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バカがやりやがった

「ジオルグ様、婚約を破棄させていただきますわ」


 突然、ノックもなしに執務室に入ってきた令嬢が言い放った言葉がこれである。


「君は何を言ってるんだ?」


 そう呆れながら言った私を責めることなど誰にもできないだろう。いきなり執務中の私に不躾な言葉を言い放って不愉快にならないはずはない。それが私、ジオルグ=レオムス=ザーフィングの婚約者(・・・)であるフィオナ=セレンス伯爵令嬢から発したものであってもだ。


「これだからジオルグ様のような愚鈍な者との会話は疲れるのよね」


 フィオナは醜く顔を歪ませながら私に嘲りの声を浴びせてくる。フィオナの顔の美醜は決して悪いものではなく一般的には美人の部類に間違いなく入るはずであるが、ここまで醜く映るのはやはり表情にはその為人が表れるからであろう。


「君と私の婚約は家同士の政略的なものだ。その家同士のつながりを個人の意思で破棄するようなことはそちら(・・・)にとって望ましい事ではないと思っているが?」


 私の言葉にフィオナは限りなく蔑んだ視線を私に向けてくる。


 私としては確かにフィオナに対して恋愛感情が乏しいが婚約者として将来の伴侶として歩み寄ろうと努力をしてきた。フィオナの視線を見る限りその努力は全く実を結んでいないことは明らかだ。


「兄上、往生際が悪いですよ」


 そこにもう一人の人物がこれまた嫌味たっぷりな声を発しながら入ってくる。その人物は、私の腹違いの弟であるレオンだ。

 レオンはごくごく自然にフィオナの腰に手を回すとフィオナはうっとりとした視線をレオンに向け、レオンもそれを受けて愛おしそうな表情をフィオナへ向ける。


「要するにセレンス伯爵令嬢(・・・・・・・・)は私の弟であるレオンと恋仲になったために私と婚約を解消したいというわけかな」


 私の言葉に二人は歪んだ嘲笑を私に向けながらいう。


「ええ、申し訳ありませんわね。あなたよりもレオン様の方が男としてもザーフィング侯爵家を担うお方としても遙かに上よ」

「兄上、恨むのなら自分の能力の低さを恨んでください」


 二人は声を揃えて私に嘲りの言葉を浴びせてくる。ある意味、品性の醜さが二人の顔に表れており実にお似合いと言える。


「そうか。それで確認したいことがいくつかあるのだが答えてもらおう」


 私の言葉に二人はまたも嘲りの表情を浮かべる。


「とりあえず、セレンス伯爵令嬢は先ほどレオンがザーフィング侯爵家を担う者と言ったがどういう意味かな?」

「はぁ、レオン様が次期ザーフィング侯爵となるのだから当然でしょう」

「つまりセレンス伯爵令嬢は、次期ザーフィング侯爵夫人となるつもりと言うことかな?」

「ええ、当然よ。私こそが次期ザーフィング侯爵夫人よ。現侯爵様に疎まれているあなたがザーフィング侯爵となることは決してないわ」


 フィオナの言葉に私はため息をつきそうになったが、かろうじてこらえる。その努力は称賛に値する者なのは確実だ。


「そうか、そのことをセレンス伯爵も夫人もきちんと把握しているわけかな?」

「もちろんよ。お父様もお母様も承知の上よ」

「なるほどな」


 私はここでレオンに視線を向け、そのまま言う。


「レオン、お前も自分が次期ザーフィング侯爵と思っているわけか?」

「当然だろう。父上より聞いている」

「私は聞いてないがな」

「なぜお前にそんなことを伝える必要がある?」


 レオンの声は嘲り混じりであり、不快なことこの上ないのだが、そこを耐えて話を続けることにする。


「私もザーフィング侯爵家の者なのだから聞く必要はあるだろう」

「お前ごとき前妻の出来損ないが聞く必要はないだろう」

「そうは言っても私が侯爵家の仕事をしているのだから」

「黙れ!!」


 レオンは私の言葉を大声で遮る。


「貴様のような穀潰しが我がザーフィング侯爵家のために尽くすのは当然であろう。いや、貴様のような出来損ないを使ってやっているだけありがたく思うがいい!!」

「そうか……悪かった(・・・・)

「ふん、申し訳ありませんだろう。貴様は本当に口の利き方を知らんな」


 レオンは醜く口を歪め限りなく不快な表情を私に向け言う。


「そのことは父上、義母上も承知というわけだな?」

「もちろんだ」


 私の言葉にレオンは自信たっぷりに答える。自分が絶対的に有利な立場にいて決して傷つくことのない自信があるときに浮かべる者が浮かべる特有の表情だ。


「そうか……お前達に容赦をする必要はないな」


 私はそう言うと視線を二人の背後に向けると言い放った。


「ロイ、アイシャ、この二人を捕らえよ」

「「はっ!!」」


 私の命令に端的に答えるとレオンとフィオナが床に組み伏せられた。



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