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(3)


――


 マリルがレンタルした鳥車に揺られ、三時間と少し。

 途中で朝食を食べ、少し休憩をした三人がその場所に到着をしたのは、まるで計ったかのように、開場時間の十時であった。


 空は晴れ渡り緑に栄える山々が迫るように展望できる、高原。

 チギート国が誇る雄大な大自然と、そこに点在するアンバランスな建造物の数々。

 海賊船。ジェットコースター。スカイバルーン。そして……観覧車。


 ここは、紛れもない『遊園地』であった。


「わー……!!」


 鳥車から降りたリーシャの髪を、高原の風が優しく撫でた。

 雨がすっかり上がった六月の空は、日差しも強く夏の気候に近い。白いミニワンピースに、タイツという夏らしい服装のリーシャ。麦わら帽子を風に飛ばないように押さえながら、キラキラとした目を入場門に向けた。


「これが……遊園地!漫画で見た事あるけれど、本当に来られるなんて思わなかったわ……!」


「ふっふっふ。ここは、アタシ一押しのチギート国屈指の遊園地なのさ。初めての遊園地からベテランのマニアにまで幅広く対応できる、理想のワンダーランドと言っても過言はない場所なのよ」


 続いて鳥車から降りてきたのは、マリル。薄いグリーンのTシャツとベージュのショートパンツにレギンスという、これも夏らしいラフなスタイルだった。マリルは得意そうに腕組みをしながら、リーシャの隣についた。


「あー、疲れた。マリル、帰りは運転任せるぞ……。……お」


 ここまで三時間、ひたすらガアの運転をしてきたルーティアは首を回しながら最後に鳥車から出てきた。黒と白のボーダーシャツに藍色のジーンズのルーティアは、その光景を見て思わず声をあげた。


「これが、噂に聞いていた『遊園地』か。なんだか……すごいな」


 勿論ルーティアも、生まれてから来た事のない場所である。歪でカラフルな建造物が広大な敷地に広がる姿は、おおよそ現実的ではない。まるで、夢の中の景色が広がっているような錯覚を覚える。


「で、何をする場所なんだここは」


「……流石ルーちゃん。期待を裏切らず、遊園地の事もさっぱりなのね」


 うむうむ、と何故かマリルは感心したように二度頷いた。


「超大型の娯楽施設。魔法科学と魔石技術の英知によって様々な乗り物やアトラクションが楽しめる、大陸民の憩いの場所よ。遊べるだけじゃなくて、敷地内に食堂があったり、身体を動かせる公園があったり……なかにはプールや動物園が一緒になっているという遊園地もあるのよ」


「それは……凄いな」


 アトラクションはおろか、中に入ったことも、そもそも遊園地を見る事も初めてのルーティアには「凄い」という曖昧な感想しか出てこないのであった。


「習うより慣れろ、でしょ!?さ、マリルもルーティアも、早くいきましょ!」


 マリルの手をとって入場ゲートに急かすリーシャに、はいはい、と従うマリルと腕組みをしてついて行くルーティア。周りにいるファミリー層と同じような構図になっていた。


――


「まずはここ、入場料金を払うわよ」


 三人は大きくカラフルな入場ゲートの隣にある、『入場券売所』と書かれた小さな小屋の前に着く。小屋の全面はガラス張りになっていて、係員のお姉さんがにこやかに三人に一礼をした。


「いらっしゃいませ。チギート国遊園地へようこそ。どちらの券を購入なさいますか?」


「券?」


 ルーティアは、購入所の壁に書かれた張り紙を見る。

 そこには『入場料金 100ガルン』『入場料フリーパス 500ガルン』と書いてある。


「フリー、パス?」


 入場というのはなんとなく察しがつく。おそらく、すぐそこにある入場ゲートにいる係員にチケットを渡し、敷地の中に入場をする事なのだろう。

 しかし『フリーパス』という聞き慣れない言葉に、ルーティアは首を傾げた。それを察したように、マリルは解説を始める。


「中に見える、色々な乗り物があるでしょう?あれに乗るごとに、お金がかかるというのが遊園地の前提なの」


「なるほど。乗り物に乗って楽しむのだな」


「でもいちいちアトラクションに入ってお金を払うのだと、金額が大きくなっちゃうし、面倒になっちゃうでしょ?短時間の滞在でいくつかのアトラクションに乗るだけならそのほうがいいんだけど……アタシ達は今日、閉園時間までここにいるつもりなの」


「ふむ」


「そこで、フリーパス!なんとそれがあれば……どの乗り物に何回乗ってもいいのよ!」


「な……なん、だと……!?」


 そう言いながら、マリルは券売所の係員に、「三」の指を出した。


「フリーパス大人三枚、お願いします!」


 言い切ったマリルに、何故かルーティアとリーシャは「おおー」と感嘆の声を漏らした。


「今日は一日、遊園地で閉園までぶっちぎりで遊ぶわよ!乗り物に乗りまくるも良し、景色を堪能するのも良し、思いで作りをするのも良し!梅雨のジメジメからの久しぶりの解放、皆の衆、大いに楽しもうぞー!」


 その手には、可愛らしいキャラクターの描かれた『フリーパス』と書かれたチケットが、燦然と輝いていた。


――


「わあ……!」


 静かでポップなBGMが流れる、遊園地。入園ゲートから真っ直ぐに降りていく階段の下からは、あちこちで様々な音が聞こえてきた。地鳴りのようなゴーッ、という音に続いて、悲鳴にも似た絶叫が聞こえてきたり、子どもたちの楽しげな笑い声が其処彼処で聞こえてきたりと、まるでその楽しさを象徴するような数々の音が鳴り響く。


 目の前にはゆっくりと、一定のリズムで回る観覧車が、巨大な時計のように悠然とそびえ立つ。その奥には、金属製のレールが空中に幾つも建造され、そこを何個も連なった箱のような乗り物が高速で走る。見回せば、城のような建物があったり、古代遺跡のような建築物があったりと、普段のオキト城周辺ではまずお目にかかれない光景が広がっていた。


「マリル!どこから行くの?わー、どれも乗ってみたいなー!あのメリーゴーランドもすっごいオシャレで可愛いし、あの水の上を走るジェットコースターもすごく面白そう……!」


 園内に入り、子どもっぽさが更に急上昇するリーシャは、興奮しながらマリルに言った。


「まあまあ、落ち着きなさいなリッちゃん。ほらコレ、園内の地図よ。さっき受付でもらってきたの。はい、ルーちゃんも」


「お、すまんなマリル。どれどれ……」


 ルーティアはマリルから受け取ったジャバラ折りのパンフレットを広げる。そして、そこに書かれている文言に驚くのだった。


「よ、四十以上も乗り物があるのかここは。すごいな」


「そのためのフリーパスだしねー。全部は回りきれないにしろ、とことん楽しむためには各々が乗りたい、やってみたいものは網羅しておきたいわ。という事で……」


 マリルはコホン、と一つ咳払いをしてルーティアとリーシャの肩を叩く。


「まずはじゃんけん!それで一番勝ちから順番に、乗りたいもののところに行くっていうのはどう?苦手だなー、と思う場合は待機ね!梅雨時で今日は混んでないし、待ち時間なしで回れるから待っているのも苦じゃないと思うわ。っていう事で……どう?」


「賛成!わたしはジェットコースターと、観覧車と、メリーゴーランドと……あー、どれ最初にしようかなー!」


「うーむ。私はさっぱり見当がつかないのだが……まあ、気になったもののところに行くとしよう」


 行きたい場所が明確に決まっているリーシャに、キョロキョロと辺りを見回すルーティア。それぞれの思いを決めるようにマリルが拳を上げ、それを見て二人も拳を空に向ける。


「そいじゃいくよー!じゃーんけーん……」


 そして三人は、その手を下に勢いよく下ろした。



――



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