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フリーター、狩人になる。  作者: 大久保 伸哉
第1章−4 『Aランク昇格編』
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第104話 バティルvsゴリバルク(2)

 森に爆煙が舞い上がる。

 爆心地には大きなクレーターが出来上がり、その中心には成長途中の少年が1人倒れていた。


 「ガハ……ッ!」


 ヤバい。ヤバすぎる。

 今までにこんなダメージを喰らった事は一度も無い。

 シャドウウルフに噛まれた時も、ラントウルスの打撃を喰らった時も、エルザに木刀で殴られた時も、ここまでの衝撃はなかった。


 全身に痺れる様な痛みがする。


 高い所から飛び降りた際、着地した足にジーンと染み渡る様な痛みが走るあの感覚。あの悶絶するような感覚の強烈なバージョンが全身を襲い、体の言う事が全く聞かない。

 幸い、俺の右手にはそれでも剣を握られており、ハンターとしての最後の矜持みたいな物は守れているが、それでも何処までそれが保てるか分からない。


 ――ブオッ……。


 そんな矜持など知らないとばかりに、舞い上がった砂煙を弾いて、ゴリバルクが両手を握りしめた状態で降ってくる。その握られた両手はゴリバルクの頭上にセットされており、その目は間違いなく俺をロックオンしている。

 逃げなければと分かっていても、俺の足はいう事を聞いてはくれない。

 ならばと思い、最後の力を振り絞って、剣を鞘に収めて背中に回す。

 何とか間に合ったその直後、ゴリバルクの着地と同時にダブルスレッジハンマーが振り下ろされる。


 ―――ドゴォン!!!


 ひと仕切り爆発によって舞い上げられた草木や小石達が地面に着地し、シンッと静まっていた爆心地に再び轟音が響く。

 元々地面にめり込んでいた俺の体は、ゴリバルクのダブルスレッジハンマーによって更にめり込む。地面とゴリバルクの固い拳に挟まれた俺の体は、圧縮機の間に挟まれたかの様にぺしゃんこになりそうになりながらも、何とか耐える。


 体は何とか耐える事が出来たが、意識は違う。


 これは人間の防衛本能なのか、2度目の衝撃に俺の意識、俺の脳は耐えられず、強制的にシャットダウンをした。


 気を失った状態のバティルに、ゴリバルクの追撃が加えられる。

 右、左、右、左、右、左。

 殴られ、全身が地面にめり込み、引いていく拳に着いて行く様に体がバウンドし、宙に舞った体は再び降ってくる拳に衝突し、地面にめり込む。

 一発一発が地面にめり込む強烈なパンチを、ゴリバルクは容赦なく気絶したバティルの体に叩き込んだ。


 ゴリバルクの怒りが収まるまでその連撃は止まる事はなく、ようやく止んだ頃にはバティルの体はボロボロだった。着ていた装備はペラペラな鉄の板に変わり、それ以外の服もボロボロになって服の役目を終えていた。


 幸い、バティルの体は装備のようにペラペラにはなっていない。

 だが、全身の所々が青くなっており、内出血をしているのが分かる。


 「……………………。」


 ゴリバルクはそんなバティルをジッと見つめた後、食べる訳でもなく、興味が無くなった様子でその場を去ろうとする。


 「ちょっと……待てぇぇぇい!!!!!」


 ゴリバルクが盛大に暴れた事により、周囲にいたモンスター達や動物達が走り去った森の中で、ゴリバルク以外の生き物の威嚇音が森に響く。

 その威嚇はゴリバルクがさっきいたクレーターの中から響いており、ゴリバルクは驚いた表情で振り返る。


 「まだ終わってねぇぞ!!!!!」


 振り返った先には、全身を青くした小さい猿が立っていた。


 「ボコスカ殴りやがって……前世の時みたいに、馬鹿になったらどうすんだこの野郎!!」

 「ヴゥオッ、ヴゥオッ、ヴゥオォオォ………ッ!!!」


 どうやら俺が死んでいない事にゴリバルクは驚いているようで、太い腕をバシバシと地面に叩きつけていた。その行動と表情は「何で生きてんだよ!」とでも言いたげな感じだった。


 実際、普通のハンターなら死んでいただろう。


 アレックスやレイナだったら、1回目の地面にぶん投げる攻撃で死んでいてもおかしくは無い。……まあ勿論、俺のように地面に激突していればの話であって、2人であれば魔法や水猿流の技でどうにかしていたとは思うが。

 ただ、さっきのゴリバルクの攻撃を全て受けて、それでも立ち上がれるのはこの武気のある世界とは言え、片手で数えられる位なのではないだろうか。……多分。


 「ヴゥオ、ヴゥオ……!!」


 驚いていたゴリバルクはそのままドラミングを始める。

 そして俺にドラミングで威嚇した後、今度こそ止めを刺そうと俺に向かってくる。


 俺も背中に回していた剣を柄から取り出し、それに答える。


 ゴリバルクの太い腕が振り下ろされ、腫れ上がった体を無理やり動かして回避をする。俺がいた所にゴリバルクの拳が着弾して、そのカウンターで俺が剣を突き立てるという、最初にやった攻防が再び始まる。


 この戦いはクレーターの上での戦闘という事もあり、木に隠れる事も、木を盾にして立ち回る事は出来ない。そんな真っ向勝負の戦いが始まったのだが、やはり俺の攻撃が通用しない。

 ボロボロの体をなんとか動かしてカウンターを合わせるが、無慈悲にもゴリバルクの鎧は俺の攻撃を弾く。


 (俺はアタッカーなんだから、どんなに固くても斬るのが役目なんじゃねぇのか!!!)


 立ち上がったは良いが、攻撃が通用しないのなら意味が無い。

 目の前で俺の攻撃が弾かれるのを見て、段々と自分自身に怒りが込み上がる。

 アタッカーなのにも関わらず「頑丈なのが取り柄です。」なんて馬鹿な話は無いだろう。


 こんな所で、一発も良いのが入れれずに帰れる訳が無い。


――――――――――


 『武気をもっと感じろ。』


 最近、エルザが良く言うようになったセリフだ。

 今になって思えば、一人前に近付いてきた俺を見て、エルザからの最後の教えみたいな物だったのだろうと思う。


 『武気を出すのを抑えるな。バティルはもっと練れるはずだ。』


 何度もエルザにそう言われたが「いやいや、無いものを出そうとしても無いんだから……。」と内心では思ってしまっていた。

 だがゴリバルクとの攻防の最中、特にさっきの連撃の時なんかは「守らなければ死ぬ」と思い、俺が思っていた以上の武気を纏っていた気がする。


 そしてあの連撃を乗り越えた今、俺の体の感覚がいつもと違う事に気が付く。


 今までにない感覚。

 新しい扉が開いたような、初めての感覚。

 いや、違う。

 この感覚は初めてじゃない。

 ……そうだ。

 あの時、俺がレイナを守るために戦ったあの時の感覚だ。

 体が軽くなり、頭が冴えて、五感が研ぎ澄まされていくあの感覚。


 武気を感じ取った、あの時の感覚だ。


――――――――――


 「ヴゥオォォ!!!」


 俺はクレーターから飛び出して少しでも距離を離そうとするのだが、ゴリバルクはそれを許さない。森の中に入ったにも関わらず、固いはずの地面を容易に抉り、ただただ標的に向かって両手の拳が振り下ろされる。


 「フゥゥゥゥゥゥゥ………――――フッ!。」


 初めてシャドウウルフを討伐した時の感覚を思い出しながら、ゴリバルクの攻撃を避けた後にカウンターを合わせる。


 ――ガギンッ!


 まだ固い。

 だが、火花を散らすだけだった俺の攻撃は、ゴリバルクの固い皮膚を少しだけ削る。


 (まだだ、もっと、もっとだ………!!!)


 エルザの剣は、もっと速かった。

 エルザの剣は、もっと強かった。

 エルザの剣は、もっと鋭かった。


 何度も見続けた、憧れの背中を思い出す。

 無駄のない洗練された素振り、瞬間移動でもしたのかと思える速度で俺の木刀を躱し、刃が無くても真っ二つに出来るのではと感じる鋭い一太刀。


 あれだけの物を手にするのに、一体どれだけの鍛錬をしてきたのだろう。

 強く、凛々しく、へこたれずに生きた結晶を見て、やはり俺は焦がれてしまう。

 一度人生を挫折した俺だったからこそ、その輝きはより一層に輝いて見えた。

 そして俺も、エルザの様に強くなりたい。


 ―――だからこそ、俺はこの壁も越える。


 練り上げられた武気が全身を覆い、俺の体は加速する。


 ゴリバルクが攻撃をすれば、俺はカウンターを2回返す。

 再びゴリバルクが攻撃をすれば、今度の俺はカウンターを3回返す。

 浅かった切り傷も一太刀ずつ深くなって行き、鎧のような皮膚を切り刻み始める。


 「ヴゥオォォォォォォォォォ!!!!!」


 長い戦いの中で初めて、痛覚によるゴリバルクの悲鳴が森に響いた。

 自慢の腕は切り傷によって血が流れ始め、赤く染まる。

 しかし、それでも致命傷を与える事は出来ない。


 もっと深く、もっと鋭く。


 加速する世界の中で、エルザの背中を真似て剣を振るが、やはりまだまだ届かない。

 悔しさはあるが、それと同時に嬉しさもある。

 まだまだ上があり、俺の憧れはまだ先にいるのだと思うと誇らしくもあった。


 ―――スタッ…。


 俺は走り回るのを止め、その場に留まる。

 剣を鞘に収め、中腰になって柄を握る。


 動きを止めた俺に対して、ゴリバルクは好機と判断して思いっ切り拳を振り下ろす。


 エルザの様な一刀を、俺はまだ振るい続ける事は出来ない。

 大型モンスターに危機感を与えられる攻撃を出し続けるには、まだ足りない。



 ……ただ、一刀に限れば、今の俺はエルザに並べる。



 「ヴゥオォォ―――………………」


 極限状態に入り、次第に音が消える。

 戦闘による興奮で高まっていた心音は落ち着き、これ以上ダメージを食らってはいけないと本能的に感じていた俺の体は緊張状態を解いた。

 力が入っていた右手は剣の柄を包み、抜刀する。



 ―――キンッ…!



 練り上げられた武気が一瞬で解き放たれる。

 俺に着弾するはずだったゴリバルクの拳は、分厚い皮膚から骨密度の高そうな骨すらも貫通し、一刀両断される。


 「……―――ォォォオオオ!!!!!」


 音が戻って来る頃には、ゴリバルクの悲鳴が森を響かせていた。


 「ヴゥオッ、ヴゥオッ、ヴゥオォオォォォォォ………ッ!!!」


 自慢の腕を切り落とされた怒りか、それとも切り落とされた痛みの所為か、ゴリバルクは無くなった右腕の断面に手を添えてこちらを睨む。


 俺は再度、冷静に居合の構えに入る。


 ゴリバルクの怒声や威嚇は、今の俺には効果をなさない。

 ゴリバルクが攻めてくるか、それとも逃げるのか。

 それを観察しながら、次の行動を考えられるくらいには冷静になれていた。


 「ヴゥヷォオォ……―――ッ!!!」


 居合の構えを取った事が守りに入ったと判断したのか、ゴリバルクは腕を斬り落とされたにも関わらず、今度は大きな口を開けて噛み付き攻撃をしてくる。


 しかし、この戦いでまた一つ壁を超えた俺に、もう通用する事は無い。


 俺に構える時間を与えた時点で、ゴリバルクは負けていた。


 ―――……キンッ。


 さっきまで意思を持って動いていたゴリバルクの体が、糸が切れた様に地面に倒れる。巨体がズシンと地面を揺らした後、遅れて頭部が地面に着地した。

 先程まで騒がしかった物音が一瞬で無くなり、シンッと静まった森の中で剣を鞘に収める。


 「フゥゥゥゥ………、何とかなったぁ………。」


 静まり返った森の中で、俺は一気に力が抜けて地面にへたり込む。


 正直、死ぬかと思った。

 初めの方でゴリバルクの体を斬れなかったからめちゃくちゃ焦ったし、ゴリバルクの攻撃は1発1発がKOパンチだから何度も意識が飛んでいた。

 ……だが、それでも勝てた。


 「アレックス達は大丈夫なのか……?」


 こんなのをそれぞれが1人でやらないといけないなんて確かにヤバすぎる。……ソフィアやジョンが止めるのも無理はない。


 仲間たちの事を思いながら、俺は空を見上げるのだった。


 【 ゴリバルクの討伐 】 【Aランク】 【済】

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