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侯爵は報復の刃を振るう①

「ジオルグ様……いえ、屋形(やかた)様、お帰りなさいませ」


 そう言って一礼するのはザーフィング領の領都レグノスにある屋敷を取り仕切る執事長であるヴァンスだ。

 ヴァンスの言葉に従って他の使用人達も一斉に頭を下げる。一糸乱れぬ様子に私はザーフィング家に仕える者達の質の高さを再確認する。

 ちなみに屋形(やかた)とは、ザーフィング侯に対する尊称である。家臣の中には私を名のジオルグで呼ぶ者、屋形と呼ぶ者がいるので、明確な区別があるわけではない。


「みな出迎えご苦労。みな元気そうで良かったよ」

「もったいないお言葉でございます。この度、無事にザーフィング侯爵位を継承されたこと、心からお喜び申し上げます」

「ありがとう。ヴァンス、これからもよろしく頼む」

「もったいないお言葉でございます」


 ヴァンスは再び一礼する。頭を上げたヴァンスは私の後ろに立つ、執事、侍女達に視線を向けるとゆっくりと微笑んだ。


「お前達もよく王都から屋形様をお守りしてくれた。さすがに疲れた事だろうから今日の屋形様のお世話は我々に任せ、お前達はゆっくりしなさい。よろしいでしょうか?」

「うむ。それで構わない。各自ゆっくりしておくように」


 ヴァンスの提案を私は即座に肯定した。今日は軽めの仕事を行い私もゆっくりするつもりだ。


 王都から連れてきた使用人達は揃って一礼すると私の荷物を運び込み始める。しかし、ここも私の屋敷であるので、それほどの量ではない。


 私は執務室へと直行すると、そのまま書類の決裁を行う。決裁すべき書類は優先順位をつけているので、重要なものから決裁をしていく。わずか一時間ほどで書類の決裁を終えたところでヴァンスが声をかけてきた。


「屋形様、お疲れ様でございました」

「ああ、しかし、ヴァンスに屋形と呼ばれるのは中々新鮮だな」

「ふふ、今まで通りジオルグ様とお呼びしようとも思いましたが、自分なりのケジメと思いまして、呼び方を屋形様とさせていただきました」

「そのように呼ばれると私も身が引き締まる思いだ」

「ご冗談を、屋形様は先代を失われてから常に気を引き締めておられました」

「理由はわかるだろう?」

「当然でございます。屋形さまへの無礼な扱いに何度我らが処分しようとしたか……」

「お前達を止めるのが一番大変だったよ」


 私はヴァンスの言葉に苦笑交じりに返した。この五年、ガーゼル達の私への対応を見て、多くの部下達がガーゼル達を殺そうとしていたのだ。私はそれを一々止めねばならずそれはかなりの労力を要したのだ。

 もちろん、私が皆を止めたのは、自分の復讐のためだし、自分という人間の覚悟を皆に見せるためであった。


「それもあと四日だな」

「はい。何人かはあの二人を見て、激情に駆られそうになる者もおります」

「それも仕方ないな。自分達の忠誠を踏みにじられたのだからな。だが、私の命令をきちんと守っているのはさすがだ」

「ありがとうございます。屋形様にそうおっしゃっていただければ報われるというものです」

「ああ、そうそう。あの二人はどうしてる?」


 私の問いかけにヴァンスは一瞬不愉快な表情を浮かべた。その表情は一瞬だけのものであり、多くの者は気づくことの出来ないレベルである。


お変わりなく(・・・・・・)過ごしております」

「そうか、愚かだな……」

「御意」


 ヴァンスは私の言葉に恭しく答えると一礼した。ヴァンスのお変わりなくという言葉はガーゼル達が、釈放を訴えている。上位者として振る舞っているといったところだろう。


「ふむ……まぁあと四日の命だ。レオンに対応をさせることにするか」

「あの小僧にですか?」

「レオンには私に掛け合うと言わせておけば、あの者達は希望を失わずに済むだろうな」

「随分とご配慮をなさるのですね」

「誰だって死刑囚には優しくなるものさ」

「なるほど……それではレオンを早速よびましょうか?」

「そうだなわずか四日だが親子の語らいをさせてやろうではないか」

「承知いたしました」


 ヴァンスは一礼すると執務室を出て行った。


 しばらくして、ヴァンスはレオンを連れて戻ってきた。レオンの表情は強張りきっており、顔色も悪い。


「レオン。よく来てくれた」

「……はい」


 私は和やかな雰囲気でレオンに語りかけるが、レオンの表情は硬いままだ。


「ほう、少しは知恵をつけたようだな」


 私はそう言うとレオンにニヤリとした()みを向けるとレオンはわかりやすくビクリと身を震わせた。

 もしレオンが私の和やかな雰囲気に気を緩めるようであればレオンはヴァンスに折檻を受けたことだろう。ここに至ってレオンも、ようやく処世術というものを、身につけることになったわけだ。


「レオン、ガーゼルとアルマダが檻で喚いているらしい。お前が行って宥めてきてやれ」

「え……その、よろしいのですか?」

「ああ、構わない。しっかりと話を聞いてやれ」

「は、はい」

「二人の態度次第では待遇を考えてもよい」


 私の言葉にレオンは頭を下げた。


 その様子を見て、レオンはガーゼル達の助命がかなうのではないかという希望を持ったようである。

 まぁそんな事はないのだが、それを信じるのはレオンの勝手、ガーゼル達の勝手というものだ。


「さて、レオン話は終わりだ。あの二人の不安を取り除いてこい」


 レオンは一礼すると妙に軽い足取りで出て行った。


「よろしいのですか?」


 ヴァンスの問いかけに私は皮肉気に嗤う。


「先ほども言ったろう。誰だって死刑囚には優しくなるものだとな」


 ヴァンスは無言で一礼した。

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