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とりあえず色飴遥火

きみを選んだ理由はそこじゃない

作者: 色飴 遥火

 おれの幼なじみはハイスペックで基本的にはなんでもできてしまう、なのに。

「昨日も言ったと思うけど、昼休みは友達と一緒に弁当を食べたほうが良いんじゃないのか?」

「昨日も言ったけど。わたしはきみと一緒にお昼を食べたいからそうしているだけ」

 そう言って……目の前の幼なじみは自分でつくってきた弁当を食べている。

「女の子を紹介してやろうか? って今日は言わないの」

「友達になってくれる女の子を、な。意味が変わってくるだろう。それに昨日と同じ結果になるんだから言わねーよ」

 幼なじみ的には面白かったようで声を出さないように笑っていた。

「そうやって笑っていればさ、自然と友達も増えると思うんだけどな」

「多ければ良いってものでもないかと」

「全く友達がいないよりはマシじゃないか」

 不思議そうに目を丸くしている幼なじみ。

「きみはわたしと友達では?」

「そうだけど。いつまでもおれと一緒にいるわけでもないだろう。それこそ恋人同士とかにでもならないかぎりは」

「プロポーズ?」

「違う違う。おれ以外の友達をつくってくれって話だよ」

「ふーん。そう」

 お互いに黙ってしまって……顔を逸らしてしまった。天然というかなんというか、男女なんだからそうならない可能性がないとも。




「普通に友達できてるじゃん」

 お互いに顔を逸らし合ってから数日。基本的にはハイスペックな幼なじみが女子生徒と歩いているのを見かけた。

 おれ以外のやつと会話をするのはそれほど経験がなかったのか、どことなく幼なじみのほうはぎこちなく受け答えしているっぽい。

 おそらく、それが隣を歩いている女子生徒のセンサーにでも触れたか。姉御肌なのかもしれないな。

 なんにしても良かった良かった。良いやつそうなのと友達に……って。

「おはよう」

「なんでこっちを優先するんだよ」

 幼なじみがどうしてきみに怒られなければならないんだ? 的な表情で見上げている。

「きみと一緒にいるほうが気が楽だから」

「そりゃあ、まだお互いに慣れてないだろうけどさ。だからこそ一緒にいるべきだと思うんだが?」

「きみは意外と鈍いんだな」

 空気を読む能力はお前よりもあるわ、とは言えないよな。オブラートオブラート。

「目の前の女の子よりはマシかと」

「そっか」

 悪態のつもりだったのに幼なじみはうれしそうに笑っていた。おれが思っているよりもこいつは人間の悪意に対して鈍すぎるのか。

「分かったよ。おれも高校生活に慣れるまではできるだけ知り合いと会話しているほうが気が楽だしな」

「きみがデレるとは」

「めちゃくちゃ気をつかっているんだよ」

「ん、ああ。そんなに心配しなくてもわたしはきみが思っているよりも鈍くはないし……子どもでもない」

 それに、意外とストレートに気持ちを伝えちゃうタイプ。と幼なじみにしては珍しく、くだけた口調で言っている。

「それじゃあ、また放課後に」

「いや。今日は部活だからさ、一緒には帰れない。悪いな」

 新入生の部活は、来週の月曜日からだってことを幼なじみも分かっていると思うが。

「それなら、しょうがない。今日はあっちの友達と帰ることにするよ」

 おれはこっちの友達らしい。

 それはさておき、確かに空気はちゃんと読めるようだな。

「わたしはさ、意外とストレートに気持ちを伝えちゃうタイプなんだよ」

 なぜか、先ほどと同じ台詞を口にしてから幼なじみは自分の教室のほうに戻っていく。

 一度だけ、こちらを振り向いたが。おれが見ているとは思ってなかったようで、かなり慌てて前を向いていた。




 部活のせいもあり、幼なじみと会話をする機会は時間が経つほどに減っていた。

 たまに見かける幼なじみの周りには以前の女子生徒以外にもちらほらといて……おれがいなくても順調なんだろう。

 ときおり。廊下で一人でぼーっとしていると幼なじみが声をかけてくることはあったりする。

 大抵、おはよう。ではじまって。

 今日は一緒に帰れる? で会話は終わる。

 たまに一緒に帰れる時もあるが基本的には断ることが多い。その場合は一緒に帰れそうな日を教えて、と謎の要求をされる。

「なにか、おれにしか相談できないことでもあるのか?」

 なんて聞いたりもしたが謎の要求の理由についてはいつも教えてくれなかった。




 高校生になって、はじめての夏休みの少し前。友達と会話をしながら廊下を歩いていると幼なじみが背中に軽くぶつかってきた。

「相談ができました」

「お、おう。それは良かったな」

 とは言えたものの受け答えとして正しいんだろうか。少なくとも、おれの男友達は彼女と仲が良いことで的な視線を送ってから二人きりにしてくれた。

「きみの友達も空気を読むのが上手いね」

「今回の場合は空気を読まないほうが、まあいいや。それで相談って?」

 他人には聞かれたくない類いの相談なのか人気のない旧校舎のほうに引っぱられた。

 今は物置として使っているであろう教室の扉を開けて、入念に誰もついてきてないことを確認してから。

「なぜか男友達から、映画のチケットを二枚もらった」

「もう少し説明をしてくれ。おれはエスパーじゃないからさ」

 男友達から映画のチケットをもらったんだからデートやらなんやらなんだと思うが……二枚も渡してきたのは保険ってところかね。

 本人は気づいてなさそうだけど、どうやら幼なじみに好意を抱いている男友達が夏休みに一緒に映画を見に行かないか? と誘ってきたらしい。

「その男友達の話では映画のチケットを四枚もらったから、お互いに一人ずつ友達を」

「話は分かった。それでおれになんの相談をしにきたんだ?」

 多分、幼なじみの頭の中では。男友達からもらってきた映画のチケットの一枚をおれに渡す、なんて選択肢も。

「一人で行ったほうが良いのかな? と」

「おれに相談する必要ないじゃん」

 こっちの友達的には……その小さな背中を押してやったつもりなのに幼なじみが驚いた表情をしている。

「えっと、言い忘れていたけど。その映画、少し前に見たいって言っていた」

「おれはもう見た。悪いな」

「そう……なんだ」

 なんとか話を続けようと考えているのか、幼なじみが両目をあっちこっちに慌ただしく動かしている。

「一人で行っちゃうよ」

「おう」

「その男友達とだよ」

「分かっているよ」

 うつむいていた幼なじみが顔を上げ、目が合った。なぜか泣きそうな顔をしている。

「不安なのは分かるけど。多分……そいつはめちゃくちゃ良いやつだからさ」

 幼なじみのおれに、目の前の女の子の色々なことについて聞いてくるようなやつなんだから邪魔する理由がない。

 悪いやつだったとしても、おれが。

 結局、幼なじみは泣いてしまった。そんなに、男友達と二人きりで遊びに行くのが不安なんだろうか?

 そいつは良いやつで不安になるようなことは、なにもないはずなのに。




 幼なじみと男友達が付き合っていることを知ったのは冬休みの少し前。

 廊下で一人でぼーっと空を眺めていると、屋上で男女がキスをしているのが。

 幼なじみと例の男友達だった。

 夏休みのデートが上手くいったんだろう。

 遠目で見えづらいが、幼なじみと男友達は楽しそうに笑っている。

 あの時のことを……おれの頭が勝手に思い出していた。

 夏休みの少し前に……幼なじみが男友達とデートするのを不安がって、おれに相談しにきた日。

 不安すぎて泣いてしまった幼なじみの頭を撫で、彼女を慰めて教室に戻ろうとした時。

 幼なじみが足をもつれさせて、おれに抱きついてきた瞬間。彼女の心の底から出てきたであろう本音を空耳だと思ってしまった。

「おれみたいな顔を選ぶ必要ないだろうが」

 あのきれいな幼なじみの隣には、あのイケメンの男友達のほうがとても似合っていた。

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