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【書籍発売中、2巻続刊!】最凶侯爵の逆鱗に触れた者達の末路  作者: やとぎ


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余波④

「陛下、宜しいのですか?」

「かまわん」


 秘書官のリンベルト=ドールクがフラスタル帝国皇帝リューベス3世におずおずと切り出すと、リューベス3世は一言で答えた。


「しかし、ルクルトは間違いなく我が国を利用しようとしていると思われます」

「そうだろうな」

「ガルスマイス公爵領の譲渡は明らかに我が国を食いつかせるためのエサでございます。おそらくルクルトはギルドルク王国の土地相続法を利用してタダ働きをさせようとしていると思われます」

「当然だ」


 リンベルトの言葉にさも当然というようにリューベス3世が答える。その様子にリンベルトは安心したような表情を浮かべた。


「リンベルト、ルクルトごとき(・・・)が策を講じたところで全くの無意味だ」

「それはやはり……?」

「軍事力がない以上、奴が何をほざいたところで無意味だ」


 リューベス3世の言葉にリンベルトはゴクリと喉を鳴らした。リューベス3世の冷徹な視線には身がすくむ思いである。


「ギルドルク王国などザーベイルを落とせばどうとでもなる。ザーベイルは代替わりした。その間隙をつくのが明らかに良い手であろうな」

「確かに、今のところジルヴォル=ザーベイルはよく国内をまとめているとは言えますが、未だに統治しているのはザーベイル辺境伯領とその近辺の地方貴族達のみ、それ以外は支配できておりません」

「うむ、報告によればザーベイルの支配に他の貴族達が同調していないという話であるな」

「はっ、ソシュア王女が即位したことで反ザーベイル勢力が急速に形成されていると言う話です」


 リンベルトの返答にリューベス3世はニヤリと嗤う。


 フラスタル帝国に入ってくるギルドルク王国の情報はジルヴォルにより加工されたものである。もちろん、フラスタル帝国も間者を放っているのであるが、どうしてもジルヴォルの真意を掴むことはできないでいた。

 これはフラスタル帝国がギルドルク王国の動乱を知ったのが、動乱が勃発して二ヶ月後のことであり、しかもほとんどがザーベイル辺境伯領で諜報活動をしていたのでどうしても中央貴族領の細かい様子はザーベイル辺境伯に流れてくる情報をもとにしているからである。

 ジルヴォルはそこで情報を加工し、それをフラスタルの間者に拾わせているのである。


 これはフラスタル帝国の諜報網が脆弱であることを意味するものではない。フラスタル帝国にとってザーベイル辺境伯領を落とせばギルドルク王国を一気に制圧するという見立てであったのであり、そのためにザーベイル辺境伯領に集中していたゆえである。

 ギルドルク王国の動乱を事前に察知することができたのは国外ではジオルグくらいであったろう。そのジオルグとて確信があったからではなく、可能性の話でしかなかったのである。


 その意味ではジオルグとジルヴォルが同類故に気づいたと言う話であり、他のものが気づかなくても特段その者が能力が低いことを意味することではない。


「ルクルトはこう考えておるのだろうな。フラスタル帝国とザーベイルを噛み合わせることができる。互いに潰し合うのでギルドルクを制圧することはできないとな」

「確かに……ルクルトは陛下が出兵を告げた時に一瞬ですが、嫌な嗤みを浮かべました」

「愚かなことだ。こちらを騙そうと言うのならば最後まで殊勝げな態度を崩さねばよいのにな」

「御意」


 リューベス3世の嘲笑にリンベルトは短く返答する。リンベルトは同時に自分の心配などリューベス3世には無用でしかないことを察し、進言を行ったことを密かに恥じた。


「ルクルトは現時点で我が国の大義名分だ。失うわけにはいかぬな」

「はっ、残念ではございますが……」

「ふ、そう嫌うな。あの者も我がフラスタルのためになっているのだ。即位したのちは傀儡としてギルドルクがフラスタルに名を変えるまでは、生かしておいてやろうではないか」

「はっ」


 リンベルトの返答にリューベス3世は冷たい笑みを浮かべた。


「エリクメルテか……コードランスのどちらにするかな」


 リューベス3世の言葉にリンベルトは答えない。エリクメルテは皇太子派、コードランスは第二皇子派に所属する将軍達である。

 フラスタル帝国も一枚岩ではなく、後継者争いが存在する。どちらの将軍を指名することにより、それは後継者争いに有利に働くことになるのである。


 リューベス3世は三十代半ばであり、通常ならばあと二十年は大過なくフラスタル帝国に君臨するはずである。だが、二人の王子に対して周囲の者が担ぎ上げようという動きがあるのだ。


(ザーベイル王国か……何度も余の野望を阻んだ憎っくき敵よ…後詰めのない状況だ。今度は耐えきれまい)


 リューベス3世は心の中でそう呟くと歪んだ嗤みが口から漏れた。


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