着地の代償
超高高度装備無し生身ダイブにから生還しはずなのだが、俺を待っていたのは馬車との交通事故。
酷すぎないか?
突っ込んできた御者を巻き添えに地面へ着地する。
とっさに御者のおっさんを下にするが衝撃を殺しきれずに転がり、道脇に聳え立つ大岩まで転がりぶつかって止まる。
勢いよく大岩にぶつかったが、衝撃はおっさんが俺と大岩の間に挟まりクッションとなった。
何かが複数折れるような音と潰れたカエルの声のようなものがしたが気のせいだ。
「助かったぜ、おっさん、ありがとな」
フラフラと覚束ないがなんとか立ち上がる。
立つ際に手を離したので、それまで抱え込んでいた光球は弱々しながらも光を放ちながら俺の目の高さまで浮かび上がる。
『死んでますね』
「おいおい、冗談だろ?俺たちを助けるために身体を張ってくれたのにこんなところで死ぬのか」
『とっさに下敷きにしておいてどの口で言うんです?』
「この世界で最初にやったことが人殺しとかやめてくれよ。この世界には魔法とかあるんだろ?チャチャっと回復かけてやってくれよ」
『ワタシと無理心中をしようとした者の言葉とは思えませんが』
「おっさんは巻き込まれただけだろ。罪はない」
『としても、この世界エドレスティアに魔法はありますが、ワタシは回復魔法を取得していません』
「マジかよ…」
転がるおっさんの腕をとり自分の首の後ろに回し肩を貸しながら立ち上がらせる。
こんなおっさんだって真面目に生きてたんだ。
こんなとこで死んだら浮かばれない。
御者を失った馬達は近くで止まっている。
引きずりながら馬車まで連れて行く。
髭面の中年で強面な感じだがやりたいことがあったろうに。
奇麗な顔してんだろ、死んでんだぜ、これ。
道半ばで逝っちまうとか理不尽だよな。
「アンタは俺の命の恩人だ。アンタの志は俺が継いでやるぜ」
馬車に乗っていたということは行商人だろうか?
ちゃんとした幌のついたその荷台にはおっさんの夢と希望が積まっているのだろう。
異世界で行商をしながらあちこちを転々とする。
それも悪くないかもしれない。
商売の知識も何もないが、元々、俺のものじゃないし、失っても問題はないわけだ。
「やれるとこまでやってやるさ」
馬車が近づくと荷台の方から何やら音がする。
「うぐぅ…、むぅ…、」「えっぐ…、えっぐ…」
これは、すすり泣きとか嗚咽とかいうものじゃなかろうか…。
しかも、複数聞こえるんだが…。
おっさん、アンタもしかして。
俺は担いでいたおっさんを道端に投げ捨てると御者台に飛び乗った。
幌の付いた荷台の前は幕が張られている。
幕を捲ると猿轡を咬まされ手足を束縛された若い女性というか少女たちが複数人転がっていた。
光球が俺の横に飛んできて尋ねた。
『継ぐんですか?志』
「ざけんな!!」