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先輩達

ぶっちゃけますとノクタで連載している話のキャラが出ます。

ちらっと前作の感想欄でもお答えしたのですが、元々こいつらの設定を考えてる時に、派生でできた話なので。

出すか、出さないかは正直迷ったのですが、最初に考えた通りの話で行くことにしました。


パラレルと言うか別ルートなので、あれやこれやは起きていないのですが。

「沙羅……あれ、長谷川と反尾じゃね?」


「ありゃー、ほんとだねーかずっちゃん。

ななちゃん、反尾君、今帰りー?いつもより、ちょっと遅い時間だねー」


 教室から出て、七海と一緒に廊下を歩いているところに、声がかかる。

聞き覚えのある声に、視線を向けると、二人組の女子生徒の姿があった。


「あ、宮内先輩、京山先輩、お疲れ様です」


「どうも、俺の用事で七海に付き合わせちゃいまして。

お二人は、どうしたんです?」


 どちらも、よく見知った顔。この半年の間に、随分と世話になった人達だ。


「わたし達、春休みが明けたら、四月からは受験生だからねー。

だから、進路関係で、ちょーっとね?」


 一人は、妙に間延びした様な、特徴的な喋り方をした、

腰まで伸ばした髪と合わせて人形の様に整った容姿が目を引く、小学生と見紛うくらいの、小柄な女の子。


 宮内みやうち 沙羅さら先輩。


 銀髪碧眼の白い肌は、外国の血が入っているものによるらしいが、日本で生まれて育った、正真正銘の日本人との事。

 更に言うなら、実年齢は俺達の一つ上、つまり上級生だ。

留学生でも、飛び級でもない、と冗談めかして、笑いながら自己紹介をしてくれた時の事は、よく覚えている。


 多分、七海にとっては、恩人、という事になるんだろう。

何故なら――あの男の本性を義母のコネを使って、調べ上げ、告発したのは、この人だからだ。

 動機は、彼女の親友の目を覚まさせたかったから、らしい。

俺も多少は関わりはしたが、どれほどの助けになったのやら。


 更に言うなら、この半年の間で、色々な人と出会うきっかけをくれた人、でもある。


 ――いつかの、震えるような声音で、彼女が悔いる様に告げて来た言葉を思い出す。


『ななちゃんが間に合ったのは、偶々……タイミングが良かっただけ。

アイツが目をつけてた娘達の素性を伏せたのだって、わたしが後ろめたかったから。

もっと、もっとうまく立ち回れてたら……皆傷つかなくて済む未来も、あったんじゃないかって。

全部終わってからななちゃんに声をかけたのだって、わたしの勝手な罪悪感を紛らわせたかったからなの。

ごめんね……こんな、先輩で』


 この人が動き始めなければ、きっと……多くの人間が、あのクズに泣かされたままだった。

いや、何れは勝手に破滅していたのかもしれないが、それでも今よりずっと酷いことになっていた筈だ。

感謝こそすれ、謝られるようなことなど何もない。


 だから。その時は、自責の念が籠った宮内先輩の言葉に……

ありがとうございました、と七海と二人で一緒に、返したのだ。


 ただ、宮内先輩が……ぽろぽろ涙をこぼして泣き始めた時には、どうしたものか困ったものだが。


「……ま、時期が時期だし、進路相談とか説明会とか、最近多くてさ。

アンタらもぼーっとしてると、一年なんてあっという間だからね。

気はつけておいた方がいいんじゃない?」


 もう一人は、すらりとした体つきの、黒のショートヘアの女性。

猫を思わせる切れ長の目で……美人系寄りの大人びた顔立ち。

宮内先輩とは中学時代からの付き合いだそうで、この二人が同い年だと言われた時は、正直混乱したものだ。


 京山(きょうやま) 和美(かずみ)先輩。


 素っ気ないというか、クールな立ち振る舞いだが、何かと面倒見の良い人で

成績も常に上位をキープしている、才色兼備の二年生。


 一時期、あの男――葛谷の『本命彼女』だった事で

口さがない連中に影口を叩かれていたせいで、大分荒れていた時期もあったが、今ではこの調子だ。


 ――多分、宮内先輩と和解できたことが大きかったんだろうな、と言うのは、流石に俺でもわかる。


『アレの本性が学校中に知れ渡ってから、結構、心配するふりして陰て笑ってた奴とか、いたんだけどさ。

それを、沙羅がマジで怒って咎めてくれてたって聞いた時は……

もう、正直合わせる顔がないな、って思ったよ。とっくに見限られてるもんだとばっかり、思ってたからさ。

いやまあ……だから、沙羅ともう一度、話をする切っ掛けをくれたことは、感謝してる。

その、反尾もさ、いや……』


 結局、この時京山先輩は、最後、なんでもねーや、と言葉を濁していたが、多分……

どちらにせよ、俺の方も後悔しない選択を、と言いたかったんだろう、と思う。

宮内先輩と和解するまで――ずっと、京山先輩が自分の愚かさを後悔しつづけていたのは、傍から見ていても痛々しい程だったから。


 二人がお互いに和解したがっていたが、罪悪感でその為の一歩が踏み出せずにいたのは、付き合いの浅い俺でもわかった。

だから、その機会を作る助けになれたというのなら――

きっと、それは間違いではなかったと、信じたい。


 「大学受験ですか……

まあ、確かに俺らも、そろそろ真面目に考えておくべきなんでしょうけど」


「そだねー、正直わたしは、今のバイト先に就職とかも考えてたんだけど……

選択肢は多いほうがいいからって、所長と、義母さんがねー?

とりあえず、かずっちゃんと同じ大学行けたらなーって思ってるんだけど」


「沙羅の成績なら、よっぽどヘマしなきゃ、十分行けるでしょ。

っていうかさ、反尾もちょっとずつだけど、学力上がってるじゃん。

こないだのテストでも、結構順位あがってたみたいだし。

……最近、長谷川とちょくちょく一緒に勉強『も』してるんでしょ?」


 京山先輩の言葉に、ええまあ、と返しながら横目で七海の方を見ると、顔を赤く染めて俯いている。

改めて口に出されると、気恥ずかしいものがあるのだろう。

 まあ、俺も人の事は、言えないんだが。


「えっと、はい。できれば私も、シュウちゃんと一緒の大学に行けたらなって。

だから、それで、私の方から誘ったんですけど……」


「いや、俺の方もそろそろ本腰入れてやらないと拙いかな、とは思ってたからな。

だから、その、何だ……最近は、いろいろ、助かってる」


 こめかみを指で揉みほぐすようにしてから、ふう、と息を吐いて、京山先輩は

何処か自嘲するように、言葉を返してくれた。


「……ま、仲良くやれてるようなら何よりだよ。

あたしが言えた義理でも、ないけどさ」


 「かずっちゃん、まぁたネガネガしてるー……

あ、二人とも、電車の時間、そろそろじゃない?

呼び止めちゃってごめんね」


 京山先輩を窘めながらの、宮内先輩よりの指摘に、スマホを確認すると、確かにもういい時間だ。

この辺で切り上げたほうが良さそうだ。


「いえ、すいません。それじゃまた明日――って、明日は休みか。

とにかく、また、来週以降、時間がある時にでも、また」


「うん、二人共、ばいばーい!」


「……じゃ、またね」


 笑顔で手を振ってくれた、宮内先輩と……

素っ気ない調子で片手を上げて見送ってくれた京山先輩の別れの挨拶に会釈で返して。

 気持ち、急いだほうがいいかな、と歩くペースを、隣の七海を置き去りにしない程度に引き上げて、一緒に廊下を進む。


 しかしまあ……進路に、大学受験か。

いい加減、覚悟は決めておくべきなんだろうか。

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