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生命

生命の讃歌

作者: もずく

間違えて違う作品を投稿するハプニング(ただのバカ)がありましたが(これで3回目)、久々の投稿です。


久しぶりの方も、初めましての方も楽しんでいただければ幸いです。

「ギター辞めようかな」


口から漏れ出した言葉に驚きはなかった。


もっと正確に言うなら、口が勝手に話すのは初めてのことだったのでそれ自体には驚いたけど、内容自体には感傷はあっても驚きは生まなかった。


肩にかけたラックにはギターに繋がっている。繋がっているそれを見下ろして、これを見つけたときを思い出す。


何の変哲のない、ひねりのない出会い。中古で激安で売っていた。ただそれだけ。音は可も無く不可も無く。かなり使い込まれた後があるが気になるほど状態は悪くなく、逆に使いやすいぐらいだった。


昔、友人のを借りて引いたとき、その友人に上手いと言われたのを思いだしながら買った。


思っていたより思い通りに弾けなかったけど、ちゃんと練習すれば上達するのが分かる。勉強なんかより成果が分かりやすくて打ち込みやすかった。


それから一年間。動画を見まくって試しまくって引きまくった。サボったりもしたが、それなりに頑張った。


もう高校二年目の夏だ。


あと半年もすれば、受験勉強に入る。たぶんあんまり触れなくなる。下手になったのを一から学び直すのも手なのかもしれない。けど、一度やめたら二度とやらない気がする。


別にミュージシャンになりたいわけじゃない。将来の夢に音楽の文字はない。


楽器に触ったから、頑張って何度かオリジナルの曲を作ってみたりした。下手っぴなのはしょうが無いとして、気に入らなかった。


構成が甘いのも、自分の腕も、まして楽器も、悪いわけじゃない。まだ上があるのは重々承知しているが、初心者にしてはちゃんと出来てたと思える位には考えたし、練習した。


歌詞をつけてみたり、書き直しても満足いかない。


何個も作ってみたが、どれも同じ結果だった。


ギターを弾くのは楽しい。楽しく練習できたからずっとやってきた。だけど、嵌まったのは最初だけで最近のはもう惰性で続けてただけだ。


手に持ってたピックをおいて、ラックを外そうとしたとき、音楽室のドアから覗いてる目があることに気付いた。


少しビビったが、吹奏楽部の誰かが自主練に来たんだと思った。今日は休みのはずだし、きっとそうだと確信した。ちょっとした用事を済ましてから来たなら、放課後になってから、30分ぐらい立った後に来たのも、納得がいく。


やめようと思ってたわけだし、丁度いいか。


「すみません。今日は吹奏楽部は休みだったので、勝手に借りてました。今、空けるのでちょっと待ってください」


そう言って、片づけようとした。


「やめちゃうの?」


だけど、待ったをかける声が、僕の手を止めた。


扉が半開きから、ちゃんと開いた状態になった。そしてそこにあった姿に驚く。学校一の美人と名高い、現役アイドルの飾輪(かざわ) 紗絵呑(さえの)


学校一有名と言っても過言ではない。テレビにも良く出てる。時々、マスコミも学校にやって来る。


一般生徒からしてみれば、ただただ高い高嶺の花だ。時々、友達と話してるときに、飾輪さんと付き合えるとしたらどうする?なんていう話が絵空ごととして話される。


そんな存在と放課後に二人きりになった。これだけで、羨ましがられるほどの事件だ。そもそも、放課後に学校に残っていられるほど彼女は暇じゃないはずだ。


なので、部活に入れるほど余裕のあるはずのない彼女が吹奏楽部な訳がない。と言うか、飾輪さんほどの人が部活に所属していたらもっと有名になるだろう。


益体のないことがほとんどの思考を占めていたが、状況確認は出来た。


「いい曲だった。君が作ったの?」


「そうだけど……いい曲だった?」


「うん。しっかり作り込まれてて、練習もしっかりして感じがした」


「そう言って貰えると嬉しい。だけど、僕は満足できてないんだよね」


「向上心もある、と」


「違うと思う。……多分だけど」


飾輪さんが首を捻る。


「最初はメロディーだけで満足、と言うか納得がいかなかった。今歌ってはないけど、歌詞もつけてみた。それでもしなかった。色々工夫して今の形になったけど、完成した。って言う達成感は湧いたけど、満足できなかった」


「当然じゃない?いい曲って言ったけどまだ、経験とか足りてないとは思ったし、楽器だって君より上手い人なんてたくさん居るよ」


「自分でもわかんないから、困ってる」


一番似合いそうな言葉が、満足しないとか。納得できない、って言うだけでぴったし心境を表す言葉は見つかってない。


「そっか。じゃあ、君とは初対面の私からは、何も言えないかな?」


「まあ、そうかな……」


不意に沈黙が現れた。何も出来ずに、2秒3秒と経って、俺はそれに耐えられずギターを降ろした。ギターケースに納めたら、また話しかけられた。


「……辞めるの?」


「え?あ、うん。自分で作った曲を自分のだって言える自信はあるけど、胸を張れる誇りには出来なかった。自分の曲じゃない曲を弾くのは、上手くなるのは分かるけど、何故か虚しくなるし」


「もったいないなあ」


何が?


と言う言葉が出かけたが、すぐにそういう事だと思った。


「辞めるのが?」


「うん。君は生粋のミュージシャンだと私は思うよ」


合っててよかった。今、ちょっと無意識にかっこつけちゃって違ったら普通に恥ずかしいところだった。


「恐れ多いな。アイドルに言われるのは」


「そんな事は無いよ」


「そうなのか」


「そう」


「そっか」


「……」


いや、黙んないで!


めっちゃ気まずいから。いや、続くような話題を切り出せなくて悪いとは思うけど!……


取り敢えず、ギターケースを閉めた。


ギギギュウ(みたいな)とケースを閉めた音が響く。とても嫌なぐらい、その音は響いた。


「……あのさ。アイドル業で忙しいって聞いたけど、ここにいていいのか?」


「うん。しばらく休みを取れたから学校探索中なの」


「なるほど……」


偶然、か。


「……帰る?私、ここ使わないけど」


「まあ、もともと止める準備し始めようと思ったら覗いてる人影に気付いたから」


「そう。……今さっき、君がさ言ったよね。アイドルに言われるのは恐れ多いって」


あれ俺なんかした?


「え、うん。ちょっと違ったような気もするけど」


「ちょっと嫌な言い方だった」


気に障る言い方しちゃったのかな。


……それ、僕悪くなくない?


だって、アイドルだからって趣味嗜好、思想を発信する必要は無いから、知らなくて仕方ない。


んで、個人的な付き合いで知ってる場合。うん、これは無い。ほぼほぼ初対面な状態で逆に知ってたら、普通に怖い。


結論。

悪くないけど、謝っとく。


「……ごめん?」


「疑問形で正解。ただの八つ当たりだから」


ほら、悪くなかった。


「話、聞こうか?」


「いいの?」


「僕の話は聞いてもらったし」


普通に本音が出た。ちょつとしか話してないけど、意外と僕も溜めてたみたいだな。


「じゃあ、遠慮無くさせてもらうね」


「うん、人の愚痴を聞くのは慣れてるから話したくないこと以外は言ってみて」


親はよく、酔って帰ってくるのでそう言う話をよく聞く。


「……やっぱり、君とは話しやすいよ。……自慢じゃないけど、私はモテるから、男の子と話すと色目って言うかそう言う目で見られるから」


?僕も別に興味持ってないわけじゃないけど。


「たぶん、波長と言うか。心のテンポが合ってるんだろうね。別にそう言う目をしてないとは言えないけど、居心地がいいんだよね」


なるほど。


「……八つ当たりって言ったけどさ。たぶん、違うんだ。君と同じで、この気持ちを表す言葉が見つからないんだけどね」


「それでも、話してみてよ。僕はそれで、ちょっとよくなった気がする」


「そっか。……アイドルとミュージシャンは違うと思ってる」


ポツポツと語り始めた。


「アイドルは元気を渡すのが仕事で、ミュージシャンは芸術家」


「私が憧れたのは、ミュージシャンだった。アイドルはその為の渡橋だった」


「そのつもりで、事務所入ったし、そう話してた」


「だけど、アイドルで売れちゃった」


「グループじゃなくて一人だから、私が辞めたらせっかく出来たネームバリューが消える」


「お金も入ったし、芸能界に出て揉まれることも出来た」


「将来の為にはなってるんだと思う。私のお陰で元気が、やる気が出てる人がいるのも嬉しかった」


「だから、今すぐミュージシャンに成りたいわけじゃない。しばらく、このままでいいって考えてる」


…………


「じゃあ、何に悩んでるの?」


「妥協で、アイドルになったこと」


「ミュージシャンになるのに経験積むためなったなら妥協ではないと思うけど」


「違う。売れ始めた時、私には選択肢があった」


「選択肢……」


「1つは今の私。もう一つがミュージシャンの私」


「……」


「事務所の人に打診されたの。この調子で売れていくなら出来れば、数年はアイドルを続けて欲しいって。……夢を後回しにしてくれって」


「それは……」


「私はその時、ネットに露出し始めたばっかりで、経験とかもないし、路線変更してもついて来てくれるファンもたぶん、いなかった」


そもそも、ここまで売れるなんて思ってなかったしね。と付け加えて話してくる。


うん、そうだねと返す僕に僕は褒めたい。


僕の予想としては、友達とか、勉学のことで悩んでるんだと思ってたけど、普通に僕には荷が重すぎる話題が出て来ちゃった。


ほんと、どうしよ。


声を大にして言いたい。

そう言う大事そうなお話を一介の学生に相談してくれるな!話を聞くとは言ったけど!


言ったけどさ!


「だから、少し君が羨ましかった」


「え?」


ちょっと怒り気味に悶えてた僕に予想もしてない言葉が降ってくる。


「君は満足しないとか言ってたけど、私には出来ないこと」


「そんな事は……」


ないと続けようとして、言葉を引っ込めた。飾輪さんが悲しそうな顔をしてたから。


「そんな事はあるんだ。アイドルには」


寂しそうな顔を見せて言う。


「アイドルは歌って言う()()で、元気を届けるのが仕事だから」


だから、君が羨ましい。


消えてしまいそうな小声が、きっと本人も言うつもりの無かった言葉が空気に溶ける前に僕の耳に届く。


目の前にいる少女は、飾輪 (かざわ) 紗絵呑(さえの)は儚かった。


「ミュージシャンは自分の心を、気持ちを考えを歌にして届けるのが仕事。道具じゃなくて、歌って言う自分の作品を、もしくは自分で歌って、弾いて完成させた曲を……」


それは、本音の吐露。


たぶん、アイドルが出してはいけない側面。

そして、合って一日も経ってない友達かどうかも分からない関係性で明かされてはいけないもの。


禁断の関係?


違う。彼女はそんなのを望んでいない。


ただ僕が彼女を守りたくなった。


有り体に言えば、恋に落ちた。


「アイドルは回りくどい表現を嫌うし、マイノリティ(私のエゴ)じゃなくてマジョリティ(みんなの幸せ)の為に歌う。私じゃなくて、みんなの為に「分かった」……何を?」


(ミュージシャン)が飾輪さんの為に作った曲を飾輪さん(アイドル)が俺の為に歌ってくれ」


「……」

「……」

「……ゴクッ」


「ふふ」


「!」


「いいよ。歌ってあげる」


「ほんと!」


「うわ。顔近い、近い。ちゃんと歌ってあげるから」


「ごめん。……明日、持ってくる!明日もこれる?」


「いけるけど「じゃあ、明日!」って行っちゃった。……私のために作るんだよね?一日、いや半日で出来るの?」


気恥ずかしくなったのと、こうしちゃいられないと急かす心に従った結果、飾輪さんが何か言ってたけど聞き取れなかった。


凄く気になるけど、今更聞き直すのは恥ずかしいなんてものじゃない。開き直って、さっさと去る。


あ、挨拶せずに出て来ちゃった。……嫌われないよね?


その日は寝なかった。


訂正。


寝れなかった。


考え抜いた。流石に夜になってからはギターは引けなかったが、歌詞は凝った。


アイドルが歌ってもおかしくない、ミュージシャンの歌。


うん、頑張った。


その興奮が冷めず、いつも以上に授業の内容が頭に入ったのは、棚からぼた餅と言うべきか。


そして放課後。


昨日、何も考えずに明日といったが今日は吹奏楽部の担当の先生が休みで、部活も休みらしい。


ナイス僕の幸運。


ギターを担いで、音楽室に向かう。


夜はあんなにドーパミンがドバドバ出てたのに、今は、バカみたいに冷静だ。緊張しているんだろうな。


ドアの前に着いた。


まだ、来てないとは思うが、一応深呼吸してから入る。


ドアを、空ける。


いなかった。


だよな。と思いながら、入って閉める。


ギターケースを机の上に置いて、ギターを取り出す。


音を確認するために、ピックを持って簡単になら「ワッ!」ギャンッピシッ!「え?」


物陰に隠れてた飾輪さんが出て来た。


その拍子に、俺は馬鹿みたいに力を込めてしまった。今まで出したことのない音と引き替えに、弦が一本切れた。


どうしよう。


申し訳なさそうに、そして居づらそうにしている飾輪さんに過ぎたことはしょうが無いとして伝えて、アカペラでいいかと聞く。


「本当にごめんなさい。ちゃん弁償する。後、私に否定できる立場にない」


「そ、そう」


緊張した。


…………



アカペラは頼れるものが自分の感覚しかないから、ドキドキした。


必死すぎて、飾輪さんの反応を見れてない。


「……どうだった?」


「うん、よかったよ。私は前向きになれたし、アイドルとし歌ってもいけるかもね。まあ、メロディー次第だけど」


「そうか」


「ごめん」


「あ、いや。歌はともかく、ギターは夜中まで弾けないから、メロディーはあんまり自信がないから。弾けないは弾けないでよかったって思ってる」


「そっか」


「うん」


玉砕かな?


「言うって決めてた事があるんだけど、聞いてくれる?」


「いいよ」


「色々考えたんだけど、飾らずに言うことした」


ー付き合ってください。


口から出た言葉が、出した言葉がどこか他人事に思える。


「……ごめんなさい」


そこに昨日の儚さはなかった。もともと、勝率は低いと思っていたから悲しくはなかった。


「アイドルはそういうのNGなんだ」


少し、希望が残った。その時、自分で納得できる大人になってまた、言いに行こう。


「そうだ、明日あいてる?メロディーも聞きたい」


「えっと「自信がないなら一緒に直そう」……」


「それで、君が納得できる歌を私に歌わせてくれ。……何年かけてもいいから」


「……よろしくお願いします」


まずは友達から。かな?


うん、そうだね。前向きな返事だと思おう。


「こちらこそ。それじゃあ、今日は弦を買いに行こう。明日、いい音で聞くためにならしも聞いていたいかな」


「あの、明日は僕は開いてるけど、ここは吹奏楽部が使うから使えない……今さっきはそれを言おうとしたら、遮られた」


頬赤くして、僕から顔を逸らした。そして、逸らしながら、もじもじしながら、ぼそぼそと口を動かす。


「なら、私の家で……」

想像にお任せします。


こんな終わりかたは認めないと言う方は感想または評価の程をお願いします。

……まあ、連載したり、続編作ったりはしませんが。

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