りだした。

 再びテスラコイルの様に赤い稲妻が周囲へ走る中、俺はその動作を見て違和感を感じる。


 初めはダメージがあって怯んだのかと思っていたが、様子が違う気がする。

 あの様子は何と言うか、力を溜め込んでいるような―――


 「―――ブレスだ、避けろ!!!」


 俺達はその声に反応して横に飛ぶ。

 それとほぼ同時のタイミングで、龍神が引っ込めていた顎を突き出す。


 ―――………カッ!


 一瞬、森全体が光に包まれる。

 その瞬間に音は無く、光だけが俺達を包み込む。


 ――――ドンッ!!!!


 光が俺達を通過した後、遅れて轟音が耳に響く。

 その轟音も一瞬で過ぎ去り、風圧だけが残って俺の肌を撫でた。


 「―――なっ……!!」


 俺は既の所でその攻撃を回避して、俺達が居た場所へ視線を動かす。

 そこには一直線に地面を削られた森があった。

 そこにあった筈の木々達は跡形もなく消滅し、生物の鼓動を感じさせる事はない。

 どこまでも続く抉られた地面に、焦げた匂いと共に水蒸気が立ち込んでいた。


 「全員無事か!!」

 「しゃあ!!!」

 「大丈夫です!」

 「大丈夫ッ!」


 エルザの声に全員が反応し、無事だと知って俺自身もホッとする。

 周囲を見て、隣にアレックスが居る事を確認する。

 反対側にはレイナとエルザが居て、2人共外傷が無い事を目視でもきちんと確認する。


 「あれは、ヤベェな……。」


 横にいるアレックスを見ると、アレックスの額には冷や汗が流れていた。

 俺も同じだった。

 何が起こったのかを目視で確認する事が出来なかったが、周囲を見れば何が起こったのかをすぐに理解できる。

 さっきまで俺達が居た地面が抉れ、そこには焦げた地面と蜃気楼しか残ってはいない。そこに居た生物は一瞬で蒸発してしまったかの様な光景に、少しでも避けるのが遅れていたらと思うと寒気がする。


 「ああ、あれは盾で――――」


 俺達が話をしている事など関係ない。

 俺がアレックスの言葉に返答しようとしたが、龍神は全身を赤色に染めた状態で俺達の方へ接近してきた。

 そのスピードは先程よりも速く、俺はその一瞬の隙を突かれた事で反応が遅れる。


 「―――ッ!」


 しかし俺達はパーティーだ。

 俺の反応が遅れたが、隣に居たアレックスは違っていた様で、瞬時に俺と龍神の間に入る。


 「俺が―――ぐッ!?」


 間に入ったアレックスだったが、龍神の爪攻撃を流す事が出来ずに横に吹き飛ぶ。

 俺はアレックスを信じてバックステップで回避したが、目の前でアレックスが横に飛んで行くのを見て驚く。

 今までも何度か攻撃を流す事が出来ない事はあった。

 しかし、そういう時はバランスを崩して盾を持っている左腕が横に流れるくらいしか失敗した所を見た事が無い。


 「アレックス!」


 俺はついそんなアレックスを視線で追ってしまい、龍神を視界の隅に置いてしまう。


 ―――バチッ!


 全身を赤く染めた龍神の体に、予備動作などは存在していない。

 いや、もしかしたら予備動作はあるのかも知れないが、視界の隅に置いてしまった俺にその初動を察知する事は出来なかった。


 「――がッ……!」


 俺の体は硬直し、力が抜ける。

 視界の隅の方でエルザがこちらに向かっているのが見えるが、それよりも速く龍神は行動する。


 龍神はそのまま俺の体に突進をした。


 雷によって俺の行動を阻害してから、避けれなくなった俺に向かって一気に加速する。地面を蹴る足からは大量の土が抉り取られ、俺との距離を瞬時に縮める。

 エルザが龍神に向かって剣を振り下ろす前に、龍神は俺を連れてその場を離れる。


 「―――! ――――! ――――――――!!!!」


 声にならない声が出る。

 俺の目の前には龍神の2本の角があり、帯電する角は俺に電流をプレゼントする。

 電気マッサージの何倍もの威力の電気をその身に浴びて、俺の筋肉の感覚はおかしくなっている。

 それに加えて後ろからは木の幹が俺に激突し、下手をしたら100メートルは引きずられただろうか。

 感電による痛みと、龍神の硬い頭部と背後にぶつかる木々に板挟みになる圧迫感で吐きそうだ。


 龍神は最後に俺の体を空に打ち上げ、俺はようやく開放される。

 そのまま空中を飛び、何の受け身も取れずに俺の体は地面に落下した。


 「グオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!!」


 筋肉の神経は言う事を聞かないが、聴覚は仕事をしている様で龍神の咆哮が聞こえた。冷静に状況を判断できる脳に対して、ビクビクと痙攣する体は脳からの司令に変な形で答えていた。


 (動け!動け!動けぇ!!!)


 俺は全神経を集中させて、全身に「動け」と電気信号を送る。

 しかし、一瞬の感電で一時的に動けなくなったレベルの物を遥かに凌ぐ電撃を直撃し続けた俺の体は反応できない。

 

 このままでは不味い。


 エルザ達と引き離された挙げ句、俺は体が動かない。

 エルザ程の強者が今だに助けに来てくれていない事を考えるに、相当な距離を走ったのだと推測できた。

 途中途中に意識が飛んでいたのだろうか、俺自身はそこまで長い距離を走っているという感覚はなかったのだが、助けが来ないという事はその可能性が高いだろう。


 吠える龍神を他所に、俺は今だに麻痺している状態でなんとか体を動かして立ち上がる。しかし俺の膝は笑っており、まともに走れる様な状態ではない。

 更に龍神のさっきのスピードと言い、今の俺では単独で相手をして良いレベルではない。

 少しでも距離を離そうと笑った足を動かす―――


 ―――ドンッ!!


 一歩を踏み出そうとした俺は、気付けば地面にキスをしていた。

 何が起こったのか分からなかったが、背中に感じる硬いものと気配に踏み潰されたのだと気が付く。

 押し潰される感覚と共に、再び全身に電流が流れる。


 「――――――!!!!!!」


 全身の筋肉が縮んでいく感覚と、押し潰される痛みに声を出そうとするが、地面に顔面を押し付けられている事でやはり声にならない。


 ―――ドンッ! ドンッ! ドンッ!!


 追撃で3度の踏み付け攻撃を食らう。

 その度に電流が追加される事で、俺のダメージは深刻だった。

 ゴリバルクの攻撃を何度も耐えて耐え切った俺の体は、この数回の連撃で限界を迎える。


 龍神は、今度こそ動かなくなったバティルを目視で確認する。


 それから龍神は喉を引っ込め始める。

 胸元にある大きな赤い水晶の周りが光だし、再びエネルギーが漏れ出るように放電し始める。森全体を赤く染める様な発光が始まり、照準は地面に転がっているバティルに向かっていた。


 それでもバティルは動く事はなく、龍神は横たわるバティルに視線を合わせる。


 ――――カッ……!


 再び森に赤い稲妻が走る。

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