幕間・本命彼女とその親友
「……行ったか。あの調子だとまだ時間がかかるかな」
二人の事を見送った後――
そう簡単に踏ん切りがつくもんでもねーだろうけど、とぼやくかずっちゃんに
わたしは、苦笑しながら返す。
「そうかなー?結構、頑張ってると思うけどねー。
ななちゃんも、反尾君も。
特に反尾君は、最初に声かけた時とか酷かったもん」
あいつの……葛谷の化けの皮を剥ぐのを手伝って欲しいと告げたときのわたしに、酷く、醒めきった表情で、興味ないです、と返してきたときの事を考えると……
よくも、ここまで持ち直せたものだと思う。
「それ……アレがやらかした事、調べたときの事言ってる?」
かずっちゃんは、葛谷が退学になった後も、かなりしつこく付きまとわれたこともあって、あの男の事は、名前を呼ぶ事さえ汚らわしいとばかりに、アレ呼ばわりだ。
まあ、気持ちは、分かりすぎる程わかるのだけど。
「調べたって言うかねー?
前にも言ったけど、わたしは義母さんのコネ使って、所長に話持っていっただけだから。
実際、あそこまで詳しく調べたりとか、わたしだと無理だったかな」
もっとも、今現在アルバイトと言う形で世話になってから、改めて感じるけど――
所長と同僚の人たちは、優しくはあっても……決して、甘くはない。
調査結果を悪用されないように、受ける相手は、選ぶ、とはっきり、常日頃から言っているくらいだ。
……まあ探偵業というか、調査の仕事は、副業みたいなものだからというのも、あるんだろうけど。
だから……当時、初対面だった、わたしみたいな小娘に、義母さんへの義理立てだけで、ろくでもない屑相手とはいえ、一人の人間を社会的に抹殺出来るだけのものを、ぽん、と渡してくれるほど、脇が甘い筈もなく。
何やかんやで、ごたついていた仕事が片付き、ようやく一息つけた時に……
なぜあの時、依頼を受けてくれたのか、と所長に訊ねたことがあったのだけど。
あの人は苦笑しながら、こう答えてくれた。
『青臭い子供の、威勢だけの啖呵だったが――まあ悪くはなかったから、かね。
あれをいじけてるだけ、だのいう奴もいるかもしれんが。
……男の子の意地って奴を、見せてもらったからな。
あのくらいの年なら、むしろ大したもんだと思うよ』
どこか、眩しいものを見るような口調で語る、あの人の姿を見て、こう思ったものだ。
……多分、だけど。
反尾君があの時、あそこにいなかったら、今ほど、上手い形で纏まらなかったんじゃないだろうか、と。
そういった意味では、わたしは彼に借りがある。
まあ――当人は、もう、気にも留めてもいないのだろうけど。
「……できたら、わたしとしては、上手くいって欲しい、かなー、って。
この半年近い間に……、助けたり、助けられたり、まきこんだり、まきこまれたり。
見て見ぬふりで流しちゃうには、ちょーっと、いろいろ関りすぎたからねー」
かずっちゃんは、あー、と気怠そうな声音で……
それでいて何処か、感慨深げに口元を緩めた。
「そうか、あれからまだ半年経ってないんだっけ。
……まあ、沙羅が言う事も、わからないでもないけどさ。
ただ、あたしは……アレのせいで、暫くはそういうのはいいか、ってしか思えないから」
ぼそりと、ふられちまったし、とこぼした、最後の一言は、聞こえないふりをして。
そっか、と返し――そのまま、廊下のあの二人が出て言った方向に視線を向ける。
結局、最後にどうなるかは彼ら自身が決める事であって
周りがどうこう言うようなことじゃ、ないんだろうと思うけど。
それでも、少しづつ、少しづつ……
自分の至らない、醜く薄っぺらい部分と向き合って、成長しようと足掻く、彼女の姿を。
出会いを重ね、視野を広げ、努力を重ねて……
抱えていたものを乗り越えて、大きくなろうとする、彼の姿を。
わたしは、わたし達は……半年足らずの、少しの間だけど、見てきたから。
だから、ほんのちょっとだけ、応援させて欲しい。
――頑張れ、二人とも。