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侯爵は報復の刃を振るう③

「まったく、先ほどまでは少しはマシ(・・)になったと思っていたが、この短時間でよくもここまで知能を退化させることが出来るものだな」

「え? え?」

「なぁレオン……なぜ、おまえごときに私があの二人の処置について偉そうに説教されねばならんのだ?」


 私の言葉にレオンはようやく自分が失敗したことを悟ったようだ。というよりも牢屋の中で既に(・・)失敗しているのだから今さらではある。


「レオン、勘違いしているようだから教えてやろう。私があの二人を殺すのは部下の手前というだけではない」

「え?」

「私はあの二人が不快だから消す。それだけのことだ。路上に排泄物が落ちているのを見れば不快だろう? 不潔だし見るのもストレスだ。だから片付ける。それだけのことだ。お前は排泄物を処理するのに、わざわざ小難しい理屈が必要なのか?」


 私の言葉を聞いたレオンは何も答えられない。ガーゼルとアルマダを排泄物と断言した私の意思が本物であることをレオンは理屈抜きに察してしまったのだ。


「それからレオン、お前に一つ問いたいのだがな」

「……」


 私の言葉にレオンは何も答えない。いや、答えることは出来ないのだろう。頭を押さえつけている手からレオンの恐怖による震えをしっかりと感じており、その恐怖により答えることが出来ないのだろう。


「なぜ、私がお前ごときに呼び捨てにされねばならんのだ?」

「え……」

「どうした?」

「な、なんで?」

「なぜ知ってるかだと? 死刑囚との面会に何の監視もつけないわけないだろう?」

「え?」

「脱獄の手引きをするかもしれない。そんな可能性があるのになぜ監視されてる事を想定しないんだ?」


 私の言葉にレオンの顔色がサッと青くなった。


「殊勝な態度をとれば減刑ができる……か。私がいつ減刑について言及したというのだ? お前ごときの意思が私より優先される根拠とやらを示してみろ……ん?」

「ち、違います!!」

「ほう……何が違う? 言ってみろ」

「あ、あれは……反省を促すために」

「つまり、表面上取り繕えば私をだませるといいたいわけか。どこまでも舐めてくれるな」

「ち、違います!!」

「黙れ……何も違わない」


 コキン……!!


「あぁぁぁぁぁぁっぁ!!」


 レオンの口から絶叫が発せられたのは私がレオンの左肘を脱臼させたからだ。私はレオンの絶叫を無視して話を続けた。


「レオン、お前の頭の中はどうなってるんだ? なぜ私がお前達家族に配慮するという甘い幻想を抱けるのか本当に不思議だよ」

「ひっ!!」

「お前()排泄物なみに不快な存在だな」

「ひぃ!! お許しください!! お許しください!! お許しください!!」


 コキン……


「ああああああああぁぁぁっ!!」


 私が今度は右肘を外すと再びレオンの口から絶叫があがった。


「ウォルター」


 レオンの絶叫を無視して私が名を呼ぶと、一人の執事が執務室に音もなく現れた。


「あのアホウ二人はどうしてる?」

「はっ、レオンの言葉に気をよくしたようで、殊勝げな態度をとっております」

「ほう……このアホウの口車にのったというわけか」

「はい。屋形様が迷っているという言葉を真に受けております」


 私は自然と込み上げてくる()みを抑えることが出来なかった。私がレオンを送り込んだのは処刑まで生き残る可能性があると誤解(・・)させ、処刑の寸前に絶望の度合いを増すためだ。それが労せずして出来たのはレオンの功績と言えるな。


「レオン、お前は本当に運の良い男だな」

「え?」

「あの二人をもくろみ通りに操ることができた。お前の功績だ」

「操る?」

「お前を使ってあの二人の思考を誘導できたと言っているんだよ」

「え? え?」


 私の言葉の意図するところを謀りかねているようで、レオンは呆けた顔をしている。


「あの二人は出来るだけ絶望に染まって死んでもらわなければならないからな」

「え?」

「わからんか? 処刑台の上で惨めったらしく、泣き喚いてもらわなければならんのだ」

「ど、どうして?」

「理由は二つあるが、お前に話すつもりはない。お前は最後まで私の手駒として役に立つのだな」


 私はそこで話を打ち切るとウォルターがレオンの肩を掴んで無理矢理立たせるとそのまま外した両肘を入れる。


「ぐぅ……!!」


 レオンは痛みに耐える表情を浮かべるが、すぐに痛みが治まったのだろう。恐怖に満ちた目で私を見ている。


「ウォルター、そいつを連れて行け。立場をわきまえぬ行いをした場合、お前の裁量において処分しろ」

「御意」

「ひ……」

「行くぞ」

「ま、待ってくだ……」


 ウォルターがレオンに小声で何か囁くとレオンの顔色が一気に青くなる。レオンはフラフラと幽鬼のような足取りでウォルターに付き従って部屋を出て行った。

 レオンという希望がまったく役に立たなかったことをあの二人は知らない。だからこそ、処刑の日にその落差に絶望することになるだろう。


「最期くらいは役に立ってくださいよ……父上殿、継母殿」


 私は邪悪な()みを浮かべて、呟いた。

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