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一方的に殴ることにする

「え?」

「現?」


 セレンス伯爵夫妻だけでなく他の者達も同様に戸惑いを隠すことは出来てない。


「私は先日16歳となり成人となった。それによりザーフィング侯爵を継いだのだ」

「そ、そんな……」

「え、どういう」

「前ザーフィング侯爵である母エルフィルが亡くなった時、私はわずか11……。成人に達してないのだからザーフィング侯爵を継ぐことは見送られていたのだよ。母は自分が亡くなった場合(・・)に備えて、ガーゼルは侯爵代理、私が16になった時にはすべての権限が現侯爵である私に移るとしていた」

「……」


 私の言葉に全員一言も発することは出来ない。自分たちがさんざん蔑んできた男の立場が自分たちよりも遙かに上であったことに戸惑わないはずがなかった。


「さて、現状を認識したかな? セレンス伯爵」

「は、はい」

「ふむ、セレンス伯爵は我が国の序列には少々疎いようゆえ教えておいてやろう。侯爵とは伯爵よりも序列が低いというわけではないのだよ」

「も、もちろん。存じております」

「ほう……さきほどの無礼な言葉を侯爵である私に投げかけてきたゆえにモノを知らぬものだと心配になってな」

「も、申し訳ございません」


 セレンス伯は顔を蒼くして私に謝罪した。それに伯爵夫人も慌てて倣う。


「別に構わぬよ。簒奪などという下卑たことを考える輩だ。そのことを考えればこの程度の無礼など当然あるものと考えるべきよな」

「そ、そのような」

「私としてはセレンス伯爵家とは良い関係を築きたいと思っていたのだが、本当に残念だよ。とりあえずセレンス伯爵領との交流を絶つことから始める」

「な」

「そ、そんな」


 私の宣言にセレンス伯爵夫妻は顔から一気に生気が失われた。ザーフィング侯爵領とセレンス伯爵領は隣り合っており、ザーフィング侯爵領を通らなければ王都へ行くことが出来ないのだ。もし、侯爵領を経過せずに王都に行くには大きく迂回する必要があるのだ。

 そのため、セレンス伯爵家とすればザーフィング侯爵家との関係は必須なのだ。私に次期侯爵としての芽がないとはフィオナからの情報からの判断であったのだろう。


「簒奪を企むような家と友好関係なぞ望めぬからな」

「お、お許しください!!」


 セレンス伯はその場に跪くと必死に縋り付いてきた。少し遅れて伯爵夫人も夫同様に跪いた。

 私に両親が跪いたのを見たフィオナはガタガタと震えだした。


「どうか!!」

「お許しください!! 我々が愚かでありました!! ザーフィング侯のお怒りはごもっともでございます!! ですが侯爵領の通行を止められればセレンス領はすぐに干上がってしまいます!! どうか!! お慈悲を!!」

「侯爵家としてはセレンス伯爵家との縁を切ったところで何も困ることはない」

「そ、そんな……そ、そうだ!! フィオナと再び婚約を!!」


 セレンス伯は思い至ったようにフィオナとの婚約を再び打診してきた。ある意味、そこまで追い詰められているという精神状態なのだろう。


「セレンス伯爵令嬢は義弟レオンと結婚させる。これは決定事項だ。ザーフィング侯爵家と一切関係ない(・・・・・・)婚姻故何の縁も結べぬな」

「そ、それでは……」

「セレンス伯爵、我がザーフィング侯爵家と誼を結びたければそちらにも相応の対価を払ってもらおうか」

「た、対価?」

「エルデ村を割譲せよ」

「……なぜ? そのような村を?」

「私にとって価値があるのだよ。セレンス伯爵としては何の価値も見いだせぬであろうがな」

「一体……」

「どうする? エルデ村を引き渡すか? 否か?」

「しょ……承知いたしました」

「良い心がけだ。譲渡契約書はすぐに作成する」


 私はここでセレンス伯との会話を打ち切るとカルマイス子爵、エディオル子爵へと視線を向けた。私の視線を受けた二人はビクリと体を震わせた。


「さて、セレンス伯達はこの程度で許してあげるとするが、お前達はそう甘くないぞ」

「お、お待ちください!!」

「何かな? エイディオル子爵? 子爵ごときが私の言葉を遮ってまで物申したい事に興味があるな」


 私の言葉にエディオル子爵はギリッと奥歯を噛んだ。


「確かにアルマダは私の妹でありましたが、既にザーフィング侯爵代行に嫁いでおり、我がエディオル子爵家とは縁が切れております」

「そうか。ならばこのまま帰ってもらって結構」

「は?」


 私の言葉にエディオル子爵は呆けた声を出した。それだけ私の言葉に虚を衝かれたのだろう。


「無論、卿が関係ないと信じるのは卿の自由というものだ」

「な、何を言われる?」

「何、この後何が起こるかを考えれば欠席裁判となってしまうが別に構わぬのだな?」

「欠席裁判?」

「うむ、今後何を言っても弁明できぬが構わぬと言う宣言しかと受け取ったということだ」

「だから何の事だ!!」


 エディオル子爵は声を荒げて私を睨みつけてくるが、まったく取り合うことなく話を続けた。


「あの女が今後どのような事を発言するのか楽しみだと思ってな」

「だから何を」

「卿にはもはや関係ないのだろう? だが、あの女がエディオル子爵家に対して何らかの不都合(・・・)な話が出るとなれば、いかに子爵が無関係であると主張したところで誰がそれを信じてくれるかなと思ってな」

「……」

「そちらの男が次期ザーフィング侯爵であると私の前で宣言したよ。根拠がガーゼルとアルマダの承認というではないか」


 私の視線を受けてレオンがビクリと身を震わせた。


「だから私は」

「私は敵対者には容赦などしないよ」

「え?」


 私の言葉に全員が息を呑むのを感じた。まぁロイ、アイシャはむしろ目をキラキラさせていたが。


「わからんのか?ガーゼルとアルマダがなんら正当性もなくレオンを次期侯爵に指名した。私に対する明確な敵対行為である。当然二人の実家である両子爵家の責任も問うつもりである。エディオル子爵が無関係と主張するのは子爵の自由。だが、私がそれによってエディオル子爵家に容赦をするかどうかはまったく別問題だ」

「そ、そんな」

「私がエディオル子爵家にも侯爵家から金が流れているのを知らないと思っていたのか?」

「え?」


 エディオル子爵の顔色がサッと変わった。自分も実は既に追い込まれていたことを察したのだ。


「それで無関係を装うというのは少々私を甘く見すぎだ。まぁ、無関係を主張するのだからさっさと帰ってもらおうか」

「お待ちください」

「ロイ、エディオル子爵はお帰りのようだ」

「はい、子爵様こちらへどうぞ」


 ロイが和やかな表情を浮かべてエディオル子爵は顔を縋り付くような声をだしている。


「一体何の騒ぎだ!?」


 そこに元侯爵代行であるガーゼルとその妻アルマダが姿を見せた。



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