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侯爵は報復の刃を振るう⑥

 私が腰斬の刑を告げると同時に、担当者達がガーゼルとアルマダを拘束する手錠に鎖を取り付けると、梁にひっかけて思い切り引っ張った。


 わずか二十秒ほどで二人はつり上げられる。


「ま、待て!! 待ってくれ!!」

「いやぁぁぁぁ!! 助けて!!」


 ガーゼルとアルマダは自分の置かれた状況を理解すると同時に命乞いを始めた。その声は、先ほどまでの命乞いよりも遙かに追い詰められたものであった。

 

 まぁ、死刑執行が秒読み段階になれば当然のことだ。


 さて……仕上げだな。


「両子爵は壇上へ上がれ。もちろんレオンもだ」


 私の言葉に指名された三人はビクリと顔を強張らせた。最年少のカーマインは既に泣きそうだ。だが、私はまったく容赦をするつもりはない。


「早くしろ」


 私のドスの利いた声に三人は顔を青白くさせながら壇上へと上がってくる。


「助けてくれ!! レオン!! アルガス!!」

「レオン!! カーマイン!! 早くジオルグを止めて!!」


 壇上に上がった三人にガーゼルとアルマダは先ほど同様に、助けを求め始めた。当然壇上に上がった三人は助命に動き出すことはしない。私のとる行動が理解不能すぎてもはや、この三人の中で私は怪物ととらえられていることだろう。


 アイシャが壇上に長剣を持って上がってくると私はニヤリと嗤って剣の柄に手をかけるとそのまま引き抜いた。磨かれた刀身が、太陽の光を反射して一種の神々しさを見る者に与えているのかもしれない。


「ヒィ!!」

「ジ、ジオルグ!! 待て!! 待ってくれ!! 本当に反省しているのだ!! 心を入れ替える!! だから殺さないでくれ!!」

「ふ……」


 私は微笑むとガーゼルとアルマダの表情に助かるのではという希望が浮かんだ。どうやら私が微笑んだことを許されたと解釈したようだ。人は自分の見たいもの、信じたいものを信じるというがここまでとはな。


 私は無言で剣を振るった。振るわれた長剣はガーゼルの口を切り裂き口中で止める。


 自分の口の中に刃があることに気づいたガーゼルはガタガタと震え始めた。切り裂かれた口から血があふれ出し、壇上に落ちる。


「どうした? 命乞いはもういいのか?」


 私の眼光と声にガーゼルとアルマダの声はピタリと止まった。私はそこで満足気に微笑むとガーゼルの口中から長剣を引いた。


「お前達もよく見ておけ。私を甘く見た者がどのような最期を迎えるかをな」


 私の刺すような視線を受けたレオン達三人はガタガタと震えながら何度も頷いた。


「アルガス、カーマイン……お前達の父親はこのクズ共を通じて我がザーフィング家の資金を流用していた。しかも自分達の欲望を満たすのに使っているという醜さだ。本来であればお前達一族もこいつらの共犯として処刑台にのせてやるところだ」

「ひ……っ」

「あ、あ……」

「私の期待を裏切るなよ? お前達の命は今後ザーフィング家のためだけに使え。貴様らごとき、家族ごといつでも処刑台におくることが出来ることを忘れるな」


 私はアルガスとカーマインを信用していない。より正確に言えば両子爵家を信用していない。現在両家は、ザーフィング家の傘下にあるがそれは信頼関係を前提にしたものではない。私自身、この両家は使い潰すために飼っているのだから恐怖で縛った方が遙かに簡単だ。どうせ、そう長いつきあいにはならないからそれで十分だ。


「「は、はい!!」」


 私は次にレオンに視線を向けると、レオンは歯をガチガチと鳴らし始めた。


「レオン、私の慈悲だ。最期にご両親にあいさつをしてやれ」

「は、はい」


 レオンは震えながら二人の前に立つ。その尋常でないレオンの様子にガーゼルもアルマダもレオンがどのような扱いを受けているかを察したようだ。


「ふ……やはりな」


 私の言葉にレオンはビクリと体を震わせた。ガーゼルとアルマダに浮かんだ表情は絶望であったのだ。レオンが何かしら苦痛を受けていることに私に怒りを向けるのではなく、自分がどうあっても助からないという絶望しかない。


「レオン、もういい。確認は終わった」

「え?」

「こいつらはお前の今後のことを心配するのではなく、自分達が助からないことに対して絶望した。結局はこいつらには我欲を満たすという行動原理しかないのだ。人間として大切なものが私以上に欠落している」

「……」

「さて……自分達がどうあっても助からないことを理解してくれたところだし、始末するか」


 私はそう言うと長剣を振るう。空気を斬る音が周囲に響くとアルマダは身を震わせた。


「アルマダ、最期の最期で少しは賢くなったな。この段階でしゃべれば容赦なく口に剣を突っ込んでやるつもりだったのだがな」

「あ、あ……た、たす」


 アルマダは声を出すことが出来ない。私から発せられる冷たい殺意に身をすくませているのだ。


「じゃあな」


 私はそう言うと長剣を一閃する。私の振るった長剣は水を切ったかのように何の抵抗も示すことなくアルマダの腰を両断すると、腰から下がその場に落ちる。同時に切り離された傷口から臓物がこぼれ落ちた。


 アルマダは呆然とした表情を浮かべたが、領民達の歓声により、自分の置かれた状況を理解したのだろう。顔を下に向けると、自分の下半身が両断され、臓物がこぼれ落ちているのを確認したようだ。


「が……がぁ……」


 アルマダは自身の置かれた状況を理解したことで突然苦痛が襲ってきたのだろう。凄まじい苦痛に声を出しそうになるが、もはや声を出すことも出来ないのだ。


「ふん」


 私はもう一度長剣を一閃するとアルマダの両腕を両断した。両腕から切り離されたアルマダの上半身はそのまま処刑台の上に落ちた。


「死の救いがくるまで大変だろうが、ゆっくりと苦痛を味わうのだな」


 私はアルマダに向けて言い放つとガーゼルに視線を向けた。


「ひ……」


 ガーゼルは私から視線を向けられると喉を鳴らし、同時に股間から尿を漏らし始めた。


「さようなら、父上(・・)。苦しんで死んでください」

「ひ、ま、待って……」


 私は長剣を一閃すると、アルマダ同様にガーゼルの下半身が処刑台の上に落ち、遅れて臓物がこぼれ落ちた。


「ぎ、ぎぃ……」


 ガーゼルは苦痛以外の感覚を感じていないような表情を浮かべている。私はアルマダと同様に長剣を再び振るい、両腕を切断するとガーゼルの上半身も処刑台の上に落ちた。


 これから二人は早ければ十分ほどで死という救いが訪れるが、長ければさらに数分ほど苦痛が続く。当然だが、苦痛の中で経つ時間は限りなく長い。二人にとって死が訪れるまでの時間は限りなく長く感じるはずだ。


 それまで、自らの行いを反省するも良し、私に呪詛を叩きつけるも良しというものだ。


 むしろ、怨霊となり私に呪詛の言葉を投げかけようというのなら、もう一度始末する楽しみが増えるというものだ。


 壇上にいる三人に目を向けると三人とも顔面から血の気が失せていた。三人ともここまで残虐な死を目の当たりにするとは思っていなかったのだろう。

 ガーゼルとアルマダはまだ苦痛で呻いており、死ねずにいるのだ。それが自分の身にいつふりかかるか分からないというのだから、その恐怖は例えようもないものだろう。


「アイシャ、行くぞ」

「はっ」


 私はアイシャの持つ鞘を受け取り、長剣を振るい血を振り落とし鞘に納めると処刑台から降りる。


 領民達はまったく乱れない私の姿に拍手を送りはじめていた。二人がどこまでも無様に喚いてくれたおかげで、腰斬という残虐刑を実の父に与えた事が残酷という印象よりも、頼りになるという印象を与えることが出来た証拠だろう。


 これで私の復讐は終わった。


 二人の処刑により私は新たな人生を歩むことになる。私の歩む道は、死と苦しみ抜きに歩むことはかなわないことはわかっている。


 だが、私はこの道を歩むことを止めることは出来ない。


 虎や獅子がそれ以外の生き方を出来ないように、私もジオルグ=レオムス=ザーフィングという人物以外の生き方など決して出来ないし、するつもりもない。


 私の後に付いてくるアイシャとロイ……そして、ここにはいないが私を支えてくれる仲間達と共にこの道を歩むことが出来ることを私は誇りに思う。


 さぁ、行くか……。


 私は領民に手を振り歓声に応えながら、処刑場を後にした。


以上で完結となります。ありがとうございました。

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