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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第105話 アレックスvsガノアラクス(2)

 ガノアラクスとの戦闘が始まって数十分。

 ガノアラクスの攻撃パターンを把握し、タイミングを掴んだアレックスは水猿流『剛の型 守護の拳(しゅごのけん)』でダメージを与える事に成功した。


 「ガハッ……!」


 ……のだが、それからも続いた攻防の末、アレックスは全身に針が刺さった状態で壁に横たわっていた。


――――――――――


 ―――数分前。


 「ラァァァ!!!」


 今回の戦闘で3回目の『守護の拳(しゅごのけん)』が炸裂する。

 いくら針の鎧があろうとも、巨体が吹っ飛ぶレベルの打撃はキツイらしく、壁に激突してから起き上がるまでの間に、ガノアラクスの体はよろめいていた。


 「ゴァ、ゴォ………。」


 表面的に見ればそこまでダメージを感じられず、砂埃が付いているくらいに感じるが、体内のダメージはそこそこ蓄積されているだろう。


 「ゴアァ!!」


 しかし、ガノアラクスは強気に攻撃を継続する。

 この距離からの攻撃はやはり針を飛ばす攻撃で、俺はその場で全ての針を流して見せる。そして、その攻撃の後はやはり近付いて来たのだが、今度は爪ではなく尻尾を叩き付けて来る。


 「うぉ……ッ!」


 初めての攻撃だったがタイミングは殆ど変わらないので、その攻撃も難なく流し、カウンターを合わせようとする。

 しかし、ガノアラクスは尻尾攻撃を流されたのを見て瞬時にバックステップし、俺の攻撃が届かない距離まで引いて行く。

 そして距離が離れたらやる事と言えば―――


 ―――ヒュッ!


 針を飛ばす攻撃だ。

 冷静にその攻撃を流し、追撃を警戒するがガノアラクスは近付いて来ない。


 (まあ、3回も同じやり方でダメージを食らえば流石に警戒するよな。)


 ガノアラクスは喉を鳴らしながらこちらを睨む。

 俺も警戒しながらその場に留まり、数秒間の膠着状態が続いた後、ガノアラクスは針を飛ばす攻撃をその場で連続してくる。


 (うーん。逃げられるのも嫌なんだよなぁ……。)


 折角標的と対面したにも関わらず、逃げられてしまうのは、それはそれで嫌だ。

 でも、だからと言ってこちらから攻めるのはリスクが大きい。

 こういう時にバティルとレイナが居れば、俺が動かずとも標的の逃亡を遮ってくれるのだが、居ない状態なのだから俺が動かねば駄目だろう。


 ――ダッ!


 そう判断して、バティルのやり方を思い出しながら前に出る。

 一応、逃さない為の攻めなので、バティルの様に殺す気で剣を振る事は無い。


 「―――ゴアァ!」


 案の定、ガノアラクスは俺の攻撃を避ける。

 その巨体でよく動けるものだと感心する速さで俺の攻撃を避け、ガノアラクスの本来のスピードを垣間見る事が出来る。


 そこから何度か俺が剣を振って攻めるターンが続く。

 俺はガノアラクスのカウンターが来るのではないかと警戒しながら攻めていたのだが、ガノアラクスは反撃すること無く俺の攻撃を避け続ける。


 「ゴァ……。」


 ガノアラクスはやり辛そうに距離を離し、俺を睨む。

 逃げようとしていたのかは不明だが、さっきよりも前傾姿勢になっている事から、俺の攻撃はガノアラクス的に苛つく攻撃だったのだろう。


 ――ブンッ!


 ガノアラクスは尻尾を振って針を飛ばす。

 俺はその攻撃をその場で流し、ガノアラクスはそのまま接近してくる。


 (よし。)


 上手くヘイトを集めて、予想通りにガノアラクスが動いた事に安堵しながら、ガノアラクスの攻撃を難なく流す。右腕から放たれた剛腕は俺の右横に着弾し、パターン化した動作で盾を胸元まで持っていく。

 ガノアラクスとはまだ数回しかやっていないやり取りのはずなのだが、俺はこの攻撃に適応してしまい、反射的に動くまでになっていた。

 胸元まで折り畳んでいた左腕を前に突き出そうとした瞬間、違和感に気が付く。


 (あれ……近―――――)

 ―――ゴンッ!!


 ガノアラクスの体が俺に激突する。

 盾を胸元まで引っ込めていた事で、全身を覆う固い針が俺の前面に突き刺さる。

 あのガノアラクスの巨体で、一気に距離を詰める事を可能にする後ろ足は、助走が無くても凄まじい衝撃を生み出す。

 全く予想していなかった攻撃だった事で、俺は見事に直撃し、何の受け身も取れずに地面を転がる。


 「クソッ! ―――ッ!?」


 顔面にガノアラクスの針による切り傷が出来るが、それを気にする余裕なんて俺にはなく、起き上がって前方にいるガノアラクスに視線を動かすのだが……。


 (居ない!? どこに―――)


 そう思った直後、俺から見て右の方から風を切る音が聞こえてくる。

 その音にこちらも瞬時に反応し、右足を軸にして最短で体を回転させる。

 ガノアラクスが横に移動して、爪か牙かを俺に当てるつもりなのかと思い、盾を構えるのだが、俺の予想とは全く違う光景がそこにはあった。


 視線の先にはガノアラクスの針だけがこちらに向かって来ており、ガノアラクスの姿はない。


 (何が……?)


 ガノアラクスの針がこちらに向かっているのを目で追いながら、困惑する脳をフル回転している中で、再び俺の右方向から風を切る音がする。

 その音を聞いて嫌な予感がするが、今は目の前の飛んでくる針に対処しなくてはいけないので、振り向く事が出来ない。


 ――ヌルッ。


 何とか目の前の針攻撃を流し、気になっていた右横からの音の方を向こうとした所で、再び右から風切り音がしだす。


 右に視線を向けた時には、やはりガノアラクスの針が目の前に広がっていた。


 ―――ドスドスドスッ……!!!


 右を振り向き終える頃には、盾で流せる距離では無かった。

 ガノアラクスの固い針は俺の武気を貫通し、皮膚をも貫通して突き刺さる。


 (クソッ、やられた―――ッ!)


 ―――ブンッ!


 今度の風切り音は、俺の後ろから聞こえてくる。

 不味いと思って後ろを振り向こうとする。

 しかし、今の方向に振り向く前から、右から風切り音がしていた事を思い出させるかの様に、振り向く途中で針が飛んで来るのが視界に映る。


 その針との距離は………やはり盾で流せる距離では無かった。


 ここまでの戦闘は3秒にも満たない。

 その秒速のやり取りの中で、俺は完全に置いて行かれた。


 ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス。


 四方八方からガノアラクスの針が襲い掛かる。


 俺は対処しようと目の前の針たちを弾くが、側面や背後は守り切る事が出来ず、全身に針が刺さっていく。ガノアラクスの攻撃は止む事を知らず、むしろ加速していっている。


 俺はここに居ては駄目だと判断し、無理やり針の雨の中を走る。


 盾を顔の前に置き、前方から向かって来る針を体で受け止めてながら走る。

 包囲から出る瞬間はきつかったが、少し離れれば予想よりも針の雨が速く止み始め、何とか脱出するのに成功する。


 「……ぐッ、ハァハァ―――。」


 針の1本2本なら全然耐えられる。

 しかし、全身に針が刺さるのは想像以上にキツイ。

 少し体を動かすだけで神経を刺激し、一つ一つの痛みが束になって脳に伝えてくる。


 ガノアラクスはどこにいる。


 俺が顔を振って確認する前に、ご丁寧にもガノアラクスから俺の前に姿を現す。

 ガノアラクスは腕を振り上げる訳でも、噛み付く訳でも無く、その場で一回転をした。


 ――ドンッ!!!


 俺の視界はガノアラクスが一回転をした事により、砂嵐の中に入ったのかと錯覚するような景色に切り替わり、その直後に横からガノアラクスの尻尾が俺に直撃する。

 盾を構えなければと思いつつも、過剰な痛覚の信号によって俺の体は鈍っていて、盾を構える前にガノアラクスの尻尾が直撃し、俺の体は横に飛んでいく。


 危機的状況であり最悪な状況ながら、幸運にも、俺の体は高低差のあるアルナール丘の崖に放り込まれる事は無かった。

 しかし、その逆である壁に激突する。

 俺の体は壁に衝突して、接触した箇所の針が更に奥へ食い込む。


 「ゴガァァァァァァ!!!!」


 勝利宣言の様なガノアラクスの雄叫びが、昏倒する意識の中で響いていた。

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