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【完結】最強の女騎士さんは、休みの日の過ごし方を知りたい。  作者: ろうでい
十一話 煌めく宝物《リユースショップ》
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(2)

――


「あぐ、ッ!」


「!! マグナッ!?」


 まるで、何かに弾き飛ばされたかのように。

 マグナ・マシュハートの身体は近くに建っている廃屋の壁に叩きつけられた。


「……ふん、どうした。オキトの騎士団とはこの程度か」


 『ランディル』と名乗る魔族は、紅の瞳にかかる白銀の髪をかき上げて、にやけた笑いを見せた。

 取り押さえようとして抵抗をしたランディルに対し、リーシャとマグナの二人はやむを得ず抜刀。戦闘を開始したが―― いつの間にか、マグナの身体は吹き飛び、壁に叩きつけられていたのであった。

 

 リーシャは急いでそこに駆け寄り、マグナの背中を支える。


「マグナッ!!だ、大丈夫!?」


「り……リーシャ、様……。へ、平気です。ボクの事は気にしないで……!」


 身につけている軽鎧が衝撃を和らげたのであろうか。……すぐに立ち上がれる状態でないのは、叩きつけられた音と身体の動きで、一目瞭然であった。そのマグナを見て、リーシャ・アーレインは怒りを隠せずにはいられない。


「……ただじゃおかないわよ、アンタ……ッ!!」


「……ふん。我が力の前にどう立ち向かうというのだ?貴様のような娘が」


「はアアアアアッ!!」


 ショートソードの刀身を前に突き出し、突進に近い形で相手に踏み込むリーシャ。一瞬でランディルとの距離を詰め、上段に刀を振り上げる。完全に相手にダメージを与えようとする動き。しかもその動きに躊躇はなく、迷いのない太刀筋で相手に斬り込んだ。


「! ほう」


 半身を前に出し、リーシャの方へ斜め右へ近づきながらその太刀を避けるランディル。リーシャの剣が風を切る音が鳴り、空振りに終わった事を指し示す。

 そして、ランディルの右拳が再び光り輝く。

 それは―― 先ほど、マグナを吹き飛ばした『技』。接近してきたマグナに対し、この魔族の男はこの拳で腹部に掌底を喰らわせ……その瞬間、マグナは吹き飛んだのだ。

 その拳を、今度は大振りの上段斬りを空振りしたリーシャの左横腹に……。


「させるかァァッ!!」


「……ッ!? なにッ!?」


 大振りの太刀は、あえて避けさせるためのフェイント。

 地面に叩きつけそうになる刀身。リーシャは手首を捻って持ち手を回転させ―― バットのスイングのように下段から中段へ振り抜くような斬撃を放った!


「ぐッ!」


 ランディルは慌て、バックステップでそれを回避する。

 再び空いた距離を詰めるようにリーシャはそのバックステップに対応。前へ跳躍しながら、右の跳び膝蹴りを相手の顎に向けて喰らわせようとする。


「ちィッ!!」


 ランディルの顎を掠める、その膝蹴り。すんでの所で回避をしたランディルは、リーシャのその膝裏に手を入れて掴み、思い切り上へと投げ飛ばした!


「やアアッ!!」


「!!」


 またしても、すぐさま力の方向を変えるリーシャ。

 上空に放り出されたリーシャは、上に向かう力に身体の捻りを加え、逆に地面に向かう力になるように利用する。ランディルの頭頂部を狙い澄ます蹴りを思い切り放つが……。


 ランディルは、それをすぐに見極めて頭の上で両手を十字に組んで防御。

 リーシャは受け止められた事を悟ると、ガードされた腕を蹴り上げて後方転回。相手との距離をとる。


 攻防の後の、一瞬の静寂。

 荒く息をつく二人は、互いに同じ事を考える。


(なによ、コイツ……!!)


(なんだ、この少女は……!!)


 怒りに任せて全力で攻め込んだリーシャ。そしてその神速の攻撃を全て回避しきったランディル。お互いが、違う種族である相手の身体能力に驚愕していた。


(……寝不足の身体とはいえ、本気で攻め込んだのに……。一発も直撃しないなんて……そんな……ッ!)


(人間……ましてこんな子どもが、あんな身体能力を秘めているとは……。不意打ちを喰らわせた先ほどの女騎士とは格が違うようだな。……くくく、面白い)


 驚いた表情のままのリーシャとは対照的に、魔族の男……ランディルは、顔に右手を覆わせて、肩を揺らして笑い始めた。その手の間から、紅く光る瞳を覗かせて。


「……いいだろう、騎士の娘よ!どうやら貴様には、このランディル・バロウリーの真の力を見せる資格があるようだな……!我が魔力の餌食となるがよい!」


「学校の男子みたいな事言ってないで、さっさとかかってきなさいよ……ッ!だいたい幾つなのよ、アンタ!さっきからちょっと痛々しいわよ!」


「くくくく……。虚勢を張れる余裕があるのも、ここまでだぞ……!」


 ランディルの両手の光が増す。魔力が高まり、周囲の大地が震え、風で小石や砂が巻き上がる。どうやら、真の力というのは単なる脅し文句ではないらしい。

 リーシャは、剣を中段に構え…… その攻撃に、身構えた。


「これが我が魔皇拳(まこうけん)……!拳に魔力を宿し、触れたものに魔法を直撃させる。くくく……人間の魔術師などとは比べものにならぬほどの強力な魔法をな……!」


(……くそ、単なる中二病じゃなくて、実力を伴っているタイプか……!わたし一人で対応できるか……!?)


 ランディルの拳が、そして身体全体が魔力のオーラに満ちあふれる。高笑いをしながら、ゆっくりと拳法のように両手を前に構える相手。ゆっくりと右足を前に出し……そして、一気にリーシャとの距離を詰めようと、ランディルが左足で大地を蹴り出した―― その時。


「はあああッ!!」


「ぐべええええええ!!」


 不意に、ランディルの顔面に炸裂するハイキック。奇声をあげながら吹き飛んでいく魔族の男。その顔面を蹴り、空中で一回転し、地面に片膝をついて着地する影。


 その影が、街灯の明かりに照らされて姿を現した。


「る……ルーティア……ッ!?」


 リーシャは驚き、その名前を呼ぶ。


「……うー……。あ、頭に響く……」


 ルーティアは立ち上がると、頭を押さえて何かに耐えている様子だ。


「あははは……お酒飲んですぐに動くのは流石のルーちゃんでもキツいか」


 次いで、リーシャの後ろから聞き慣れた声がした。黒い帽子に、黒いローブ。キラリと眼鏡が街灯に光る。その人影に、リーシャはまたしても驚いた。


「マリル!な、なんでアンタ達ここに……!?」


「いやー、ルーちゃんもアタシも今日定時だったから、ケラソスで呑んでたのよ。そしたら緊急通達があって付近の王国団員は現場に急行って事だったから。すぐ近くだし、慌てて来たってワケよ」


「……!」


「まさかリッちゃんとマグナちゃんが現場にいるとは思わなかったけど。でも、これでもう安心だね」


「……ふ、ふんっ!わたし一人で十分だったのに、余計な事してくれたわね」


「おー、今日もいいツンデレしてるねー。……さ、とりあえずパパッと仕事しましょ。アタシはマグナちゃん連れてすぐお医者さんのところ、行ってくるわ。立てる?」


「は、はい。歩けます」


 マリルは壁に寄りかかって座るマグナの手をとって、立ち上がらせた。あれだけの衝撃で壁に叩きつけられたというのに、マグナは意外なほどにしっかり歩けている様子だ。それを見送りながら、リーシャは安堵のため息をついた。


 一方で、ルーティアは先ほど蹴り飛ばした魔族の男の方を向いて構えをとる。非番でも常に帯刀を許可されている騎士団員。間に合わせの小さな剣で無いよりはマシ、というレベルだが……武器に頼るような戦法をとるルーティアではない。


「……魔族か。随分派手に暴れているな」


「ふふふ……もう一人、人間が増えたか。良かろう、何人でかかってこようが……」


 蹴りを喰らって倒れていたランディルはむくり、と起き上がって頬についた土を払いにやりと笑った。


「この俺を蹴り飛ばした代償はきっちり払ってもらうぞぉぉッ!!はぁーっ、はっはっはっは…… は……」


 再び、ランディルの両腕に魔力の光が宿る。眩いほどの魔力とそれを物語るオーラが…… 何故か、一瞬で消えた。


「ん?」


 ルーティアも、その様子に首を傾げた。臨戦態勢をとったと思った相手から、急に戦意が消え失せたからだ。


「……す、少し待て。着信が入った」


「ちゃくしん?」


 何のことか分からないが……どうやら、魔族の男に何か緊急事態が起きているらしい。

 ランディルは尖った耳につけている、銀色のピアスに手を触れる。ルーティアに半身を向けて、腰を低く屈める。左手をパーにしてこちらに向けて『待ってろ』というポーズをとりながら……口元を左手で隠して、腰を低く屈めるのだった。


「……あ、もしもし。ど、どうしたの?何か用事?……え、いや……仕事は、終わってるんだけど。ちょっと遅くなったから夕飯ついでにちょっと呑んでて……。……あ、早く帰ってこいって?あー……うん」


「…………」


「…………」


 マリルは、マグナを連れて医者に向かったところだ。ルーティアとリーシャは、ただただ呆然と……ランディルのその様子を見守っている。

 何故だろう。隙だらけで、どこからでも攻撃ができそうなのに…… 見知らぬ誰かと会話をしているような男の様子に攻め込む事に、どこか躊躇いを感じてしまっているのであった。


「い、いや……連絡しなかったのはホントごめんって。明日休みだからちょっと浮かれちゃってて……。すぐ帰るからさ、うん……。あ、なんかいる?帰りに買ってくよ?……あー、明日の朝のヨーグルトと、バナナと……」


「……ルーティア、隙だらけよ」


「いや、分かっているんだが……。なんだか、アレが終わらないと攻撃しちゃいけない気がしてきて」


 口元をおさえ、ペコペコと頭を下げながら何かの会話を続ける男に、先ほどまでの威圧感は全くない。むしろなんだか……少し、可哀想な気さえしてきてしまう。


「わかった。ホント、ごめんね。すぐ帰るから。うん。……あ、サラも待ってる?ご、ごめん、すぐ帰るから。じゃ……うん」


 男は深々と、その辺りの建物の壁に向かって頭を下げると…… 耳のピアスに、もう一度触れる。

 ごほん、と一つ咳払いをして、少し赤面をしながらランディルはルーティアとリーシャの方を向き直り…… そして、精一杯胸を張って、宣言した。


「俺は急用が出来たので今日はここまでだ!魔族の威光に震えて眠るがいい、人間共よ!はぁーっはっはっはぁぁ!!」


「「 え 」」


 高笑いをしながら受けた台詞の内容に、騎士二人は固まる。

 その隙を狙ったかのように、魔族の男は右手を天にかざし…… 光り輝く魔力を解放した。雷のように、辺りが一瞬光ったかと思うと…… ランディルは、その姿を消していた。どうやら転移の魔法を使った様子だ。


 ひゅう、と夏の夜の風が、ルーティアとマリル、そして倒れている柄の悪い男達の間に吹いた。


「あの耳につけていたの……確か魔法による通信装置よね。誰と会話していたのかしら」


「……逃げた、というわけではないようだが……なんだったんだ」


 頬をかいて、ルーティアはこれからどうしようかと戸惑っている様子である。

 リーシャも同じようで、辺りに倒れている男達をキョロキョロとみながら、様子を伺っていた。


「知らないわよ……。くそ、アイツ、マグナにあんな事をしておいて姿を消すなんて……!すぐに合流を…… ん?んん?」


 踵を返そうとしたリーシャは、倒れていた男達の顔をジッ、と見る。

 気絶をしている、柄の悪そうな男が数名。どうやら先ほどのランディルと名乗る魔族にやられたようだが…… リーシャは、白目を剥いているその男達の顔を次々と見ていった。


「?どうした、リーシャ」


「こ、こいつ……こいつも!手配中の……犯罪者グループの一味だ!」


「え……」


「こいつは強盗犯!こいつは詐欺担当で、こいつは武器密売!……こ、この倒れている連中みんな……王国で指名手配をしている、悪党共よ!」


「…………」


 事態が飲み込めない、少し酔っ払った状態のルーティアは、ただただそこに立ち尽くしている事しか出来なかった。


――



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