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(7)

――


「うー、もうおなかいっぱいー……」


「あ、アタシも……。流石にちょっと、ファミリー盛二つは頼みすぎたかな……」


 数十分後。お腹を抱えてその場に肘をついてため息をつく女子二人。通常の胃袋を持つ二人にとっては流石に焼肉盛り合わせ二つ、計八人前の肉の注文は些か豪快すぎたようだ。かなりの量を食べたような気がしたが、それでも大皿の半分より少し多い量が減ったような様子。カルビも、ロースも、ハラミもまだまだ残っている。


「……ルーちゃん、残りの肉、イケる?」


 虚ろな目でルーティアの方を見るマリル。

 その目に答えるように、女騎士は米粒を頬に一つくっつけながら親指を上に立てた。


「勿論だ。追加で注文しようかどうか迷っていたところだぞ」


「……ホントに、今日ばっかりは助かるわルーちゃん……」


 この人と一緒に来れば多少欲張った注文をとってもどうにかなりそう、という信頼をマリルは目の前で米と肉を頬張る女騎士に抱いたのだった。


――


 そして、二つの大皿の上は綺麗に何もない状態となった。

 この後もルーティアは食べたことのないタン塩とホルモンを一人前ずつ注文。中ライスもおかわりをし、更にはお腹を落ち着かせると卵スープまで注文をした。

 一日の抑制から解放をされたルーティアの胃袋はここまで恐ろしいのか……と、マリルとリーシャはその食べっぷりに戦慄をしたのであった。


 全ての皿が片付けられ、鉄板の炎も消す。

 テーブルの上に平穏が取り戻されたその時、店員がバニラアイスを三つ、運んできた。


「お待たせいたしました」


「わー!きたきたー!おいしそー!」


 透明な器に円形に鎮座する、純白のバニラアイス。頂上に置かれたミントの葉は爽やかさを演出しており、見るだけでお腹の中の肉脂が浄化されそうな気さえしてきた。リーシャは目を輝かせながら器をとり、スプーンですくってその冷たい氷菓を舌に乗せた。


「……くー。いつもの十倍くらい美味しい……!」


「焼肉の〆も色々なパターンがあるんだけれど、アイスクリームもいいわよねー。あー、アイスコーヒーもおいしー……」


 生大を三つも飲み干したマリルはバニラアイスとアイスコーヒーで酔い覚ましを始めた。酒とお肉のダブルパンチに荒れ果てた身体が、こちらも浄化されていくような感覚を受けている様子だ。


「……どうだった?ルーちゃん。はじめての焼肉」


 ルーティアはバニラアイスを口に入れながら、ふう、と肩を下ろして微笑んだ。


「最高だった。空腹と疲れにこんなに合う食事方法があるとはな」


「確かにね。ある意味焼肉って、ストレス解消になるのかも。ガツンと食べて呑んで、空腹や日頃の鬱憤から解放される……。アタシもなんだか、焼肉の食べ方を改めて学んだかもしれないわ」


 ルーティアの恐ろしい食べっぷりに驚愕しつつも、あそこまで肉を堪能できる胃袋が羨ましい…… と、思わなくもないマリルであった。



 夕方に店に入ったが、外はすっかり暗くなっていた。気付けば、スズムシの鳴き声も聞こえてくる時期。街道のランタンもつきはじめ、夜が始まった。

 明日から休日を迎える三人は、その景色をのんびりと眺めていられる。金曜日の夜の贅沢な時間だ。これから、休みが始まる。その最高の優越感と、焼肉後の余韻が個室の中を包んでいた。


「……ちょっと、お腹いっぱいで動けないね……あはは……」


「いいじゃない……。わたし後で緑茶お願いしよっと……」


「私はこのチョコレートパフェを頼んでみようかな」


「「 ……好きにしてください…… 」」


 マリル、リーシャは満腹になった身体と心をしばし休ませようと、しばらくその場に留まり余韻に浸るのであった。


 そしてルーティアはこの後、甘味としてチョコレートパフェとあんみつを食し、この日の鬱憤にトドメを刺すのであった。


――


―― 次回 『煌めく宝物』《リユースショップ》

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