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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第111話 青天の霹靂

 イクアドスから1ヶ月を掛け、ビエッツ村に帰って来た。


 「帰って来た頃には涼しくなっているのかな」と考えていたが、村にはまだ夏の残暑が残っている状態だった。

 約2ヶ月の留守をしていたが、特段ビエッツ村には問題が起こらなかったそうで、帰った時には元気に皆で迎えてくれたのだった。


 帰って来てからすぐ、何故か村の人達と宴会をする事になって、イクアドスがどんな所かとか、行ってみてどうだったとかの質問の嵐が俺達に押し寄せる。


 言われてみると、この世界にインターネットが無い訳で、外の世界を知る事が少ないのだ。だから「外に行ってきた」と言うだけで、ここでしか生活していない人からしたら興味が出て仕方が無いのだろう。

 と言っても、俺はそんなに口が上手い方ではないので、その時はアレックスが盛大に活躍してくれる。


 自身の出身の土地という事もあってか、イクアドスの歴史から始まり、俺も見た「第2次人獣戦争」で活躍した壁の説明を流暢に喋りながら説明していた。

 それを村の人達は興味津々といった感じで聞き込んでおり、アレックスは気分が良くなってずっと話していた。


 その話の中で、ハンター達が驚いた事があった。

 それは、俺達がAランクに上がったという話をした時だ。


 村のハンター達は、俺達がAランクに上がるのは当たり前だと思っている。

 現に、この村を離れる前から「いつになったらAランクに挑戦するんだ?」と言われる程だったので、この村のハンター達からしたら予想通りだっただろう。

 しかし、アレックスが語った内容は彼らの予想を超えていた。


 彼らが驚いた所は「俺達がそれぞれ1人で大型モンスターを討伐する。」という所だった。


 それを聞いたハンター達の反応はそれぞれで、「冗談よせよ」と笑う者がおれば、「何を考えているんだ」と怒る人もいた。その大半は後者の人が多く、同伴していたエルザに向かって抗議の言葉を投げかけていた。……そして、何故かその中にソフィアも「そうだそうだ!」と入っていた。

 村長は、驚いた顔でその話が本当なのかをレイナに聞き、レイナが肯定した後、「やれやれ」とでも言いたげな顔でエルザを見ていた。しかし、その顔は別に怒っている様子ではなく、どちらかと言うと苦笑いに近かったと思う。


 エルザはそんな抗議に対して毅然と独自のハンター感を熱弁したが、狩りの危険さを身に染みて理解している彼らはそれでも間違っていると反論したのだった。

 ただ、そこで割って入ったのが我らがアレックスで「結果良ければ全て良し」的な論理で周りを丸め込んでいき、話を上手く切り替えてアレックスの「Aランククエスト編」の劇場が始まった。


 何とか話が逸れてエルザは安心しているかと思いきや、自身の価値観を否定された彼女は不貞腐れて酒を飲んでいた。

 俺はそんなエルザに「でも俺は良いと思う」という話をして、何とかエルザの機嫌を回復させてこの宴会はお開きになった。


――――――――――


 「いや〜、やっぱり凄く良いな!」


 アレックスは自身の剣に付いた血を拭き取りながらそう言う。


 今は宴会があった数日後で、丁度今、モンスターを討伐した所である。

 アレックスのそのセリフは、村に帰って来る間に何度も言っていた言葉で、実際に実戦で使ってみた今でもその評価は変わらないらしい。


 「どうだ? 姉さんの作った剣は。」


 そばに居たエルザが俺にそう聞く。


 「凄く良いですね! 今までより重さがある分、一撃一撃がしっかり入っていく感じがします。」


 実際に使ってみて、素直にそういう感想になる。

 まだ少し遠心力に負けてよれてしまう部分はあるのだが、それでもこの斬れ味と硬さは魅力的だった。

 この剣を完全に扱い切れる事が出来れば、正直なんでも斬れてしまうのでは無いかという気さえしてくる。


 「そうか、良かった。……レイナはどうだ? サイズが合わないとかは無かったか?」

 「はい、完璧です。軽さなんかも凄くて、戦闘中は全く気になりませんでした。気が散らないので凄く良いです!」


 そんな俺達の反応に、エルザは満足げに「うんうん」と頷いて答える。

 やはり自身の姉が作った物を褒められるのは嬉しいようで、貰ってから1ヶ月が経過していてもエルザは嬉しそうだった。


 「折角ならもっと強い奴とやりてぇよ! Bランクのクエストじゃ物足んない!」

 「えぇ〜、俺まだこの剣使い切れてないから嫌だよ。」

 「使ってたら慣れていくって〜、俺達もいるからさ、次はAランクやろうよ!」

 「………そもそもAランクが発行されて無いから、当分は無理だと思うよ。」

 「えぇぇぇぇ!! 何だよぉ〜、早く大型来いよぉ〜……!」


 アレックスはレイナのその話を聞いてテンションが下がったのか、不貞腐れた顔で木に凭れ掛かる。村人からしたら大型モンスターなんて現れて欲しく無い筈なので、コイツはとても不謹慎な事を言っている。

 『人の為のハンター』を掲げているエルザも、流石にその言葉には聞き捨てならない様でアレックスに対して軽く注意していた。


 そんなアレックスを横目に、俺は目の前の仕事に集中する。


 討伐をした後は剥ぎ取りをきちんとしないといけないので、アレックスの様に寝転んでいる場合では無いのだ。

 俺は討伐したモンスターの部位の剥ぎ取りを続ける。


 ………俺は剥ぎ取りをしながら「何だか凄い所まで来たなぁ〜」という感想が込み上げてくる。


 この世界に来た時は、右も左も分からない状態だった。

 そこら辺の草を食ったり、生でそこら辺の虫を食ってたりしていた。

 シャドウウルフに襲われて、半殺しにされたのが初めての戦闘だったな。

 そこからエルザに助けられて、家族になって、剣を教えて貰って、3度目の正直で初めてシャドウウルフを討伐したんだ。


 あそこがハンターとしての始まりだった。


 そこからアレックスと出会って、一緒にラントウルスと戦って討伐して、レイナとも一緒に狩りに出たけど、1回目は退散したんだったよな。そこで心が折れたレイナを俺達が鼓舞して、何とかその時もシャドウウルフを討伐したんだ。


 あれが俺達のパーティーの始まりだった。


 そこから何度も戦闘を重ねて、大怪我する事も、死にそうになる事も何度かあった。それでも一緒にBランクに上がって、今ではAランクに到達した。


 それもそれぞれが1人で大型モンスターを討伐してAランクになったのだ。

 正直、俺達のパーティーはAランクになった直後なのだが、既にSランクのクエストが出来るレベルなのではないかとさえ思う。

 エルザの言う所ではまだ「一人前」なのだろうが、そもそも俺が一人前になれると言うのは凄い事だ。前世ではフリーターとして仕事を転々としていて、一人前と呼ばれる前に辞めていた人間である。


 (そんな俺がこうして1つの事に取り組み続けて、一人前と呼ばれるくらいになったんだもんなぁ〜……。)


 そう考えると「目標」って大事だなって思う。

 全部を諦めて、全部に文句を垂れていた以前の俺は、目標なんて無かった。

 目印があるっていうのは大事な事で、目標という目印が無いと、以前の俺のように虚無の世界を彷徨う事になる。

 何をやっても中途半端で、中途半端だから何にも成れない。

 「馬鹿は死ななきゃ治らない」と言うが、あの言葉は俺にピッタリだ。

 俺は馬鹿だから、本当に一片死なないとそれが分からなかった。


 でも、今の俺は違う。


 目標に向かってがむしゃらに走って、今では目標としている人に「一人前」だと認められる所まで来た。がむしゃらに走っている間に、俺に共鳴するアレックスやレイナという仲間も出来た。……前世ではずっと1人だった俺にだ。


 最初の頃は「何だよこの世界……。」と思っていたが、今ではこの世界に来て良かったと思っている。


 このまま、この人達と共に走り続けよう。

 そうすれば、今度こそ俺の人生は――――



 ――――ドゴォン!!



 一瞬だけ俺達の頭上に影が掛かったと思った直後、俺達の背後で大きな物音がする。


 何事かと振り向くと、そこには巨大な黒い壁があった。


 いや、壁では無い。

 顔を上げるとそこにはモンスターの顔があった。

 黒曜石を身に纏った様な黒い鱗で全身が覆われ、トカゲのような頭をしている。

 しかしトカゲのような体格はしておらず、太い足や太い胴体は犬や猫の様な形に似ているだろうか。

 いや、そうじゃない。もっと分かりやすく説明できる。


 ドラゴンだ。


 目の前に、巨大な黒いドラゴンが立っていた。

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