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聖女ヨル

 自分が生まれて来たことには意味があるのではないだろうか。

 最近私はそう考えるようになった。

 自分が、父親をただ無為に殺しただけだとは思いたくなかった。

 私の人生には父親の死を背負うに値する意味がある、そう思わないとやりきれなかった。

 魔王としてではなく、ヨル・ヴァ・リデルとして生まれた意味を探していた。

 だから私は………

 だから私には………


 礼儀作法などという意味のわからん物に割いている時間などない!!!!


「ヨル様背筋が曲がっております」


 教育係の女の叱責が飛ぶ。

 知るか!こちらと前世では魔王だったんだぞ!?

 なぁぜ人間なぞに媚び諂わねばならん。

 私に礼儀正しくして欲しいならまず私がそうしたいと思えるだけの実力を示せ!

 と、叫びたくなるのをなんとか抑える。

 母親は聖女の身分が私を守ると言っていた。

 ここで聖女失格の烙印を押されるのも本意ではない。

 荒れ狂う感情をなんとか押さえ、背筋を伸ばす。

 ほら、どうだ?これで満足か?


「反りすぎですヨル様、胸を突き出して男でも誘惑してるんですか?」


 女の教鞭がペチッと私の背中を叩いた。


「…………」


 ぐわあぁぁぁっぁぁぁっっっっ!!

 なんなのだこいつは!

 嫌い嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!大っきらい!!!

 この女、何度私の愚弄したら気が済むのだ。

 大体こいつ私がド田舎の村の平民出身だからって馬鹿にしてるだろ。

 こんな女が私の教育係とは…………地獄だ。





「ふむ……歴史、算学は申し分なし、ですが礼儀作法やダンスは…………はぁ、これはなかなか酷い」


 私の前で、男が報告書に目を通しながら深いため息を吐いた。

 こいつは俺を連れ出した騎士の男だ。

 ロレンス・リラ・ハモン。

 騎士団に所属していたこの男はどうやらかなり身分の高い貴族だったようだ。

 後ろ盾のない私は、不本意ながらこいつの養子となった。

 聖女が、平民なのはさすがに体裁が悪いらしい。

 私が聖女としてやっていけるのか、それを確認しにこうして月に一回は屋敷に訪れる。


「社交界にデビューするのにこの調子では困ります」


 困ればいい。

 と内心では思いつつ、私は殊勝な態度で頭を下げる。


「練習はしている。以前よりはだいぶ良くなったと思うが」


「その言葉遣いがもうすでに問題ですね。ヨル様は女性なのですからもう少しお淑やかな口調の方がよろしいかと思いますが……」


 なぜ口調といい、服装といい、私に女らしくするのを求める。

 いや、まぁ………女なんだけど。

 どうにも慣れないというか、村では好き勝手に振る舞っても何も注意されなかった弊害がここに来て出ている。


「すみません。気をつける、ます………わ」


 ダメだこれ、全然うまくいかない。


「はぁ……まぁ、1人ではどうにもならないこともあるでしょう。そろそろ頃合いかと思い、あなたに侍女をつけることにしました。彼女からいろいろ学んでください」


「え?」


 侍女?それってあれか、魔王だった頃にいた召使みたいなやつか?

 首を傾げていると、扉の向こう側からノックの音が聞こえた。

 入って来たのは13、4歳くらいの女の子だった。

 赤みを帯びた金髪を後ろで束ねた可愛らしい顔立ちの少女。

 その立ち姿は私が見ても惚れ惚れするほど綺麗で整っていた。


「リア・ラ・ハーミットと申します。本日よりヨル様お付きの侍女となりました、よろしくお願いします」


 彼女はスカートの端を持ち上げて優雅に礼をした。


「彼女も一応貴族だから、立ち振る舞いは彼女から学ぶと良い」


 なん………だと?

 私にああなれと?

 1目見ただけでわかる、彼女の身のこなしは私とは段違いだ。

 もし、この騎士野郎がこのレベルを求めているのだとしたら……

 私は静かに絶望した。





「ヨル様は自由時間はどのようにお過ごしで?」


 リアと名乗った少女は私の側に控えて優雅に微笑んでいる。

 部屋に戻るとすぐに私は彼女に問いかけられた。


「読書だ。別にお前に頼むことはないから好きにしていいぞ召使い」


 私は椅子に座って頬杖をつきながら答える。


「め、召………オホンッ、私は侍女でございますヨル様。読書でしたらお茶をお持ちいたしましょう」


 おお!気がきくな、紅茶を持ってきてくれるのか。

 こうして他人に奉仕されると、なんだか魔王の頃に戻ったみたいで気分がいいなぁ。

 そんなことを考えながらリアがお茶を準備する姿を眺める。


「どのようなご本を読んでいるのですか?」


 そう言いながら、リアは紅茶を差し出す。

 紅茶のいい香りが漂う。

 最近香りのよさというものがだんだんわかってきた。

 相変わらず食事はめんどくさいと感じるが、お茶は嫌いではない。


「最近は恋愛小説が多いな、全く理解できないが」


「はぁ……」


 リアは不思議そうな顔をして私を見つめる。


「なぜ人間は仲良くなると接吻したがるんだ?唇と唇を重ねると何かあるのか?意味がわからん」


 私の疑問に、なぜかリアは頬を染める。


「あ……の、そのような本は……まだヨル様には早いかと………」


 その言葉に思わず眉をひそめる。

 またか、村人と同じような反応だなぁ。

 まだ早いとか、大人になったらとか、一体いつになったらいいんだ?

 ロレンスに愛とは何か聞いたら、この恋愛小説とやらをくれたのだが、まだ理解できない。

 確かに私には早いのかもしれないなぁ……

 私は理解できもしない小説を読み進めた。





「ヨル様、もう本日はお休みのお時間です」


 気がつけば窓の外は暗くなっていた。

 ふむ、確かにそろそろ寝るべきか。

 リアは今日1日私の側についていた。

 確かに、彼女の立ち振る舞いは参考になることが多そうだ。


「おい、どこに行くんだ?」


 私は部屋から出て行こうとする彼女を呼び止めた。


「本日は上がらせていただこうかと思ったのですが、まだ御用がありますでしょうか」


「いや、お前が寝るのはここだぞ」


 私は彼女をベットの中に引き込むと、ギュッと抱きしめた。

 村にいた時は、毎日母親に抱きしめられて眠っていた。

 でもここに来てから私は1人で寝るしかなかった。

 1人で寝る夜はこんなにも寂しいと私は知らなかった。

 だから召使いができた時嬉しかった。

 一緒に寝れる人間がいる、これでもう寂しくない。


「ッッちょ!えぇ?え゛え゛え゛えぁああぁ!!??」


 なんか汚い声が聞こえるけどリアじゃないよね、彼女はどんな時も優雅だったし、こんな汚い声を出すわけがないか。

 今日は久しぶりにぐっすり寝れそうだ!!

おや?ガールズラブのタグが追加されましたね。

なぜなんでしょう?(すっとぼけ)

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