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操り人形

作者: 埃川 彼芳乙


()し、其処(そこ)貴方(あなた)


 灰色のパーカーに紺のジーンズを履いた二十代前半と思われる男性が流暢(りゅうちょう)に語る。


「貴方は操られている、良ければその正体をお教えしたいのだが」


 数秒の間、男性は片手を差し出して微動だにしない。


「なるほど。貴方自身を操るものの正体は熟知している、と。

 何々…メディアの情報操作…サブリミナル…カルト宗教……筋トレ…SNSによる群集心理…ニューワールドオーダー……なるほどなるほど。所謂(いわゆる)陰謀論とやらですか。

 嗚呼(ああ)実に惜しい。()れもそうだがそうじゃ無い」


 こちらに近寄って何かを読み上げる彼の声は、常に平坦で抑揚が無い。まるで読経しているかの様にも感じられる。その落ち着き払った声音が鼓膜を震わし、脳を揺らして心にほうっとした安寧を(もたら)す。明鏡止水の心境と言うのだろうか、不思議な感覚だった。


「若し、其処の貴方

 貴方は自身が自由で()ると思うかね」


 数秒の間、再び男性は片手を差し出して固まる。


「なるほど。貴方は自身の意思の下に選択を下し生きている、だから自由だと。なるほどなるほど。所謂自意識過剰とやらですな。

 嗚呼実に嘆かわしい。其れもそうだがそうじゃ無い」


 男性は後ろ手に辺りを歩き始める。


「貴方が視て居る世界が如何(どう)して(まこと)だと()えよう。貴方が聴いて居る世界が如何して眞だと云えよう。貴方が触れる世界が如何して眞だと云えよう。貴方が感じる世界が如何して眞だと云えよう。

 貴方が其れ等を知覚する以前に其れ等を選り分けて居る存在が居る」


 そこでピタリと動きを止めてこちらに正面を向ける。少しの沈黙。その()が彼へと意識を集中させる。

 そして男性は自分の額に人差し指を(あて)がった。


「我々は脳に操られている」


 背筋を薄ら寒いものが這い回った。


「貴方が視て居る、聴いて居る、触れて居る、感じて居るこの世界は全て造り出された幻想。贋物(まやかし)でしか無い。

 この世界の眞の姿を視たいとは思わないか。

 偽りの世界から抜け出したいのなら、さぁ。私と手を合わせて」


 男性の掌がぐっと画面に突き付けられる。スッと伸びる指先は男性にしては細く、綺麗だった。

 生きる事に疲れた私は偽りの世界から抜け出したいと思った。だからこそ()のこの動画を観に来たのだから。

 私はその手に(すが)り付く様に重ね合わせた。

 画面越しに触れ合う数秒間。

 パッと画面が暗転し、動画はそこで終了してしまう。指の隙間からは次のオススメ動画のアイコンが顔を覗かせていた。


「………嘘吐き」


 噂は結局噂でしか無かった。救いを求めている私は、落胆する気持ちを何とか堪えてブラウザバックしようとマウスを操作した。

 ふと違和感に気付く。体が思うように動かせなかった。

──あれ、何これ?痺れちゃったの

 ビリビリとした感覚は在るものの自分の意志に反して体は動かない。丁度、血管を圧迫して痺れてしまった時の感覚に似ていた。


「……え」


 束の間、移した視線の先に意識が釘付けになってしまう。


 グレアモニタに反射して(うつ)()()は酷く痩せこけた両の手を私の頭の上にそっと乗せた。





将来書こうと思っている小説の小ネタです。

多分これだけじゃ何もわかりましぇん(笑)

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